第8話ナメクジ:動き始めた

 私は動き始めた。

 公園内を見渡した。

 妖怪がちらほらいた。

 私はそこらへんにいる妖怪に色々と聞いた。雨の呪いのこと、このナメクジのこと、呪いをかけそうな妖怪のこと。


「ありがとう」


 私は話を聞いてくれた妖怪たちにお礼を言った。妖怪たちは手を振るものやお辞儀をするものやそそくさと去っていくものといろいろいた。しかし、雨の呪いのことを知っているものは1人もいなかった。


「やれやれね」


 私は傘を横に置きベンチに座った。傘の反対側のベンチにはナメクジが座った。ナメクジは傘を持っていなかった。


「だれもいないね」

「そうね。まあ、こんな直ぐ見つかるとは思っていなかったけどね」

「そうなの?」

「そりゃそうでしょ? こんな簡単に見つかったら、あなたがすでに見つけているでしょ?」

「そうか」


 私は心配になった。先程から、このナメクジの妖怪が頼りないのだ。出会った時から幼稚なところがあったが、昨日も今日もその印象のままだった。このナメクジに合わせていたら終わらないような気がした。


「ねえ、あなた。今までどこを探していたの?」

「ええっと、覚えていない」


 予想通りの回答だ。


「なるほどね。じゃあ、色々と探しましょう」

「いろいろって、どこを?」

「いろいろはいろいろよ」

「でも、お主、学校は?」


 この回答は予想外だった。


「いいのよ、別に。今は自分のことだけを考えておいて」

「わかった。でも、いろいろな場所を探すのは大変だよ」

「何言っているの?」

「え?」

「いろいろな場所で探すなんて、宝探しみたいで楽しそうじゃない」


 ――私たちはいろいろと見て回った。街中、ショッピングモール、川沿いといろいろと回った。その各々の場所でいろいろな妖怪に出会って色々と聞いたが、帰ってくる返事は一つだ。

 もうこの辺はだいたい探し終えた。後は、遠くに行くくらいか。

 私は疲れたので家に帰ることにした。ナメクジも案内した。雨の中ほっとくのは良くないと思ったからだ。下校時間の少し前に家に帰った。


「散らかっているけどごめんね」


 自室の足の踏み場もない場所を足の踏み場を探しながらベッドに向かった。

「本当にちらかっているね」


 ナメクジはお構いなしに私の部屋に入ってきて、お構いなしの発言をした。人間なら「そんなことないわ」とか言って遠慮するものだが、妖怪はそういうものはあまりなかった。今までの妖怪もそうだった。


「まったく、これだから妖怪は」

「だって、そうじゃない。玄関はきれいだったのに」

「だって、玄関はこの家の人が片付けるもの」

「この家の人? お主はこの家の人ではないのか?」

「本当はね。でも、訳があってここに住まわせてもらっているの」

「そのワケとは?」

「まったく、これだから妖怪は」


 私は黙った。少し笑いながら黙った。ナメクジは笑わずに喋った。


「どうしたの? 訳は?」

「もう、だれにでも言いたくないことがあるでしょ?」

「それはそうだ。ごめんね」


 少し変な空気になったので、話を変えようと思った。私の目には、学校の教科書が散らかっているのが見えた。


「そういえば、妖怪は学校に行ったりするの?」

「え? 行くよ。当たり前じゃない」

「え? 学校行くの?」


 わたしはまさかの回答に驚いた。私のイメージでは、妖怪は学校にはいかないというか、そういうシステムはないと思っていた。どこかの歌では、学校も試験もなんにもないと聞いていたのだが。


「そりゃそうだよ。妖怪の義務であり権利だよ」

「義務や権利になっているんだ」

「そうだよ。学校で習ったよ」


 人間と同じなんだな、と思った。学校か。学校……


「学校!」


 私が立ち上がると、ベッドから教科書が雪崩落ちた。


「どうしたの?」

「学校よ」

「学校?」

「そうよ、まだ探していないところがあったわ。学校よ」

「でも、前に僕は学校に行ったわよ」

「そのときは、わたしは探していなかったわ。もしかしたら、私が探したらなにか見つかるかも」

「そんなものかな?」

「あと、夜に行きましょう」

「え? 何もそんなに急がなくても」

「そういうことではないわ。夜にしかいない妖怪もいるのよ。それに、夜の方が私が妖怪と話しやすいし」

「それなら、そうしよ」


 ――夜に雨が降だから、とても寒かった。といっても、冬に比べたら大したことがないからそこまで寒くなかった。

 ウヨウヨと妖怪がいる。相変わらず、夜の学校は渋滞だ。昼間は学生がたむろしているところに夜は妖怪がたむろしている。


「わあ、いっぱいだー」

「あなた、夜に来たことはないの?」

「うーん。来たことがあるようなないような」


 わたしはそれ以上聞かなかった。無駄だと思ったからだ。

 さて、ここでも、色々と聞き回ったが、手応えがなかった。公園の時と同じだ。もしかしたらと思ったが、それは気のせいだった。

 私は肩を落とした。ナメクジに首を振って、去ろうと合図した。ナメクジは理解して、私の後をついてきた。


「それなら知っているぞ」


 私たちは振り向いた。そこにはかたつむりの妖怪がいた。手のひらサイズの普通のかたつむりと見分けが付かなかった。


「いま、なんと言いました」

「そのものに付いている呪いのことを知っていると言ったんじゃ」


 私の言葉にそのかたつむりははっきりと答えた。


「それは本当ですか?」

「本当もなにも、その呪いは、わしが与えたものじゃ」


 雨が強くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る