第29話蛇:信じる?
宙に舞う私。
その下には蛇。
私たちは傷だらけだった。
爆発とともに高く打ち上げられた私の下で、蛇は大きな口を広げていた。私の体をまるまる飲み込めるくらい大きな口だった。私はその口に向かって落ちていった。
「もう、力がないわ」
そう覚悟する私の下で、蛇は崩れていった。ボロボロに。
私は勝負の結果を知った。そうだったのね。勝ったのね。
しかし、このままでは。
私はすごい勢いで落下していった。それこそ、落ちたら確実に死ぬ勢いだった。 私は体が動かなかった。無い両手はもちろんのこと、失っていない他の部位ですら動かなかった。私は死を覚悟して、目を閉じた。
「あやー!」
私は閉じた目を開いた。下では宇木が大手を広げて待ち構えていた。
「あや、ここだー!」
空から降ってきた私を、彼は受け止めた。
「がはっ!」
宇木は私を受け止めた後、倒れ込んだ。宇木がクッションになり、私は大事に至らなかった。
「だ、大丈夫?」
「これくらいたいしたことない。お前に比べたら」
宇木は私の無い両手があった場所を空で触りながら言った。
「良かった。大丈夫なのね」
私は心の底から笑顔で言った。すると、宇木はなぜか恥ずかしそうに顔を背けた。
何をそんなに恥ずかしがることがあるのかしら?不思議な人。
そういえば、私が心の底から笑うなんて久しぶりだわ。不思議な人。
空は嘘のように晴れていた。
――「ちょっとちょっと、二人共」
妖怪達が集まってきた。
妖怪たちが私たちに色々と言ってきた。
せっかく助けに来たのに感謝がないこと・私の能力について・さっきの蛇について・その男について・この被害の後始末について・自分たちのことを覚えているのかについて・両手がないことについて・上半身が裸であることについて・私と宇木との関係について・自分たちが仲直りしたことについて・自分が悪霊化を防ぐ方法を知ったことについて・呪いを解く方法が未だにわからないことについて・いままで釜らせてしまって申し訳ないことについて・自分たちの自己紹介をまだしていなかったことについて・自己紹介は次の機会でいいのではないかについて・やっぱり今自己紹介をしようとなったことについて・なんかこの辺だけ雨が降っていることについて・三すくみについて・別に落下して死んでも大丈夫だったのではないかということについて・妖怪と人間とのことについて……
……
「なあ、どうするんだ」
妖怪たちが去ったあと、宇木は聞いてきた。
「何を?」
「お前の腕のことだよ。そのままじゃあ、不便だろう?それに家族にはなんて言うつもりだ?そのままのことは言えないだろ?」
「そうね。いろいろ話したけど、結局どうしたらいいのかわからないわ」
私は、困っても頭を抱えたりあごの下に手を添えたりできないことに不便を感じた。たしかに両手がないことは不便だわ。
「あの、もしよければだけど……」
「なあに?」
恥ずかしそうに話し始める宇木のようすが少し変だ。
「もし、よければでいいんだけどよ」
「だから、なあに?」
やっぱり変だ。
「もしよければいいんだけど、その、俺がお前の両手になってやろうか?」
……
「……あははは! なにそれ?!」
私は思わず笑い始めた。
「な、何も笑うことないだろ」
「何を言い始めるかと思ったら、なにそのくさいセリフ。映画の見すぎよ」
「そんな言い方はないだろ? 俺は真面目なんだ」
「あんた、ただの馬鹿だと思ってたのに、真面目馬鹿でもあったの?面白いわ」
「面白がるなよ」
「面白がるに決まっているじゃない。こんな馬鹿な人、見たことないわ」
「う、うるさい。もうお前のことなんか知らん」
宇木はそっぽを向いた。しかし、私から離れることはしなかった。口ではこういっているが、内心は心配してくれているのだろう。
思えば、私の周りの人間は、口では心配してくれてもすぐにどこかに行く人たちばかりだった。いや、口だけの心配もしてくれない人ばかりだった。そんな人たちとは違ってこの人は……
「ねえ、宇木」
「なんだよ」
「こっち見て」
「嫌だよ」
「手のことについてよ」
「……仕方ないな」
宇木は振り返った。
私はその隙を見逃さなかった。
キスをした。
「……?!?」
「ねえ、宇木」
「???」
「運命の出会い、って信じる?」
あやしあやかし すけだい @sukedai
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