第39話 和讃『百利口語』
このころ。
上人さまは
わたくしのもとには、いっさいの沙汰がございませんが、臨終時の再会を約して桜井で別れた聖戒さまには、折りにふれて旅先から便りが届けられておりました。
わたくしたちを伊予へ帰した上人さまは、ひとりで京に入り、各地で念仏賦算を積んだあと、いったん故郷の伊予へもどられました。
その前年には全国的な
むろん伊予も例外ではなく、兄・通朝さまの病死と上人さまの出家で河野一族の所領の過半を継いでいた弟・通友さまが、筑前国との領地交換を幕府に願い出て、元寇追討の恩賞を狙うなど、出兵をめぐる諍いが随所で発生しておりました。
聖戒さまから事情を聞いた上人さまはひそかにご先祖さまのお墓に詣でると、その足で土佐国へ出立されました。健治元年(1275)晩秋のことでございます。
わたくしたち3人を帰された上人さまは、いっそうきびしい修行を積まれたのでございましょう。聖戒さまによりますと、肌はひび割れ、頬は削げ、落ちくぼんだ両の眼は異様な光を放ち、破れ法衣に破れ笠、擦り減った高下駄履きで朗々と念仏を称える様子は、この世の人とは思われない凄まじさであったそうにございます。
苦しい遊行のつれづれを、のちに和讃に詠んでおられます。
僅かに命をつぐほどは さすがに人こそ供養すれ
それもあたらずなり果ば
死して浄土に生れなば 殊勝の事こそ有べけれ
世間の出世もこのまねば
人の
小袖、
寒さふせがん為なれば 有に任せて身にまとふ
命をささふる食物は あたりつきたる其ままに
(和讃『
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