第4章
第14話 物語
暖かい春の朝がやってきた。窓の外では、風に吹かれて桜も舞っている。私が大学生になって2回目の春。今日は白色のシャツとベージュのカーディガンを着た。机の上の「
カバンを持って玄関を出ると、川沿いに立っている桜の木を見ながら大学に向かう。道を歩いていると、途中で黒猫が前を横切った。
私は新年最初の登校日ということもあって、いままでよりも早くに大学に来てしまった。いつも一番初めに来ている
しばらくして
「お、新年度早々いるじゃねえか! おはよう!」
そう言うと、真優は隣の席に座った。
「おはよう、真優ちゃん」
「ついに2年生になったな。嬉しいけど、講義の内容も難しくなるんだろうなぁ......」
「まあ......それはしょうがないよ。一緒に勉強しようよ」
「やった。優等生で天才な歩乃目に教えてもらえるのなら大丈夫だな!」
真優ちゃんは私をキラキラした目で見ていた。なにか勘違いしているみたいだ。
「......結局勉強するのは自分だよ?」
「......知ってる」
新年度そうそう元気だなぁと、机に突っ伏してしまった真優ちゃんをみて思った。
「まだ夏生ちゃん来ないね」
「そうだなー。なんか遅いな」
そのうち来るだろ、と言って夏生ちゃんが来るのを2人で待った。
しばらくして夏生ちゃんはやってきた。そして真優ちゃんの隣に座った。
「おはよう2人とも」
夏生ちゃんがこっちを向いて言った。
「おう、おはよう!」
「おはよう夏生ちゃん」
今日もいままでと同じような眠そうな顔をしている。講義を受けるのは、やっぱり面倒そうだ。
実は、私は夏生ちゃんが怖かった。
去年、夏休みが終わって初めて4人が集まったとき、私は
私には夏生ちゃんも別人に見えてしまっていたのだ。それに成美ちゃんの事件もあったから、よけいに怖く感じていた。今でも夏生ちゃんのことは、心のどこかで疑っている。
しかし成美ちゃんとは違い、夏生ちゃんは夏休み前と何も変わっていなかった。だからずっと私の考えすぎだと思い、考えないようにしてきた。
「実はもうすぐ私誕生日なんだよねー」
突然、夏生ちゃんが口にした。
夏生ちゃんの誕生日が5月なのは、私も真優ちゃんも知っている。
夏生ちゃんのつぶやきに真優ちゃんが言う。
「じゃあもうすぐお酒飲めるんだな」
「そうなの。先に大人になっちゃって悪いねー」
夏生ちゃんはすごくニヤニヤしながら言った。真優ちゃんは悔しそうな顔をしている。
「まあ、うちら全員誕生日早いほうだし......」
「まあみんな夏休み前にはお酒飲めるもんね」
そうなのだ。3人とも6月までに誕生日を迎える。
「3人で居酒屋とか行ってみたいね」
私はそう言った。3人でゆっくりと話したりする時間があるといいな、と思って出た言葉だった。
あの事件があってから、私たちは一生懸命生きると決めた。だから各々が自分のためになると思うことをする時間が増えた。しかし、3人でお喋りしたりご飯を食べに行ったりする時間は減ってしまっていた。とくに放課後は3人でいる時間はほとんど無くなっていた。
私にとって、3人で一緒に話したりする時間も自分の人生において大切な時間である。真優ちゃんと夏生ちゃんもそれは同じだと思う。
2人は頷いてくれた。
今日の講義が始まるチャイムが鳴った。今日も1日が始まる。私はノートを広げて教卓を見た。
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