互いの勇気
歩く屍
第1話 悲恋
現在中学生の
しかし、そんな彼女にも欠点があった。
例えば、目の前にいじめが起きていたら、どうするだろうか。
幼少の頃なら「助ける~」と自信満々に答えていただろう。
しかし、人間とは不思議なもので、成長するにつれて正義とは? と自分に問いかけることを忘れてしまう。
もしくは、それが分かっているけれど、やってしまうのだ。
いじめがその一つ。
そして、それを見た者は?正義を理解している者はどう行動すると思う。助ければいいだろう。
そう考える者が多いのではないだろうか? だがそれは、人の理想でしかないのだ。
動けない者、動ける者、あるいは人に助けを求めるものもいるだろう。
しかし、動ける者というのは、理想でしかない。
大抵の人は、こう行動する。傍観、葛藤、助けを求める。
あるものは、嘲笑い、ある者は無視する。
しかし、彼女はそうはしない。したくない。曲げたくないのだ。
そう信じているから、自分の持つ正義というものを……。
けれど、そんな行動ができるのは受け入れられるのは、ごく一部の偽善者だけだろう。
なんなら、偽善者しかいないかもしれない。
だからか、心に響かない者が、届悲凛という人物を嫌った。
しかし、正義感の強い彼女を気に入った者がいた。そう、いたのだ。
「友達を助けてくれてありがとな! 俺は
「えっと……どういたしまして?」
「なんで疑問系なんだよ。面白いやつだな。名前教えてくれよ。て、ごめん。初対面で馴れ馴れしかったか?」
「だ、大丈夫。私は、届悲凛」
学校の昼休みに、自分がまねいた空気に耐えきれず教室を出て、お弁当が食べられるとこを探しに廊下を歩いていた。
そこで、生徒をいじめていた者を見て、弁当を後にし途中で割って入ったのがそもそものきっかけだった。
いつもなら割って入った後に耳にする言葉、『勉強が苦手だからってまた評価稼ぎ?』、『なんでわざわざいじめに自分から飛び込んでんだろ? とばっちりだけはごめんだね』、こんな声ばかりだった。
でも、あのように普通にお礼を言って、普通に接してくれる人がいることを知り、彼女は自分のしてきた事が無駄では無かったことを確認できたのだった。
翌日、凛の教室へいじめに合っていた子とその友達である岸宮龍喜が昼休みに改めてお礼を言いに来た。
それからというもの、龍喜は何故か彼女の元へ昼休みに弁当を一緒に食べようと教室へ行くことが多くなった。
次第に打ち解けあった凛だが、龍喜は野球部に所属していて女子からの人気があったことを最近知った。
噂によると、誰にでも明るく優しく接してくれる人らしい。
だからか、そんな人と自分が一緒にいる所を他の人が見ていれば、誰だって嫉妬や憎悪の念を抱く者もでてくる。
「いっ!?」
「調子こいてんじゃねえよ!」
「な、に……が、」
「私達が先に好きになったのに……なんであんたなんかが……!」
「くっ……るし……」
トイレに呼び出された凛は、龍喜に恋心を抱いている女子2人にいじめを受けていた。
それだけにあらず、凛の首を両手で締め上げ、息が荒くなる。
意識が落ちそうになるその時、誰かが横から勢いよく入ってきた。
「おい、大丈夫か!しっかりしろ!」
「……岸宮君?」
「ああ、お前に勇気を教えてもらった俺だよ」
そこにいたのは、紛れもなく岸宮龍喜本人だった。
「こ、ここ女子トイレですよ! 分かってるんですか!? それに、なんでそんな女の為にそこまで!」
「分かってる。けどな、それとこれとは話が別だ! それに、届悲の首を締めてただろ。下手をすれば、これは殺人になるところだ。先生には俺の友達が知らせに行っている。大人しくここで待ってろ」
こうして、凛はホッとしたのか気を失い病院へ搬送された。
見舞いには、龍喜も顔をだしていたという。
凛の首には、少しだけ締められた跡が残ってしまったが、本人は守ってくれた龍喜のことで頭がいっぱいだった。
ここで初めて、これが恋心であることを凛は胸にある熱い何かとともに認識する。
あれから月日が流れ、凛達は中学三年へと上がり、これはもう運命とでも言えるかのような幸せな事が起こった。
それは、龍喜と凛が同じクラスになれたのだ。
話す機会も増えたが、今でもまだ告白までに至っていない。
卒業すれば、バラバラになってしまう事を恐れた凛は、思い切った行動にでる。
「岸宮君。今度、家に来て勉強しない?」
「俺が、届悲の家に? いいのか?」
「嫌じゃなければだけど……」
「俺も勉強苦手なんだよな〜。そうだな。お邪魔しよっかな」
こうして学校の休みの日に、凛の家で勉強会をする事にした。
女子の部屋に入るのは初めてだったのか、龍喜は落ち着かない様子を見せ、凛は学校では見せない彼の姿を見て新鮮に思えた。
勉強を一緒にしていれば、時間はあっという間に過ぎてしまう。
今日呼んだ本当の目的は、勉強ではない。
告白の為だった。
今だに女子からの人気が途絶えない龍喜であるからこそ、今のうちに告白しておこうと、決意を凛は固めていたのだった。
「ねぇ、岸宮君。改めてなんだけど、助けてくれてありがとう」
「なんだよ急に。もうお礼は貰ってるだろ? それに礼を言うなら逆だ、友達を助けてもらった時もそうだが、こうして勉強も教えてもらってるしな」
「ううん。違うの。そういうのもある……けどね、別の話。私は、大切なものを貰ったんだよ。」
「え? 何か贈り物したかな? 俺」
「分からないのも無理ないよ。私が貰ったのは……貰ったものは、貴方への想いだから」
「え、それって……」
「……」
窓から見える夕日と共に、
頬は紅色に染まる。
今までにない勇気をだしきった。
龍喜は、顔を腕で隠しているが、いきなりのことで頬に熱を帯びている。
深呼吸を1つ、2つ、3つ。
腹を括ったのか、気持ちに対する答えを口にする。
「実はな、俺はお前と出会う前から知っていたんだ。よくいじめられている子を助けていたの。その行動力と勇気に俺は憧れた。どんなにスポーツがうまくても、そういうものは心が芯から強くないといけない。けど、俺はお前と……届悲に会って変わることができた。前に進む事ができたんだ」
「岸宮くん……」
「けど……ごめん。お前の気持ちには、答えられない」
「うん……分かってるよ」
「え?」
「保健の谷口先生が好きなんでしょ?お弁当一緒に食べる時、たまに廊下を通る先生を見てたから」
「知ってて告白を……。やっぱり、お前には敵わないな」
「分かった、諦める。だからね、最後に1つだけ言わせて。私が勇気をだして告白したんだから、絶対、たとえ先生が相手でも……
「最後まで……諦めない! 全力全開の真っ向勝負!」
「それが聞ければ、もう何も聞かないし言わない。ありがとう……告白の返事してくれて、結果は残念だったけど……。ともあれ気持ちを言ってくれて嬉かった。もうこんな時間だから、玄関まで送るね」
こうして、告白だけ果たした凛は、龍喜を見送った。
振り返らず前を見て帰る彼の背中を見る。
すると、悲しみと悔しさが、目から雫となって落ち続け、一日中止むことはなかったのだった。
平日の学校の登校日、龍喜は保健の谷口先生に凛との
全力投打した結果、彼の涙と表情は清々しいものだった。
その後、お互いに勇気を出し合った二人だったが、付き合う事はない。
友人としてずっと、前を向いて再びあるきだしたという。
互いの勇気 歩く屍 @fb25hii
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