第9話ナメクジ:かたつむりの話
「
そうじゃな、どこから言おうか。
いかんせん、昔の話だからな。
うーん、とりあえず、思い出したことから話すか。
わしがまだ若かったころ、といってもまだ若いがな。ここにおったんじゃ、今もおるがな。わしは皆と戯れていたのじゃ。今も戯れているがな。はっはっは。
ワシには特殊な力があってな、まあ、かたつむりの力というのかな、雨を降らせる力があったんじゃ。といっても、小規模なもので、自分の周りを少し降らせるだけじゃ。しかし、それを面白がって一緒に遊んでくれるものがいるんじゃ。わしも宴会芸のごとく、それを披露していた。
いろいろなものが集まっていてな。わしがいろいろな妖怪を眺めておると、ひとりぼっちのモノがおったのじゃ。
「おい、おぬし、一人で何をしておる」
すると、そやつはこういうのだ。
「好きでひとりでいるんじゃないよ」
それは大きい大きい妖怪だった。といっても、そこまで大きくはないがな。人より少し大きいくらいだった。わしからしたら十分大きいがな。見た目はわしに似ていた。わしの方が男前だがな。
そやつは、わしから離れていった。ヌルヌルと大きなナメクジじゃ。その姿は、いろいろおる妖怪の中でも奇異なものだった。せねて、ほかのナメクジと同じように小さいか、ほかの大きめの妖怪のように人間に近い姿だったらいいが、あの姿では友達はできないだろうと思った。いや、姿だけではない。性格もそうじゃった。わしが話しかけた時、反抗するような言い方じゃった。そこで、「遊んでください」とか言う子だったら可愛がられるのに。しかも、直ぐにどっかいった。愚直にもわしの近くにいればわしがまだ話しかけられたのに、それができない。なかなか友達ができない性格じゃなと思った。
そう思いながら見ていると、別の妖怪が一人ぼっちでいるのを見かけた。
「おい、おぬし、一人で何をしている」
すると、そやつはこういうのだ。
「おじさん。一緒に遊んで」
これは周りから好かれるタイプの妖怪だと思った。そやつはわしの近くに近づいてきた。
それは小さい小さい妖怪じゃった。といっても、そこまで小さくないがな。わしより少し大きいくらいだった。わしが小さすぎるだけじゃがな。見た目はわしと全く違った。わしの見た目が変わっているだけじゃがな。
「おぬし、ひとりぼっちか?」
「いや、そういうわけではないよ。向こうに友達がいるよ」
向こうで手を振っているモノたちがいたので、おそらくそれが友達なのだろう。その横には、さっきのナメクジがひとりぼっちでいた。
「向こうにいる大きなナメクジも友達かい?」
「ううん。違うよ。知らない子」
きのこの妖怪はそう返事した。
――数日後じゃったかな、また同じように集まった。
皆はいつもどおりじゃった。いつもどおり酒を飲むもの、いつもどおり笑うもの、いつもどおり寝転がっているもの。その横で、いつもどおり一人ぼっちでいるものもいた。あのナメクジだ。
「今日もひとりぼっちだね」
わしの横で声が聞こえた。あのきのこだ。
「それはわしのことか?」
「ううん。あのナメクジさんのこと」
わし以外にもあのナメクジを見ているものがいたのか。
「そうじゃな。話しかけて見たらどうじゃ?」
「うーん。どうしようかな」
「どうしたんじゃ? 苦手か?」
「そういうわけではないんだけど、僕が話しかけたところで変わるかなー、って」
「変わるかもしれないじゃろ」
「実は、何回か話しかけてことがあるんだけど、反応がなくって」
「やっぱり苦手じゃないか」
「そうじゃないんです。ただ、何かを変える必要があると思うんです」
たしかにそうじゃなと思った。いつも変わらず同じ失敗を繰り返していると思われるナメクジを変える必要があるな。どう変えようか。
「おじさん」
きのこは続けた。
「例えば、例えばだけれども、特殊な力があれば好かれるのかな?」
わしは答えた。
「まあ、特殊な力があったら好かれるかもしれんな。わしがそうじゃったし」
それを聞いてきのこは笑った。
「じゃあ、おじさんの力をあの子に貸してあげてよ」
わしは驚いた。能力を貸すなんてことは普通はできないのだ。
「それで解決できるのなら貸したいのはやまやまだが、どうしたら貸せるのじゃ?」
すると、きのこはちいさな紙を出した。
「この紙に2人が名前を書いたら、少しだけ貸すことができるんだって」
わしはその紙に目を細めた。
「そんなものがあるのか?」
「たいへん珍しいものらしいです」
「それに、貸すのはどうも。いつ返してくれるのじゃ?」
「ほんの少しのきっかけを貸すだけです。おじさんは今までどおり使えるらしいです」
「ほお。それは便利じゃな」
そういうので、わしはそのナメクジを呼んで、ともに紙に名前を書いた。
その様子をきのこは笑顔で見ていた。今にして思えば、不気味な笑顔じゃった。
――そのまた数日後、その日は雨じゃった。
わしはいつもどおり集まりにいたが、雨のためほかの妖怪の数は少なかった。その日はいつも来ているモノの中にも来ていないものがいた。そんな中、ナメクジがいつもどおりいた。
「おい、おぬし」
わしの声を聞いてナメクジは立ち止まった。
「あっ、おじさん」
「おぬし、友達は出来たか?」
すると、ナメクジは前よりもゆっくり近づいてきた。
「全くできないよ。むしろ、嫌われている」
「どうしてだい? 雨を降らせる力を与えたのに」
「だからだよ。みんな嫌がって近づきもしない。元に戻してよ」
わしは不思議に思った。
「だったら、力を止めればいいではないか」
「止まらないんだよ。降り続けているんだよ」
わしはそれを聴くと、止め方を指導したが、全くダメだった。
「ほんとうじゃ。無理じゃ」
「どうしてくれるんだよ。とめてくれよ」
「では、あのきのこに紙を持ってきてもらおう。そうしてら、なんとかなるかも知れない」
わしは想い出いたように提案した。ナメクジはうれしそうに頷いた。
しかし、きのこは現れなかった。
「もう帰る」
そう言って、ナメクジは帰っていった。わしはその寂しそうな背中を見ながら申しわかない気持ちでいっぱいじゃった。すると、どこからか声がした。
「だめだよ、おじさん」
声の方向を見ると、きのこがいた。
「おぬし、どこにおったんじゃ」
「ずーっとそこにいたよ」
草むらの方を向いた。
「なら、なぜ出てこなかった。能力をなくして欲しがっていたぞ、あのナメクジ」
「それがダメなんだって」
きのこはうつむきながら言った。
「何がダメなんじゃ」
「あの能力を解除することがダメなんだよ」
わしは理解できなかった。
「どういうことじゃ?」
「あのナメクジはあの能力のせいで、友達ができなくなっている」
「そうじゃ。だから……」
「だったら、このまま解除できなかったら、あの能力のせいで友達ができないままでしょ?それでいいじゃない」
きのこの壊れたような笑顔、開いた口が耳元まで届いているような顔を見て、わしは寒気がした。
「おぬし、まさか、それが目的か」
「さあね、さようなら」
そういってきのこは去っていった。
それが、わしの覚えていることじゃ。あのきのこの不気味な笑顔は未だに覚えておるわ。
」
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