第28話蛇:崩れた

 壁がボロボロに崩れた。

 壁だけじゃない。

 地面も電柱もガラスも崩れた。


「!?!」


 私は地面の下の落ちていきそうになった。とっさに崩れていないところに飛び移った。蛇は睨みを効かした。


「蛇睨み、というとな、蛇が怖くて体が動かないといわれているが、ワシの場合はそんな不確定なものに頼りたくないのじゃ」

「それで、足元を崩して動けなくするのね」


 私の足は2つの小さな穴に取られていた。動けないわ。

 と思ったら、服がボロボロになっていった。いや、服だけではなく体もボロボロになっていった。ああ、死ぬんだ・

 ……

 しかし、また生き返った。ボロボロの体は元に戻っていた。


「おい、なにしているんだ!」


 遠くから宇木の声が聞こえる。


「っておい! 裸になってほんとにどうしたんだ?」

「きたらダメよ。あなたもボロボロになるわ」

「なんかわからないが、お前の能力でどうにかならないのか?」

「私の能力?」

「そうだ。重力であいつの動きを止めるとか……」

「それは無理よ」

「やってみる前から諦めるな!」

「そうじゃないの。もうその能力は使えないの」

「……え?」

「私、1つの命がなくなるとその命持ち主の能力もなくなるの。重力の能力の命がなくなったから、もうその能力は使えないわ」


 宇木は静まり返った。蛇はうるさく笑った。私は両方を見ていた。


「どうしてそれを言うんだ」

「そうね、言う必要はなかったわ。むしろ、言わない方が良かったわ。でも、言ってしまったのは仕方ないじゃない」


 どうもこの男と話すと調子が狂う。いや、調子が良くなるのかしら?

 蛇を見ると、再び睨んできた。

 さて、これはやばいわ。

 ――その時、私は何かに抱えられた。

 一方で、蛇は何かを抱えていた。

 宇木は抱えられることも抱えることもなかった。

 私は自分を抱えるものを見た。それは鶴だった。


「大丈夫だった?」

「あなたは?」

「ヤダな。忘れたの?悪い妖怪になるのを止めてもらったじゃないか」


 それは授業を妨害した鶴の妖怪だった。


「あなた、大きくなった?」

「妖力で大きくなっただけだよ。ついでに言うと、向こうにいるのは友達」


 蛇と鶴の数羽が戦っていた。


「どうしてこんなことを?」

「鶴の恩返しだよ」


 鶴たちは旋回をし、捕まることのない美しい弧を描いた。


「おのれ!」


 蛇はさらに強く目を見開いた。

 と、その目に大量の水が入った。


「いたー!」


 そう痛がる蛇は、今度は動きが止まりくしゃみが止まらなくなった。


「「おーい」」


 声の方向を見ると、ナメクジときのこがいた。


「あなたたち」

「「へへ」」


 仲良さそうだった。


「ベックション!おのれ……」


 という蛇が反転して落ちた。これは!

 私は周りを見渡した。すると、遠くで草に隠れているカエルを発見した。


「みんな……」


 私は言葉を飲んだ。そして集中した。今の自分にできることは……

 ――私は熱くなった。

 それは気持ちの問題だけではなかった。

 体から炎が迸った。


「熱いー!」


 鶴は私を離した。私は荒れた土地に綺麗に着地した。眼前には憎き蛇がいた。


「その能力は?」

「私の能力よ」


 口を開き襲ってくる蛇に炎をぶつけた。ひるんだ蛇にもう一発炎を打ち込んだ。その炎の中から蛇は突っ込んできた。


「シャーー!」

「はああー!」


 炎を纏ったパンチで殴ったが、その部分を噛まれた。が、そのまま地面に叩き込んだ。


「ぐはっ!」


 話された右手は血だらけだった。私はその手を眺めていた、ら、右手がボロボロに崩れていった。蛇も右手を見ていた。


「はああー!」


 私はそのボロボロの部分に炎を纏わせて蛇の顔面に炎を叩き込んだ。蛇の左目は蒸発した。私の右手は消滅した。


「ぎゃあー!目が、目が!」

「たかが片目ごとき」


 私はもう一方の手に炎を纏わせて、もう一方の目を狙った。

 そのとき、蛇は私の横を通り過ぎた。その向かう先には、宇木がいた。

 ヤバイ!

 私は急いで先回りした。すると、迎え撃つ蛇は狙いすました顔でニヤリとしていた。どうやら計算通りらしい。身を呈して守ろうとする一瞬の隙を狙ったらしい。 私はパパや神主のことを思い出した。次は私の番か。

 ……

 と、蛇は宙に浮いてバランスを崩して、そのまま倒れた。


「俺のことを忘れるな」


 宇木が自分に呪われた能力を使ったらしい。


「あなた……」

「あや、いっけー!」

「言われなくても!」


 私は持てるだけの力を込めて、左手に炎を集めた。

 蛇も持てるだけの力を込めて、右目に力を集めた。


「シャーー!」

「はあーー!」


 一面にボロボロの炎が広がった。

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