第13話 変化
成美が夏生たちの日常からいなくなって、1ヶ月がたった。
夏生たちは、毎日を一生懸命に過ごしていた。
1ヶ月前。
それは、夏生たちが成美の妹の静花からの最初で最後の手紙を読んだ日だ。
夏生たちは真優の家で手紙を読み、3人はそれぞれ自分たちにできる精一杯の人生を送ると決めた。静花と成美の分も生きるのだ、と。
その話をしているとき、真優宛の宅配便がやって来た。真優は受け取ったが、何か頼んだ憶えは無いと言った。
真優が箱を開けると、そこには1つのとてもきれいな包丁があった。
夏生はすぐにわかった。これは静花からの贈り物だと。
真優と歩乃目も理解したようで、何も言わなかった。真優は、無くなる前に包丁があった場所にそれをしまった。
手紙に書いてあった成美と静花の秘密を、夏生たちは隠しておくことにした。そうしておいたほうが成美たちの家族を混乱させないし、それが静花の最後の願いだったからだ。
もうすぐ大学生になって最初の1年が終わる。
夏生たちは、あの一件依頼会うことが少なくなっていた。2人の死をきっかけに、『自分の精一杯の人生を生きる』のに必死なのだった。
真優は、毎日を人との関わりで埋め尽くしていた。学科の知らない人どころか、大学の知らない学生や教授にもコミュニケーションを取り始めた。今では大学内のちょっとした有名人になっていた。
夏生が真優に聞いたところ、多くの人と関わりを持つことが自分の精一杯の人生を生きるために必要なことだと言っていた。
歩乃目は、毎日を読書と勉強で埋め尽くしていた。毎日のように図書館に通っては本を読み、家でも本を読んだり資格の勉強をしていた。2年生の夏休みには、初めての資格試験を受けると言っていた。
夏生が歩乃目に聞いたところ、一生懸命勉強をして少しでも社会のためになることをするのが、自分の精一杯の人生を生きるために必要なことだと言っていた。
夏生は――――。
夏生は今日も大学で講義を受けた。講義が終わって帰る準備をする。最近はずっと一人だ。
帰り道、冷蔵庫の中身を思い出しながらスーパーに寄った。
食品売り場でタコを見かけた。あのときのたこ焼きパーティーを思い出してしまった。それに、あの包丁のことも。
あのときは楽しかった。でも、今は一人だ。
夏生は一人暮らしの自分の部屋に着いた。冷蔵庫にスーパーで買ったものを詰め込む。夏生は机に夕食を用意して座り、なんとなくテレビの電源を点けた。おもしろい番組がなく、電源を消した。
夏生は一人で夕食を食べながら、寂しさを感じていた。
夏生は、真優や歩乃目のように、自分の人生を精一杯生きるために自分を変えることは出来なかった。成美がいなくなってから夏生は何も変わっていない。あれは成美ではなく妹だったが。
夏生は箸を片手に持ちながら、スマホを手に取った。4人の写真を眺めた。気づけばいつも涙がこぼれている。
成美の事件をきっかけに、夏生の日常は終わってしまったのだ。
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