第27話 「ここは俺に任せて、みたいな?」
シノの言ったとおり、正義の使徒の人たちはすぐに姿を現した。
それぞれが変身をしているのでコスプレイヤーが集団で飛んできたみたいな感じに見えるな。
人数は10人を越えている。前に見た時より増えてるのは、どっかから援軍を呼んだのかな?
なんとな~く見覚えある人もいるんだけど、顔合わせの時は正直ちゃんと直視できなかったせいでうろ覚えだなぁ。
ただ、二人だけはハッキリ覚えてた。
一人は主任って女の人。なんか怖かったし、今も一人だけ普通のカジュアルファッションだから分りやすい。
あと東堂って人……は、まぁ忘れてたりした場合多分それだけで殺されても文句言えないくらい怒られると思う。
因みにリリルは臨戦態勢。ココナちゃんは仲間の到着で喜んで……はいないか、なんだか不安げな表情だ。
多分、荒事になるのを心配しているんだろう。
「なるほどね。報告通り、魔術は失敗、或いは中止されたと見て間違いなさそうね。この辺の魔力濃度は異常なまま。つまり、本来大規模魔術で消費されるはずだった魔力の一部が拡散してしまったということ。そして……」
主任さんは目線をリリルに定めた。
「この計画の首謀者はあなた?」
リリルは刀を携えたまま微動だにすることなく答える。
「この計画に首謀者なんていないわ。まとめ役だった奴はいたけど、そいつはもう消えた」
「あらあら、そうなの。じゃあソレも後で捕らえないとね。あ、勿論ここにいる魔術師も全員拘束させてもらいます。あなたも今すぐ武装解除なさい?」
「さっきそこのココナって子にも言ったけど、お断りよ」
リリルが刀を構えた。
「私は、正義の使徒――お前たちを信用していない」
リリルに対応して正義の使徒側もそれぞれが戦闘体勢に入ったと思われる。空気がピリピリしてきた。
「信用、してない? 何を言っているのかしら? あなたの様なテロリストが、信用してるも何もないでしょう?」
テロリスト。
んー、まぁなぁ。ある意味人類滅ぼす寸前だったわけだし、間違いってわけでもないけどなぁ。
「あなたがこちらをどう思っているかなんてどうでもいいけど、要求だけは一応伝えておくわ。おとなしく捕縛されること。そして今回の大規模魔術、その術式をこちらに公開すること」
「……なんですって?」
大規模魔術の術式?
世界中を幻に包むような魔術を、正義の使徒が知ってどうするってんだ?
「別に素直に従わないならそれでもいいわよ? 強制的に捕らえるだけだから」
あ、ヤバイ。本格的にバトル展開だこれ。
そうなったらリリルが一人であの数相手に勝つのは難しいだろう。
無論、俺としては黙って見ているわけにいかない。
「あの~……」
といっても、どう割って入ればいいのかよく分からん。
遠慮がちにというか、恐る恐るリリルの斜め前辺りに進み出てみる。
すると、主任がこちらを恐ろしく鋭い目で一瞥してきた。
「あら、シン君。いえ、心弥君だったわね。あなたにも話があるわよ? どうして魔術師に協力していたのか。そして今、この場でどちらにつくつもりなのか。説明してもらえるかしら?」
う~ん、やっぱこの人なんか圧迫感あってやだなぁ。
「説明っていわれても……。どっちにつくっていうか、リリルのことを無理矢理拘束するつもりなら俺も黙って見ているわけにはいかないっすけど」
「そ。ならあなたもテロリスト側に加担したと判断します」
えぇ……。
いやまぁそりゃそうなるだろうけどさぁ。
「そのっ、聞いてください!」
突然、丁度中間地点に立っていたココナちゃんが主任に向かって声を上げた。
「心弥さんとリリさん達は、平和っていうか、皆の幸せの為に魔術を使おうとしてたんですっ。その、やり方は乱暴だったのかもですけど、それでもこれからはもっと穏便な方法に切り替えていくつもりだって――」
「ココナさん、あなたは何も分かっていないのね?」
「――えっ?」
ココナちゃんの説得をあっさりと打ち切る主任。
その表情は、まるで子供に諭すようなものにも見える。
「テロリストをあっさり信用するのも論外だけど。そもそも魔術や魔法という、単独で強力な力を発揮できる存在が好き勝手に動き回っている現状そのものが問題、という認識が足りないわ」
え、えぇ~?
それ言ったら正義の使徒の異能者も一緒だと思うんだけどなぁ。
「人が社会というシステムを運営する上で、強大な力を持つ個人なんて邪魔でしかない。管理されていない暴力は存在するだけで悪性を持つの。だからこそ異能者は全て正義の使徒で管理されているし、その他大勢の力なき者を管理する責任もある」
「わ、私は……誰かを管理したいからこの力を使っているわけじゃ……」
ココナちゃんが戦っている理由は、単純に『誰かを、或いは誰もを守る為』だ。
それは俺にも分る。
けれど、主任のいう正義は違うらしい。
「この町も、私たち正義の使徒の管理下にあるからこそ平和を保っていられるのよ。異世界の存在同士が共存している町のテストケースとしてね」
その言い方からすると、この町以外は平和ではないってことか?
まぁ、そりゃそうかもしれない。
地球人同士ですらよく争ってるのに、違う世界の存在と皆仲良くなんてできるわけないよな。
「管理、ね。洗脳の間違いでしょう?」
リリルが嘲るような声を上げた。
そういや、この町には常識改変の異能が使われてるって話だったな。
「特に、私たちの世界の住人への洗脳は酷いレベルだった。エルフにしろ獣人にしろ、本来の文化や生活様式なんてお構いなし。元の記憶や人格すら壊れかねないレベルの洗脳を食らってる」
……い、言われてみれば。
そうだ、そりゃそうだよな。
普段、こっちの世界にすぐ順応したシノを見慣れていたから気が付かなかったけど、普通に考えて異世界から来た住人の多くがすぐに日本の生活様式に馴染めるはずない。
つまり、異世界の人たちは無理矢理にそうさせられているんだ。
洗脳によって。
「奴隷みたいなものだわ、お前らのいう管理は」
リリルの言葉に、目に見えてココナちゃんが青ざめているのが分かった。
彼女も普通に目にして、接していたはずなのだ。異世界の住人達と。
それが『奴隷』だと言われれば、そらショックではあるだろう。
が、面と向かって言われた主任は顔色一つ変えなかった。
「それが? 言ったでしょう。管理されていない者など存在自体が害悪だと。特に異界の連中は危険すぎる。平和を維持する為には必要なことよ。それに、あなた達の大規模魔術はもっと多くの人を洗脳する予定だったのではないの? 魔術師さん?」
確かに、どちらも精神干渉系の力ではある。
一方は平和の為に人々を洗脳し、一方は人々の幸福の為に世界中を幻術にかけようとしていた。
手段も目的も、似てはいるのだ。
「そうね。でも、それを正義だなんて言うつもりはないわ。私たちは自分たちのエゴの為に世界中を…………そうかっ、そういうことね」
リリルが、突然ナニカに得心いったように呟いた。
「このあたりの土地が魔力の活性化する地点なのは私たちも知っていた。だからこそ、ここで大規模魔術の発動を狙っていたのだから。正義の使徒の異能も同じね? この土地だからこそ、町全体を洗脳なんて異能が使えた」
えぇっ、この町そんな特殊な立ち位置だったんかい!?
「そうなのか、シノ?」
こっそりシノに聞いてみると、彼女も小声で返してきた。
「うん。世界がくっついちゃった時にさ、アチコチに歪みっていうか偏りっていうか、そういうのが出来ちゃったみたいでね。だから魔力が集りやすいような地点っていうのが今の世界にはいくつかあるんだと思うよ」
な、なるほどなぁ。
もしや、俺がこんな力を手にいれちゃった原因もその辺に関係あるのか……?
俺が自分の力の発生元に思いをはせている間にも、リリルの言葉は続く。
「お前ら正義の使徒の次の狙いは、私たちの大規模魔術を解析、応用して洗脳の範囲を広げること。この町だけじゃない、世界中を管理下に置く為に。だから、私を捕らえにきた。洗脳して術式を聞き出せばそれでカタがつくものね?」
うわぁ。
また割とエグい話になってきたなぁ。
洗脳で管理された平和な社会、かぁ。
う~ん……。
「――分かっているなら、素直に従えば早めに楽になれるんだけど?」
主任の言葉と同時に、東堂が俺達の前に歩み出た。
全身鎧の様な変身スーツ姿だから表情は見えないけど、それでも戦意がみなぎっているのを感じられる。
応じるように、俺もリリルの真ん前へと踏み出した。
「シンヤ……」
「あー、うん。あれだ、ここは俺に任せて、みたいなアレで」
「心弥さぁ。こういう時くらいはっきりかっこよくキメなよ?」
うるせぇ。
「心弥さん……」
ココナちゃんが戸惑った表情のまま、俺と東堂(というか正義の使徒の面々)に交互に視線を送っている。
多分、どっちの味方をすればいいのか分らず困惑しているのだろう。
正直、気持ちは分からんでもない。
何しろ、正義の使徒のやろうとしてることも一応は世界平和を目的にしているのだ。んで、この町は実際に一応平和なのだ。正義の使徒の管理のお陰で。
まぁぶっちゃけ、俺はシンプルにリリル推しだから似たような手法取るんだったらリリルの応援するけどな。
もう一人の推しのココナちゃんは己の正義というか、行くべき道についてまだ迷いがあるのかもしれない。
まぁ、ココナちゃんのやりたいことが決まったらその時はそっちも応援するけど!
「心弥君。まずは君の排除からってことね。まぁ、ここしばらく君の観察をさせてもらったけど――君は間違いなく、正義の敵だものね」
えぇ~……そりゃ正義の味方ではないだろうけど、そんな人を悪魔みたいに。
「強大な力を持ちながらどこの組織にも帰属しない。人間でありながら異界の神と行動を共にする。目的意識もはっきりさせず何が狙いなのかもあやふや。社会を混乱させるだけの脅威でしかない」
滅茶苦茶言ってくるじゃん!?
俺はただ普通に推しを応援して世界を滅ぼそうとしたけどちょっと気が変って止めたりしただけなのに!
……それがマズイってことかな? 多少マズかったかもしんないけど……。
「東堂君、いけるわね?」
「はい」
ん?
東堂一人だけでくるのか?
言っちゃあ悪いけど、負ける気がせんが。
前の戦いを忘れたわけでもあるまいに。
「全員集りなさい」
主任のかけ声で10人近くいた異能者たちが一カ所に集る。
というか順番に主任に手を触れている? おしくら饅頭状態だけど、何してんだアレ?
不思議に思っていたら、主任に手を触れた異能者たちがバタバタと倒れ始めた。
えっ、マジ何してんの……?
「――ふぅ。いくわよ、東堂君。正義をなしなさい」
東堂以外の異能者が全員ぶっ倒れたと思ったら、今度は主任が東堂の背中に手を当てた。
次の瞬間。
東堂から感じる圧力が、一気に増した――!
……ような、気がする?
よく分らんが、取りあえずなんか体中のアチコチから紫電のような光がほとばしってるし、なんか強そうになった?
「ん~、あれ、多分異能の力の吸収とか譲渡をしてるっぽい。あの人数を纏めてコントロールできるなんて、凄い能力だねあの主任って人」
なんと。シノの言うことが事実なら、今の東堂は異能者10人分くらいの強さがあるってことか?
「あれだけの力を一人に集中させられるなら、多分10倍の強さ……なんてもんじゃないと思うよ。一点に集めた力って使い方次第で数十倍にもなるからね。ただ、そんなキャパオーバーな力は使ってる本人もタダじゃすまないだろうけど」
じ、自爆覚悟ってことか?
いやだなぁ、そんな奴と戦うの。
「はあああああぁぁぁ!!!! この、力ぁ!!! これなら、貴様を!!」
嫌だなぁ! あんな気合い入った奴と戦うのっ。
しかし、そんな危ない奴とリリルを戦わせるわけにはいかない。
「よ、よっしゃバッチこい!」
取りあえず、気合いを入れて一気に踏み出す。
東堂も同時に、強烈な速度で踏み込んできた。
今まで見た中で一番速い。
多分ココナちゃんやリリルの数倍は速い。
「食らえぇ!!!」
東堂の蹴り。
見えてる。
避け。
「はああぁッ!!!」
んなっ、また空中変化技かよッ?
前と違って縦回転だとう!?
「ぐほぁッ!?」
「のわっ!?」
ジャンプして躱そうとした俺の体と、蹴りを空中で変化させようとした東堂の体がぶつかってしまう。
空間が歪んだようになって一度吸い込まれるような力を感じた直後、反発する磁石のような勢いを感じた。
結果、東堂はぶっ飛んでいったが、俺も吹き飛ばされる。
「……っとと」
なんとか空中でバランスをとって着地したが、数十メートルは飛ばされたぞ。
こりゃー、確かに相当強くなってるな。
「大丈夫、心弥?」
「あぁ。ちょっと痛かったけど。クラスで二番目くらいにスポーツ得意な奴にドッジボールの球を当てられたくらい」
「例えがよく分かんないけど……心弥を飛ばすなんて相当だねぇ。まぁあっちはもっと酷い飛び方してるけど」
東堂の方は、やはり数十メートルに渡って吹き飛び、転がり、割とボロボロになっている。
が、今回はすぐに立ち上がった。
「――き、さまぁ!!!!」
あ、怒ってる。
でも今回は謝る気はないぞ。
今回は推しの前でかっこつける為に戦ってるわけじゃないんでな。
と、思ったのだが。
東堂は構えを解いた。
「ん? なんだ……諦めたとか?」
遠すぎて東堂の声ははっきりとは聞こえなかったが、多分。
「クソッ。残念だ。貴様を倒すのが、僕じゃないのが」
そんなようなことを、言った気がした。
ほぼ同時に。
「さようなら、心弥君」
主任の声が聞こえて、突然視界が真っ暗に染まった。
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