第21話 野菜は食っとけ
「お前ら無事か?」
「大丈夫でさあ。負傷者は下がらせやした」
傭兵部隊の
「カルロ、疲れているところ悪いけれど、〈アイアネリオン〉の整備を頼めるか?」
「任せてください姐さん!」
私も機械の事はわからんし、この部隊で魔導鎧の整備ができるのは今のところカルロだけだ。負担にはなるけれど頼むしかない。
「姉御は光属性使いでしょ? 治癒魔法は使えないんで?」
「私がそんなに器用と思うか?」
「それはそうですね……」
いや、納得されるのも腹立つな。でも光属性が得意としている治癒魔法を使えないのは事実だ。私がまともに使えるのは強化の魔法だけ。
「アンナはどうなのよ?」
「あいつは焼くか燃やすか焦がすしかできません」
アンナが得意なのは火属性、それも攻撃的な魔法ばかり。やっぱり治癒は難しい。
「お姉様、本陣から伝令が。どうやら配置換えのようですわ!」
「わかった。すぐに行く」
魔導鎧は〈アイアネリオン〉一機だけ。整備するのも専任ではない人間。治癒術師はいない。それどころか魔法をまともに使えるのは二人だけ。
ないないづくしだけど、戦わないといけない。
それに私たちには拳がある。自分の道を切り開く拳が。
ま、それはそれとしてだ。私もこいつらの命を預かる以上、政治的な要求とやらを身に着けないといけないってことか?
☆☆☆☆☆
「それで姉御、俺たちは
「敵のかく乱が仕事だ。囮ってわけじゃないよ」
と言っても、敵陣に侵入してかく乱ってねえ……。カリナ団長様は良い笑顔で「私は君たちを信用しているんだよ」とか言っていたけれど、援軍の一つもつけてくれてない。なかなか良い性格してるよまったく。
「敵の将軍、ベラスケスの性格を考えたら、この作戦は有効かもしれませんわね」
「なによアンナ、知ってんの?」
「長年我が国を苦しめてきたベラスケス将軍は有名ですわよお姉様。これほどの大規模侵攻は聞いたことがないですけれど……」
確か私も説明されたけれど、主力軍同士の会戦で叩き潰したがる性格で脇が甘いんだっけ?
「マーカス!? マーカス!」
「どうした!?」
「マーカスが飛んできた
「
「野菜でさあ! 大きなカブが飛んできやした! というか沢山飛んできやす!」
なんで戦場でカブが飛んできやがんのよ!?
いや――敵か!
「敵部隊でさあ! 魔導鎧もいやす!」
「わかった。私は〈アイアネリオン〉で出る。ジャン、後は任した!」
「承知しやした! 姐さんご武運を!」
さっと〈アイアネリオン〉に乗り込んで、敵部隊を確認する。
あれ? 確かに一機魔導鎧はついているけれど、荷馬車?
もしかしてこれって……。
「あいつら
「わかりましたわお姉様! 燃やすのは得意なんですの!」
遠征軍の
「もらった! 《光子拳》!」
「なんの!
防いだ!?
南瓜で!?
「さっき飛んできたカブ、お前の魔法か!」
「そうとも。俺はロメディアス侵攻軍、輜重部隊隊長マッサーナ! 人は俺を、戦う農民と呼ぶ!」
輜重部隊ならカブなんて投げないで、さっさと逃げればいいんじゃねえかな……?
「食らえ野菜魔法《
「うおっ、なんだあ!?」
投げられる無数のピーマン、ピーマン、ピーマン。
なんか当たるとヤバそうなのでここは回避だ。
すると木に当たって爆発するピーマン。爆裂ってこういうことか。ピーマンなのに。
「食べ物を無駄にするんじゃねえ!」
「貴様が全て食べればいいだけのことよ!」
「爆発するのに食えるか!」
「お前も……、お前もピーマンが苦くて食えないと申すかァ! ピーマンだって頑張って育っているんだぞォ!」
いや、爆発するから食えないって話なんだが……。
「この魔導鎧〈ベルデュラス〉の恐ろしさ、まだまだこんなものではなィ! 野菜魔法《
「今度は人参!?」
マッサーナは、今度は人参を槍みたいに振るって攻撃してくる。地属性の魔法には植物を操るものがあるって聞いたけれど、コイツの魔法はその類か!
「人参なら……、砕く!」
「ああっ! 俺の人参がァ!?」
槍みたいに振るっているけれど、所詮は野菜。私の拳の前には簡単に砕けた。
「降伏しな。だいたいカブなんて投げないで逃げればよかったんだ」
「俺はなあ……、敵を見ると野菜を食わせずにはいられないんだよ。お前も大人しく野菜食えよ、野菜!」
私が言うのもなんだけれど、少し変わっているだけで戦闘狂だなこいつ。それなら輜重部隊じゃなくて前線に配置しとけよ。
「うおおおおおおっ! 野菜魔法《ビックリキュウリ》!」
「そんなもん一発で砕ける!」
「貴様ァ! キュウリの九十五パーセント以上は水分で出来ているんだぞォ!」
「だからなんなんだよ!?」
「だから――
「――!?」
動けない……?
なんだ、なにが起こっている?
「貴様の魔導鎧全体に浴びせられたキュウリの水分が、貴様の魔力伝達を阻害する。驚いたか? 驚いただろ。野菜にもサプライズは出来るんだよォ!」
なんかわからんけど魔導鎧自体は水に弱くはないから、キュウリの中の特殊な液体がばらまかれたってことか。クソッ……、これじゃなぶり殺しだ。
「貴様も大根のようにかつらむきにしてやるよ。ゆっくりとなあッ!」
ああ、意味わからんけどなんか嫌だ!
『お姉様、もしかしてスリルなピンチですの?』
「アンナか。ああ、なんかキュウリの水分で動けなくなってかなりヤバい」
『わかりました。なら私がそんな水分、熱で飛ばしてさしあげますわ!』
「いや、お前の魔力じゃ無理だろ」
『大丈夫ですわ。今の私、戦闘のスリルで火照ってしまって、最高にエクスタシーしていますの。《
突如、〈アイアネリオン〉を包み込むように火柱が上がる。
すごい、これなら水分が飛ぶ。戦える!
「アンナ、お前こんな大技使えたのか!?」
『私、昂ると魔力が増大する体質でして』
「なんかよくわからんが助かったよ。ありがとね!」
『お姉様、お礼は拳で結構ですわ。どうぞ私の頬を――』
拳を相手に叩き込めってことね!
言われなくても!
「動けるようになっただとォ!? だがもう遅い。野菜魔法《
「どうせ大根を振舞うのなら、今度はブリと一緒に持ってきな! 《閃光回し蹴り》!」
全てを薙ぎ払うように振るわれる大根。確かに恐ろしい攻撃だ。うかつに踏み込めばこちらが大根おろしだ。だから私の回し蹴りで、おでんにちょうどいい大きさにカットする。
「とどめだ! 《
「そ、そんなバーニャカウダー!?」
そんなバナナの亜種か?
わかりづらいよ。
「ふう、敵の攻撃がカツオ菜だったら雑煮をたべたくなるからヤバかったな……」
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