第30話 善と悪の代行者
「んあ? どこだここ……?」
目が覚めるとどこか知らない空間だった。
私は確か宿舎に帰って……、部屋のベッドで寝ていたはず。
なーんか、この謎空間に心当たりがあるような……? ――そんな風に考えていたら、突如眩い光がぺかーと輝いた。ドラッグストアみたいにビカッカビカの女の登場だ。
「お前女神……。あー思い出した、ここは例の不思議空間か」
「そうですイザベル・アイアネッタ、神聖なる光の女神ルミナが、ありがたいお告げを言い渡しに参りましたよ」
「そういうのいいんで。じゃ、お休み」
睡眠は体に必要不可欠な要素だ。だから寝る。以上。
「ちょっとお! 話聞きなさいよ!」
「勘弁してくれよまったく。明日も早いんだからさ……。というかなんで腕を顔の前でクロスしてんの?」
「いつもあんたが殴ってくるからガードしてんのよ! ガード!」
「なんだそりゃ。私は冬眠前のヒグマか? じゃあ寝るわ、お休み」
まったく、人をなんだと思っているのか。私は公爵令嬢様だぞ? 紅茶の味だってわかるんだ。えーっと、飲んだら飲めたやつが飲めるやつで、飲めなかったやつが飲めないやつ。以上!
「まったく! 私がわざわざやって来たんだから話を聞きなさいよお! ほら、オーギュストも手伝いなさい!」
おーぎゅすと? 誰だそれ?
ポンポン新キャラ増やさないでくれよ。覚える方も大変だっつうの。
「お嬢様、後生だからルミナ様の話を聞いてほしいでござる!」
そう言って寝ている私の背中に泣きつくクマのぬいぐるみ。ぽにゅぽにゅした柔らかい感触が心地いい――じゃなくて!
「おーぎゅすと? おーぎゅすとってもしかしてオシルコのことか!?」
「そうでござるよ。拙者の名前はオーギュスト・シュテファン・ルーベルト・ド・コバルビアスで候。忘れてしまったでござるか?」
いや、そもそも覚えてない。覚える気もない。
「てめえオシルコなんでここに……? というか面倒くさいこと言わないって約束だっただろうが。追い出すぞこら!」
「いたた!? やめてほしいでござる! ワタが……ワタがアッー!」
こいつ……、また孤児院に放り込んでやろうか?
それとも〈アイアネリオン〉の先っぽにくくりつけてやろうか?
「き、緊急時ゆえに一回だけで良いからルミナ様のお話を聞いてほしいで候! ちょっとだけ、ほんのちょびっとだけでござるから!」
「ちょっととか少しとか言う奴がそれで満足したためしはねえんだよ!」
甘い言葉で騙そうとする詐欺師の口調だ!
思い返せば前世でも、私を馬鹿だと思った裏社会の胡散臭い連中が……!
「私の
「い、いじめてなんかねえよ」
女神の言葉に私は手を止める。
なんか悪いことしているみたいじゃん。
「わかったわかった、わびに少しだけ話を聞いてやるよ。身体を張ったオシルコに感謝しな」
「オーギュスト、汝の献身嬉しく思うわ!」
「はっ! 拙者にはもったいなきお言葉!」
ぬいぐるみが眷属って、こいつはぬいぐるみの女神なのか?
「ではイザベルよ、この世界に破滅の危機が迫っています」
「あー、はいはい。そういうのいいんで」
「ちょっとおっ! 聞くって言ったじゃないの!? なんか最近邪悪な力を使う人間を見なかった?」
なんだその電波な宗教勧誘みたいな質問。
ああ、そう言えばコイツ女神だったか。
「邪悪な力……? そう言えば暗黒だとか闇だとか自称する奴なら……」
「たぶんそいつよ! で、それは誰なの?」
「クラウディオとかいうロメディアスの皇子だよ」
「じゃあそいつ止めなさい! そしたら世界は救われるわ!」
クラウディオの事はぶん殴ってやろうとは思っているけれど、こいつに言われるのは癪だ。
「なんで私なんだ? やる気ない私より、他の奴に任せればいいじゃねえか。それにクラウディオが本当にあんたの目的の人物かわからないだろ?」
「あー、女神もそんなに便利にできていないのよ。端的に言えばあんたは善の代行者。善と悪は必ず一対。そしてひかれあう。あんたの前に立ちふさがったのがそのクラウディオって皇子なら、それはそいつが悪の代行者ってことよ」
なるほど、わからん。セットでライバルマッチ組まれるレスラーみたいなもんか?
「というかあんた、もしかしなくても負けた? クラウディオとかいうのに負けたのね? だって勝ったのならもうぶん殴った後だもんねえ?」
「うぜえ。それに私は負けてない、引き分けだ」
と、強がって言ってみたものの、あれは負けだ。死にはしなかったけれど部下がやられた。ローレンスの機転がなかったら全滅していたかもしれない。
「この麗しの女神ルミナ様が力を貸してあげてもいいけどお~?」
「いらん。あいつは必ず私が殴る。私自身の力で!」
「あっそ。じゃあオーギュスト、引き続き監督よろしく」
「はっ! 拙者の命に代えましても!」
このルミナとか言うアホみたいな女神に対するオシルコの忠誠心はなんなんだ……。そんなくだらないことを考えている内に、私は再び眠りに落ちた。
☆☆☆☆☆
「よくぞ集まってくれた、西方侵攻三将軍よ!」
「「「はっ!」」」
この俺、クラウディオの前に三人の男女が膝をつく。いずれも名の知れた、我がロメディアスの誇る精鋭だ。
「今日は汝らに、我が闇の力を授けよう。ありがたく受け取るがよい!」
俺は手に持つ魔の教典を開いて、書かれた禁断の呪文を唱える。
すると黒い瘴気がうねり、三人に降り注いだ。
「気分はどうだ三将軍?」
「まるで……、生まれ変わった心地です」
「力が……力がみなぎってくる!」
「これがクラウディオ様の御力なのですね……!」
良い。これは良い。俺は手に持つ魔の教典の力を確信する。こいつを帝都の書庫で見つけて以来、俺の調子は鰻のぼりの鯉のぼりだ。この闇の力があれば、必ずや次期帝王は我が手中に……!
「フゥーハッハッハ! 貴様らは今日より、西方三魔将と名乗るがよい!」
「「「はっ!」」」
「それとも、“
「「「それはけっこうです」」」
む……、かっこいいと思うのだが。謙虚な奴らめ。
「お前たちの力をスタントン西方王国の連中に思い知らせ、我がロメディアス中央帝国の支配下とするのだ!」
「「「はっ!」」」
「敵に恐怖を与える為、眼帯をしたり手に包帯を巻いたらどうだ? 貸してやるぞ」
「「「それは結構です」」」
やれやれ、この最高のファッションを理解できないとは……。まあいい。この力をもってすれば、西方王国の支配なんて簡単に終わる。あの“鉄拳令嬢”イザベルとかいう女すら、この俺の敵ではなかった。
「蹂躙せよ! 殲滅せよ! 真に恐れるべきはこの俺、クラウディオ・デラ・ロメディアスの軍団だと教えてやれ! フゥーハッハッハ!」
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