第20話 偉人の言葉ってやっぱりすごい
「お! あの赤い機体、カリナ団長殿の〈ブラッディア〉ですよ!」
カルロが遠くを指し示して教えてくれる。細い剣を片手にマントを羽織った、深紅の機体がピシリと立っているのが見える。
「あの女ともいつか戦ってみたいな」
「やめておいた方がいいですぜ姉御。カリナ・ケインリー団長様と言えば当代随一の剣の使い手。
「いやに実感のこもった感想だねジャン。さては下品な野次を飛ばしてしめられたな」
「そんなわけ……、まああったんですけれど」
あったのか。やっぱりな。こりない奴らめ。
「それにしてもお姉様! ここって主戦場から離れ過ぎていませんこと!?」
「まあ、そうだよなあ……」
アンナが言うように、ここは主戦場から遠く離れた丘の上。団長様の機体が遠くに見えることから分かるように、主力部隊は遥か遠くだ。
「こんなの当てにされていないって言われているようで腹が立ちますわ!」
「そう怒るなよアンナ。よく見て見な、団長様の奥、派手な紋章が掲げられているのがわかるだろ? あれが本陣だ」
「はい。第三王子スチュアート殿下の
あ、あれってあのへたれ王子の紋章なのか。あんまり戦場向きの性格とは思えないけれど、王族も大変だな。
「そうだ。あそこの裏を取ろうと思ったら、この丘の麓を通らないといけない。団長様は馬鹿じゃない。だから私たちがここにいることには意味がある」
「なるほど……。私たちは期待されているからこそこの配置ということでして?」
「その通り。まあ危険だけどね。それに本隊の裏をつくなんて作戦を実行してくる連中なんてのは――おっと来たな!」
少し離れた位置に中規模の部隊を発見。百人くらいか。数からして陽動ではない。騎兵はなし。弓もなし。ただし魔導鎧が三機。
「数多いっすね……」
魔導鎧も兵士もこっちに比べると数は三倍か。両手じゃ足りない。なぜか「スリルですわ!」とか言って興奮しているアンナはともかく、目に見えて指揮が下がっている。
「ビビりちらしているお前らに、良い言葉を贈ってやろう。ある歴史上の人物の言葉だ」
そう、あれは前世の歴史の授業。
私が学校で唯一覚えたお勉強の知識。
戦国時代、乱世で大暴れした武将。確か名前は……、
「ある国の将軍。織田のぶ……、のぶ?
確かそんな名前だったと思う。
「ノブノブは寡兵で大軍を破って、天下に名を轟かせた」
それがかの有名な、おけ……オーケー島? いや、オーケー川の戦いだ。
「そんな人間の言葉だ。『敵は本能にあり!』」
そんな事を言っていた気がする。
「どういう意味なんですか、姉御?」
「敵が強い、敵が多いと本能的にビビる。だからそれに打ち勝てという意味だ」
「なるほど。それでノブノブは大軍を打ち破ったと。さすが姉御、博識ですね!」
「当たり前だろう? だからお前らもビビらねえで戦えば勝てるんだよ。なにせこの私が鍛えたんだから」
よし、良い感じに士気を保てたな。
ありがとうノブノブ!
「迎撃に出るよ! カルロ、私の〈アイアネリオン〉の整備状況は!?」
「いつでもいけます姉御!」
「よし! ジャン、歩兵はお前が指揮しろ。なんか良い感じにやっとけ!」
「承知しました姉御!」
さあて、楽しい戦いの時間だ!
☆☆☆☆☆
「数はこちらが不利……。先手必勝《光の加護》!」
私は強化魔法を唱えると、一気に丘を駆け下りる。
標的発見。こちらに気がついて振り返ろうとしている。だがもう遅い!
「《光子拳》!」
魔力をまとった拳を、敵機の背骨の部分に叩き込んでそれをへし折る。まずは一機、行動不能!
「もう一発回し蹴り!」
こちらに斬りつけようとした機体の頭を回し蹴りで飛ばす。これで二機。
「おうおう、威勢がいいねえ。しっかりここにも部隊を配置していやがったか」
残った一機はこちらに攻撃するでもなく、のんびりとそう感想を言った。
深緑の機体から聞こえるのは、飄々とした男の声だ。
こいつ、ゆったりと構えているけれど隙がない。
「そういうことだ。しかしお前ら何者だ? 帝国軍の主力機、〈ヒガンテ〉じゃないみたいだけど」
「ほう、ご明察。俺たちは雇い兵だよ、イザベル・アイアネッタ公爵令嬢殿」
雇い兵、つまり傭兵部隊か。騎士は華々しく主戦場で戦いたがる。蛇の道は蛇。こういったところに来るのはこういう戦いにこなれた奴らってことね。
「私の事を知ってんのかい?」
「俺たち傭兵にとって情報は命だから、そりゃ調べるさ。そして俺の前にのこのこ出てきた以上、捕虜になって身代金をたんまり稼がせてもらうよ」
「ごめんだね。あんたこそ私の武勲になりな」
「バルトロメと〈ベルディアス〉だ。どうぞよろしく」
男は軽く挨拶すると同時に動き出す。
手には大振りの
「《
魔法で岩を飛ばしてきた。なら――!
「拳で砕く!」
「そう来ると思ったよ。《
「何!?」
岩を砕く為に踏み出した足が、《泥沼》に囚われる。
「ほうら捕まえた。《
「クソッ……!」
地面から槍状に尖った石が伸びてくる。私はそれを手刀でなんとか砕く。
「お前さんの拳は素直すぎる。まるで格闘家のようだ。だから搦め手一つでこのザマさ」
「うるせえ!」
「その強がりもいつまでもつかな? さっさと戦闘不能にして、身代金で稼がせてもらうよ」
身代金で稼ごうとしている以上、このバルトロメという男は私を殺さない。間違いなく〈アイアネリオン〉の行動不能を狙っている。そこに勝機がある。
私が望んだのはただのスポーツか?
いや違う。戦いだ。私はこの世界でも戦いで生きていくと決めた。それが公爵令嬢の役目を果たす事にもつながると!
「だから私は負けられない! 《氷結》!」
「――!? 《泥沼》を凍らせた!? 水属性も使えるのか!」
「私がいつまでもお前の情報通りだと思うなよ! オラあああっ!」
私は凍らせた《泥沼》ごと足を引き抜くと、そのまま回し蹴りを叩き込む。
敵にダメージを与え、ついでに氷が砕けた。
「くっ……だが、《
「目潰しか!?」
突如森の一帯に、《砂嵐》が巻き起こる。バルトロメの魔法か。
「《石槍》」
「うっ……! どっちだ!?」
「見えないだろう? じわじわと削らせてもらうよ」
背後から、今度は左から、巻き起こる《砂嵐》の中から石の槍が伸びてくる。それは明確に〈アイアネリオン〉の装甲を削ってくる。
「戦場はスポーツと違ってルール無用の殺し合いだ。お前さんは俺には勝てないよ」
「ルール無用? それなら慣れたもんだ!」
前世で私が闘っていたのは、凶器あり、闇討ちあり、乱入あり、なんでもありの裏世界の格闘場だ。目潰しくらい慣れたもんさ!
「だから私はビビらねえ! そらあッ《光子拳》!」
「どこを殴っている? 俺はそこにはいないよ?」
バルトロメの言うように、私の拳ははずれ木を倒しただけだ。
だけどそれが狙いだ。私は木を掴むと、渾身の力で振り回す。
「嵐には嵐だ! これだけの範囲で振り回せば当たるだろ!」
「うおおっ!?」
狙い通り、バルトロメの〈ベルディアス〉に木が直撃し、《砂嵐》が治まる。
「捉えたよバルトロメ! 食らえ必殺《
私の魂を込めた必殺の一撃が、〈ベルディアス〉を粉々に吹き飛ばした。
これぞビビらねえでいけというノブノブの教え。ありがとうノブノブ!
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