第12話ナメクジ:解決、そして……
「大丈夫か? 大丈夫か?」
私を揺する音がした。
目の前には、数人の妖怪がいた。
どうやら私は気絶をしていたらしい。たまにあるのだ。妖怪と接した時にその妖気に当てられて気絶をする時が。そして、そういう時にはいつも不思議な光景が見える。それは、私が触れた妖怪の記憶だった。
妖怪の記憶が見える時がたまにあるのだ。
「大丈夫よ。ありがとう」
私は視界を雨雲から倒れているきのこに落とした。ドロドロだった。どうやら私たちが勝ったらしい。
「なんとかなったけど、みっともないところ見せてしまったようね」
私はみんなの前で気絶してしまったことを言った。
「そんなことはないです。綺麗です」
綺麗? なんのことかしら? 私はナメクジたちの視線が私の顔の少し下に向けられていることに気づいた。
私はブラジャーだけだった。
「あら。たしかにみっともないわ」
「あれ、恥ずかしがらないのですか?」
「ああ、そうね。まあ、普通はそうね。うん、そうね」
たしかに普通の女性だったら上半身をブラジャーだけでいることを大衆の面前で起きたら「きゃっ」とか言って恥ずかしがるイメージがある。しかし、実際はそんなものではないと思う。少なくとも私はそうではない。
「あら? 期待した反応でなくてごめんね?」
「いえ、そのような期待はないです」
「あらそう?ふふふ」
私はなぜか上機嫌だった。なぜなのかしら……そうだ
「そうだ。実は……」
「黙れ!」
きのこは声を荒らげた。
「僕は、このナメクジをいじめたかった。それだけだ」
震える声が降り注ぐ雨を震わしていた。
「あなた、そんな……」
「黙れと言っている」
凛とした声が雨音を遮った。
「もしかして……」
「僕はこれで、失礼する、だから、探さないで……それから、呪いは解けない、だから、諦めろ」
フラフラしながら去っていこうとした。私は止めようか悩んだが、周りの妖怪たちが止めようとしないので合わせた。誰も止めない。
「待って」
声がした。ナメクジだった。
「あの、友達のなってくれてありがとう」
「……友達じゃないよ」
「あの、話しかけてくれてありがとう」
「……馬鹿にしたかっただけだよ」
「あの……僕のために嘘をついてくれてありがとう」
「え?」
振り向かなかったきのこが振り返った。
「僕のために嘘をついてくれてありがとう。悪いふりをしているのは、僕を傷つけたことを気にしているからでしょ? 友達になってくれたのは、僕に呪いをかけてしまったことを気にしているからでしょう? 僕に話しかけてくれたのは、僕がひとりぼっちだったからでしょう?」
ナメクジは続けた。
「あの、ぼくはこれからひとりぼっちにならないように頑張るから。お主がいなくても、元気にやっていくから。この呪いともうまく生きていくから。だから、また会いに来てほしいの」
きのこは再び後頭部を向けて歩き始めた。その姿は戻ってくるのかわからないままではあった。ナメクジは涙ぐんでいた。
「あなたたちも知っていたの?」
私はかたつむりに聞いた。
「いいや。わしらはなにも知らん。なんなら、あのきのこが悪者だと信じてしまったぐらいじゃ」
「そうなの。じゃあ、あの子だけがわかっていたのね」
私はナメクジを眺めながら聴いていた。
「ただな、あの2人が仲がいいことだけはわかった。それならば、わしらが間に入る訳にはいかないと思い、見守っていた。それだけじゃ」
「それはそれで大変では」
「なーに、伊達に妖怪を長年しておりませぬわ」
私は、ナメクジの降らせる雨が、虹の一つも作らないことをズーっと見てきた。しかし、虹なんかなくても綺麗なものだと思った。それは、私たちには手に届かない2人だけの綺麗な繋がりなのだから。
数日後の朝、校舎に入ろうとすると、晴れには似つかわしくないにわか雨が降ってきた。私がそのにわか雨の方向を見ると、ナメクジがいた。
「もう大丈夫なの?」
「大丈夫です。それよりも、僕に話しかけて大丈夫なのですか?」
わたしは「しまった」と思った。周りが私の方を見ている気もするが、今日は「もういいか」とも思った。
「まだ呪いは解けないの?」
「ええ。でも、これは解けなくてもいいと思っています」
確かにそうだと思った。しかし、強くなったものだ。
「では、また会いましょう」
「はい、会いましょう」
そう言ってわたしは手を振った。周りから奇異な目で見られていることはわかっているから、余計に大げさに手を振ってみた。私ももう少し強く生きていこうかな、と思えるようになった気がした。
私もナメクジと同じように友達がいない。そのことに慣れてしまったから、なんとも思わなくなった。しかし、それはもしかしたらそう思い込もうとしているだけかもしれない。あのナメクジのように友達を求めてさまようのが私の本当の姿なのかもしれない。あのナメクジのように求め続けることが本当に大切なことであり、わたしはそれから逃げてしまっただけかもしれない。私もあの子を見習わなくては。
「まあ、明日から見習おう」
そう思いながら、わたしはいつもどおりの生活を送った。特に何の進展もなく、いたずらに学校生活を送っていた。特に友達を作る努力もせずに、妖怪との接し方を良くしようと思うこともなく、何もなかった。
まあ、何もないことは平和でいいことだ。
わたしはいろいろといろいろといろいろと考えていた。不平不満や感想や理屈を考えていた。自問自答していた。
そんな最中、風が吹いた。何かが近づく気配を感じた。わたしは妖怪かと思った。しかし、それは違った。それは今までにない出会いだった。まさか、本当にそんな出会い方があるものかと不思議に思う出会いだった。
》
空から少年が降ってきた。
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