第11話ナメクジ:きのこの記憶
その時、何かが見えた。
これは何の光景?
ああ、もしかして……
妖怪たちの戯れの横で、きのこが1人で戯れている姿が見える。そのきのこはとても悲しそうにしていた。1人で泣いている。
周りからは馬鹿にされている。やーいやーい、とはやし立てられている。そんななか、怒りで胞子をぶち巻いた。すると、周りの妖怪は驚き逃げていった。きのこはまた1人になった。
少し時間が経つと、何人かの妖怪がきのこの周りに集まった。そうやら、先ほどの妖怪を嫌いだったモノたちのようだ。その嫌いな妖怪を追い払ったきのこに興味を持ち、近づいたようだ
きのこはとても楽しそうに見えた。周りを友達に囲まれていた。自分の特殊な力のおかげで友達ができた。きのこは自分の能力を誇らしく思った。友達ができた自分を誇らしく思った。
そんなある日、きのこはひとりぼっちのナメクジを発見した。1人で戯れているナメクジはとても悲しそうだった。
きのこはナメクジに話しかけた。一人で寂しくないのか、と
ナメクジは返事した。さみしい、と。
きのこは提案した。それなら一緒に遊ぼう、と。
ナメクジは返事した。いいよ、と
きのこは遊び終わったあとに言った。また遊ぼう、と。
ナメクジは答えた。うん、と。
それから何回か集団で遊んだが、どうしてもナメクジが溶け込めない様子だった。それできのこは友達の妖怪に頼んだ。するときのこの友達が言った。
「僕たちはあのナメクジ嫌い。きのこが仲良くしてというから合わしているけど、本当は一緒に遊びたくないんだよ」
その言葉を聞いてから、きのこはナメクジを友達のところに誘わなくなった。傍から見ていると、きのこはいつもと変わることがなく友達と遊んでいる。その友達から誰かが抜けただけだが、そんなことは誰も気に留めていない。離れたところにナメクジが1人でいても、誰も気に留めていない。しかし、心なしか、きのこの視線が時々ナメクジの方向を向くような気がするが、誰も気に留めていない。
そんなある日、きのこはかたつむりに会った。
そのかたつむりは雨を降らせるという特殊な力を持っているものであり、その力をもって仲間を作ってきたものと噂されていた。きのこは、どこか自分と重ねるところあったのかもしれない。
そのかたつむりときのこは話す機会があった。その時に、ナメクジのことを聞かれた。そのとき、きのこはナメクジのことを知らないと言ってしまった。なんとなく過去の事を思ってバツが悪いと思ったのだろう。きのこはこのことを大変後悔した。
きのこは翌日、とある者からとある物をもらった。それは、呪いの紙である。そこに2人の名前を書いたら、能力を貸すことができる。説明をしてもらったが、その説明をして紙をくれたのが誰なのかは覚えていなかった。おそらく、向こうが何かしらの能力を使って身分を隠したのだろう。しかし、その時のきのこにはそのことはどうでもよかった。
きのこは喜んで走った。やった、これでナメクジは特殊な能力を手に入れることができるぞ、と。そうなれば、僕みたいに友達ができるぞ、と。ようやく2人で友達と仲良く遊べるぞ、と。
ナメクジとかたつむりとが紙に名前を書いたときは、本当に嬉しかったようだ。笑みがこぼれていた。しかし、それを見せまいと我慢していたら、少し不気味な笑い方になったようだ。
後日、きのこはナメクジを探した。今頃たくさんの友達ができているのかなぁ、と思った。すると、1人でいるところを発見した。
それはきのこにとって予想外の出来事だった。あの能力が有って、どうして友達ができないの?聴いたところによると、その能力のせいで友達ができないらしい。
きのこはそれを聞き、呪いを解こうと思った。しかし、解き方がわからない。その解き方を聞きたくても、紙をくれた者が誰でどこにいるのかわからない。きのこは途方にくれた。
きのこはかたつむりのところに相談に行った。すると、ナメクジと何かを話していた。茂みから隠れてみていたが、おそらく呪いのことだろうと推測した。きのこは出ていけなかった。
ナメクジが離れるのを見計らって、かたつむりに近づいた。呪いのことをどうしようかと相談しようとした。すると、かたつむりから糾弾されたような気がした。実際はそこまで強い言い方ではなかったが、きのこには精神的に糾弾されているような感覚になっていた。きのこは恐怖のあまり笑った。きのこは自暴自棄となり、ナメクジを陥れたことにした。どうせ言い訳しても無駄だという強迫観念に襲われてしまった。そして、きのこはかたつむりの前から去った。
その後、きのこは泣いた。
その時、きのこは思った。そうだ、ナメクジに友達ができないのは雨の呪いのせいにしよう。きのこ自身が悪いのではなく、呪いが悪いということにしよう。そうすれば、自分のせいではないということで、気分が楽になるだろう。占いと同じだ。自分のせいではないと思ったら楽になるだろう。そういうことにしよう。
そう思うきのこは、ナメクジの不幸を自分のせいではない言い聞かせた。なぜなら、きのこの言葉を借りるならば、楽だからである。しかし、きのこの良心の呵責が苛まされた。
きのこは泣いた。一人で泣いた。周りには誰もいなかった。
何時間がたっただろうか?
「大丈夫?」
そう言葉のほうを向いたら、ナメクジがいた。きのこは反対側に顔を向けた。会わせる顔がないのだ。
「大丈夫です」
普段は使わない敬語で対応した。
「何その言い方、似合わないよ」
ナメクジはケラケラっと笑った。
「なんだ、その言い方」
「だって変なんだもの」
「変で悪かったね」
きのこはふくれっ面になった。
「ううん。悪くないよ。だって、ぼくだって変だもの」
「何が変なの」
「僕の周りに雨が降る呪いがあるんだ」
きのこは言葉を失った。
「びっくりした? やっぱり変だよね」
きのこは何かを言いたかった。しかし、言葉が出なかった。
「これね、昔に誰かにかけられた呪いなんだ。でもね、いつ・どこで・だれにかけられたか忘れた。お医者さんによると、心が壊れないようにするために嫌なことを忘れることができるらしいんだ。おそらくそれなんだって。だから、無理に覚える必要はないんだって。だから、大丈夫」
きのこは目から涙が出そうになっていたが、我慢した。
「大丈夫だよ。うん。大丈夫」
「僕は大丈夫だよ。それよりも、お主は大丈夫か?」
きのこが顔中の穴からありとあらゆる液体を出していた。
「大丈夫だから。本当に大丈夫だから」
「あわわわわ」
困惑するナメクジにもたれながら、きのこはうなだれていた。
「あわわわ。本当に大丈夫? 何か僕に出来ることはない?」
すると、きのこは見上げた。鼻水をズーズーッとすすりながら、まっすぐにナメクジを見た。そして一言。
「ボクと友達になってください」
それ以降、ナメクジに友達が一人できた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます