第15話 心の隅
講義の終わりを知らせるチャイムが鳴った。お疲れ様、と講義をしていた教授が言う。
今日も疲れた。歩乃目はゆっくりと目を閉じ、体の力を抜いた。
学生たちの話し声が聞こえてきた。みんなぞろぞろと講義室から出て行く。
歩乃目が目を開けると、横では
歩乃目は机の上の教科書とノートをカバンにしまい、寝ている真優の体を揺らした。
「真優ちゃん、起きてー!」
「......んあ」
「講義終わったよー」
「......まじか」
真優は驚いた表情をしていた。この時間の講義はいつも寝ている。
「いっつもこの講義の時間は寝てるよね。真優ちゃん」
「歩乃目よ......眠たいもんは眠たいんだからしょうがないと思うぞ、私は」
「......はやく教室出ようよ」
真優はよく分からない屁理屈を述べながら、一応、机の上に広げていたノートを片付け始めた。
そのとき、スマホが鳴った。歩乃目のスマホではない。
「おっ
真優がスマホを確認する。
「なんか呼ばれたから行ってくるわ」
「あらら、行ってらっしゃい」
そう言ってどこかへ行ってしまった。夏生ちゃんからの用って一体何だろう。
夏生はいつものように大学に来ていたが、なぜか今日はこの講義だけ出席しなかった。特に体調が悪そうな様子でもなかったし、なにか用事でもあったのだろうか。
それにしても、真優ちゃんだけへの用って何なのだろう。いつもは3人のSNSグループで連絡を取り合っているのに、1人だけに連絡するようなことって何だろうか。
一度考え始めたら気になって仕方がなくなってしまった。もしかして、人に言えないような悪いことをしているのだろうか。とりあえず、歩乃目は真優に「夏生ちゃん、何かあったの?」とだけメッセージを送った。
歩乃目はカバンを持って講義室を出た。さっきまでたくさんいた学生はもう誰もいなかった。
歩乃目は1人で帰った。少し、寂しかった。
歩乃目は湯船につかって真優と夏生のことを考えていた。
最近3人でゆっくりおしゃべりしてないなぁ。ちょっと前にみんなで居酒屋行くって約束したけどちゃんと行けるかなぁ。
とりあえず6月の私の誕生日が来たら誘おう、そう思った歩乃目はお風呂から出て寝る準備をした。
次の日になっても真優に送ったメッセージの返信は来ていなかった。
歩乃目は大学に行くと2人に聞いた。
「真優ちゃん、夏生ちゃん。昨日はどうしたの?」
その問いに、2人は目をそらした。
「いや、特に何もなかったぞ。だよな、夏生」
「うん」
......絶対何か隠してる。歩乃目の直感はそう言っていた。
しかし歩乃目がなんと聞いても教えてくれなかった。
そんなに隠さなければいけない事ってなんだろう。なんで2人だけの秘密にするのだろう。もしかして私は嫌われてるのだろうか......。
歩乃目は考えれば考えるほど、自分だけが仲間はずれにされている悲しさと恐怖に襲われた。
「もしかして、私ってそんなに信用ない......?」
歩乃目は心の内を声に出していた。
真優が慌てて言う。
「そんなことはないぞ! 歩乃目は私の一番の友達だ」
真優の口から発せられたその嘘偽りのないであろう言葉が歩乃目の心に刺さる。
その言葉は嬉しい。でも、そんな友達に言えない事って何......?
歩乃目の心にはどんどんと不信感と悲しさがこみ上げてきた。
しかし、今はこの気持ちをどうすることもできなかった。だから2人の前では心の隅に置いておくことにした。
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