第10話

 着替えを済ませて、男性陣をテントに中に戻す。

 水月と朝陽にはさっきのことを説明しておいた。すると、再開した時に押し倒したことを気にしたのか泣きそうな顔で謝られた。それでどうこうなったわけじゃないので、早々に謝罪を受け入れて慰めることに専念する。


 何というか久しぶりにお姉ちゃんらしいことをしている気する。むしろ、妹達が妹らしくしているのかな?普段からこんな調子だったらいいのに。


 戻ってきた男性陣にもさっきの事を説明する。大きな傷があったと説明するとお父さんが失神しかねないので、そこはオブラートに包んで話した。そうして、ダンジョンでのことをさらにいくつか質問されてようやくひと段落ついた。


「お疲れのところ、ありがとうございました。それでは明日の予定なのですが」


「明日、ですか?これ以上なにかあるんですか?」


「先程お母様と話したのですが、龍希さんには病院できちんと検査を受けて頂きます。怪我の件も、ちゃんとしたお医者さんに見てもらった方がいいですからね」


「そう言うことよ。だから今夜はここのキャンプに泊めてもらって、明日朝一で行くつもり」


「そういうことは先に言ってよ。でも分かった。あ、でも夕ご飯とかどうするの?いい加減お腹空いたんだけど」


 なんやかんやあって忘れていたのだが、ボクは一日以上何も食べていないのだ。思い出した途端にお腹が空いていて、そろそろ限界が近い。


「それでしたら、向こうでうちの隊員が炊き出しをしていますので――」


 続けようとした日高さんのセリフが遮られる。

 唐突に、頭の中に変な音が聞こえてきたのだ。それはみんなも同じだったようで、何事だと驚いている。聞こえてきたのは、鐘の音だった。それも海外の大聖堂とかにありそうな大きな鐘の音だ。それが等間隔で繰り返されている。

 数度なり終わると、今度は声が聞こえてきた。


【先日ぶりになるが、地球の意志である】


「うぇっ!?」


 思わず変な声が出てしまった。地球の意志と言ったら、日高さんの話に出てきたあの地球の意志なのかな?ボクは初めてだけど、他のみんなは聞き覚えのある声だったみたいだ。どこか納得したような顔をしている。

 女性のような男性のような、どっちともつかない中性的な声だ。でも若い人の声だということは分かる。


【少し前の事だが、世界で初めてのダンジョン攻略がなされた】


 いま世界で最もホットな話題は間違いなくダンジョンだろう。そのダンジョンに関する新情報がもたらされるのだ。これには世界中が固唾を呑んで続く言葉を待っていた。

 そして、この場では視線が一斉にボクに向いた。お前が関係しているんだろうと言わんばかりにボクを見ている。


 いや、まだボクと決まった訳じゃないでしょ!?他にもダンジョンから攻略して帰ってきた人がいるかもしれない!?


【これほど早く攻略されるとは、こちらも想定外であったため急遽このような形での連絡となった。まず、ダンジョンを攻略した者には祝福の言葉を送ろう。地球の予想すらも覆し世界最速でダンジョンを攻略したのは君だ、おめでとう】


 その言葉が言われたのと同時に、ボクの周りに花びらが舞い始める。日本らしく桜の花がぱらぱらと舞い落ちて、花吹雪みたいで綺麗だ。


 ……うん、やっぱりボクだったね。まあ十中八九そうだとは思っていたけど。まさか攻略していたとは思わなかった。ということは、セオリー通りでいくとあのビッグスライムがボスだったのかな?


【では続けて、ダンジョンに関する話をしよう。先日言い忘れたことがあったのでな。まずは、半年後にダンジョンの魔物が外に出てこれるようになる】


 何でそんな大事な事を言い忘れるんだ!!

 地球の意志が何者なのか知らないけど、かなりいい加減なやつだと思う。


【しかし、その国にあるダンジョンのうち十を攻略すれば止めることが出来る。数に関しては各国に十以上のダンジョンが出来るように調整しているから心配しなくていい】


十個か……ボクが一つ攻略したってことはあと九個攻略すればいいんだね。あまり運動が得意ではないボクでも攻略できたんだから、案外簡単かもしれない。


『そんな単純な話ではないですよ、マスター』


 そんなことを考えていると、眼鏡さんの声が聞こえてくる。


「簡単じゃないってどういうこと?」


『頭で考えてくれればそれを読み取りますから、口に出さなくても大丈夫です。それで今の話ですが、マスターはダンジョンを過小評価しているということです』


「(こんな感じかな?……別に過小評価してるわけじゃないよ。でも、ボクは運動神経ダメダメで、それでもボスっぽい魔物には勝てたじゃん)」


『そうですね、確かにマスターでも勝つことは出来ました。しかし、それは土壇場でスキルの力を引き出すことが出来たからです。そもそも運動神経が悪いと言っても、人間の運動能力にそこまで大きな差はありません』


 スキルの力って、あの時の白い靄みたいなやつの事? 

 そういえばステータスの話をしていた時にスキルについての話もしていたっけ。だったとしたら、スキルを使えば誰でも強くなれるんじゃないの?


『魔物とは総じて人よりも高い身体能力を持っています。それをスキルで補って戦う、これが基本的な魔物との戦い方です。ここまではいいですか?』


「(う、うん)」


『しかしスキルにも強化の上限というものはあります。無限に強くなれるわけではありませんからね。もしマスターの持つスキルが普通のものであったなら、例え発動してもマスターに勝ち目はありませんでした。つまり、マスターの持つスキルが強力なものだったことが、あの勝利に大きく関係しているんです。それもとびっきり強力なものです』


 ところどころ怖いことを言われたけど、ボクが勝てたのはその強いスキルのお陰ってことだよね。じゃあボクは本当に運が良かったってことなんだね……いや、待てよ。そもそもダンジョンに巻き込まれた時点で運は悪い気がするぞ。


『まあ悪運が強いということで……それよりも話の続きです。そうは言ってもマスターと同レベルのスキルを持つ人はそういません。ですから重要なのが自身とスキルのレベル上げなのです。しかし、残り半年でボスモンスターと戦えるレベルまで鍛えるのは――時間的にかなりギリギリ。地球の意志もそこら辺は意地が悪いですね』


「(てことは、今の状況ってかなりやばいんじゃないの!?もし十個攻略できなかったら、世界中のダンジョンから魔物が溢れてくるんでしょ!?)」


『どの程度の強さの魔物が出てくるのかは分かりませんが、状況は悪いです。何かダンジョン攻略に乗り気になるような起爆剤でもあればいいんですが……』


 起爆剤なんてそんな事言われても……魔物がうようよいるようなダンジョンに進んで入りたがるようなものなんて――


 眼鏡さんから告げられたあまりの状況の悪さに、一人顔を青くしていたとき。続く地球の意志の言葉に大きく目を見開いた。


【さらにこの半年間に限り、ダンジョンで死亡することが無いように仕様を変更する。死亡と判定されると、蘇生され強制的にダンジョン外に排出される。その時に身に着けているものをランダムで落とし、レベルも一に下がる。そして、所持金のいくらかを手間賃として徴収する】


 この半年間だけは、ダンジョンで死んでも死ぬことが無い。死なないというか生き返らせせられているだけなんだけど。

 問題の地球の意志のほうから、あっさりと起爆剤を投下して来たよ……

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