第6話 成美の夏の終わり
――――本当にいろいろあった。
成美(なるみ)は、実家の自室にいた。夏生たちと同じように、成美は家族に会うために帰省していた。
窓の外を見ると、もう外は真っ暗だった。自室の椅子に腰掛けていた成美は、部屋の壁を見た。
この壁の向こうには、妹の部屋がある。妹とは言っても、2人は歳の同じ双子である。今も妹は部屋にいるだろう。
去年の夏、妹の静花(しずか)はうつ病になってしまった。静花は高校を休校し、成美と静花には1年の差が出来てしまった。
同じ高校に通っていた成美は、静花の悩みに気づくことが出来なかった。そのことを、成美は大学に通い始めてからもずっと後悔していた。
毎日顔を合わせていたのに、毎日一緒に登校していたのに、どうして気づいてあげられなかったのだろう。
おもむろに、夏美は部屋を出た。そして、静花の部屋のドアの前に立った。ドアの前には母が用意したご飯が置かれていたが、手は付けられていなかった。
成美は、何もせず自室に戻った。ベッドに仰向けになり、天井を眺めた。
――――妹はいまどんなことを考えているのだろう。
成美は、そう思いながら横に置いてあったスマホを手に取った。4人のグループに送られてきた海での写真を見る。
成美にとって、今年は本当にいろいろなことがあった。
木々に囲まれた田舎の実家を飛び出し、大学近くのアパートで一人暮らしを始めた。たくさんの友達もできて、その友達と海にも行けた。
成美は夏生たちに感謝していた。こんな田舎から来た自分を受け入れてくれたことを。
しかし、自分が楽しい思いをしていると、成美はいつもどこかで妹のことが頭に思い浮かんでいた。
自分が静花を救えなかったことを忘れてはならない。
そう。忘れてはならなかった。自分だけ楽しいことをするのなんて、本当は許されないのだ。
だから、私は頑張った。高校生のときは勉強も人一倍したし、大学に入ってからも休みが続く日は実家にお土産を送ったり、渡しに帰ったりもした。返信は来ないと分かっていても、静花にメールも送った。
静花は、何をしても部屋から出てきてくれなかった。
成美には分かっていた。自分が何かしたところで、静花の役には立てないのだと。いつかまた元気な姿を見せてくれることを信じて、今は待つしか無いと。
成美は持っていたスマホを離すと、ベッドに仰向けのまま、ゆっくりと目を閉じた。
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