第3章
第7話 訪れた連絡
夏が終わり、日の柔らかくなった涼しい秋の朝。夏生は大学の講義室の端っこにいた。
「夏生(なつき)ー! おはよう!」
新学期早々、講義室では真優(まゆ)のうるさい声が響いた。彼女に呼ばれた夏生というのは、今日も朝から机に伏せていた
夏生は横の席に座ったサラサラ髪の高身長に、体を起こして返事をする。
「真優、おはよう」
「おっ今日は眠たくなさそうだな!」
「まあ、成美(なるみ)からあんな連絡が来たらね......」
「まあな......」
そう、夏生は夢の世界などにはいなかった。
その連絡は、夏生が実家からの帰りの電車に乗っているときに送られてきた。
『妹の静花(しずか)が亡くなりました。
明後日にお葬式があります。
また大学に行ったら、
ノートなど見させてください。
ご迷惑をおかけしますが、
よろしくお願いします。』
しばらくして、2人の横に歩乃目(ほのめ)がやってきた。
「おはよう。夏生ちゃん、真優ちゃん」
「おはよう歩乃目」
「おう歩乃目、おはよう!」
歩乃目も真優の隣の席に座った。カバンを置いて、いつものように筆箱を取り出した。ニット生地のセーターを着た歩乃目は、今日もゆるふわ女子大生だ。
「成美ちゃん、大丈夫かな」
「うーん」
歩乃目と真優が顔を見合わせている。歩乃目もあの連絡が気になるようだ。
「まあ、私らにはどうしようもないんじゃないか......? なあ夏生」
「まあ、そうだね」
こちらを向いた真優に言われ、夏生そう答えた。
ほんとうにしてあげられることは無い。これは成美にしか乗り越えられないことだ。
「成美ちゃんが大学に来たら、できるだけ手助けしようね」
歩乃目の言葉に夏生と真優は頷いた。
もちろん、そのつもりだ。こんなことがあった友人を手助けしないわけにはいかない。
チャイムが鳴った。教授がやってきた。3人は前に向き直り、講義を受ける準備をした。
講義が終わった。夏生は何かを感じた。横を見ると、机に突っ伏して寝ていた真優の手が自分の足の上に乗っていた事に気がついた。しかし、これでは無い。
夏生は、歩乃目に自分の顔をじっと見られていることに気がついた。夏生は歩乃目の顔を見返す。歩乃目が慌てた様子で目をそらした。
「どうしたの?」
「ご、ごめん」
「......?」
別に変なことはしていなかったと思うが......。
見られていた理由が分からなかった夏生は気にしないことにした。
3人は食堂に移動した。そこで夏生は杏仁豆腐を、歩乃目はプリンを食べていた。今日は学科の誰かと会話する気分になれないのか、真優も一緒にヨーグルトを食べていた。
なんだろう。静かだな。
夏生には、なんだかそれが辛かった。
いつものように楽しく話したいのに言葉が出てこない。もちろん成美のことも気になる。しかし――――。
「2人とも、私たちが明るくないと成美も明るくなれないよ!」
とっさに出た夏生の言葉に、2人は夏生を見た。真優は、
「そうだよな。私らが明るくないとな」
と言った。歩乃目は、
「そうだね、成美ちゃんを元気づけないとね」
と答えたが、夏生から目をそらした。
夏生はやはりそれが気になったが、教えてくれないだろうと思って歩乃目には何も聞かなかった。
明後日には、お葬式を終えた成美が大学に来るかもしれない。自分たちには分からないほど苦しんでいるであろう成美を少しでも元気づけられるよう、明るい会話を大切にしたいと夏生は思った。
デザートを食べ終えた3人は、成美を元気づける方法を話しながら次の講義に向かった。
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