第26話 「これからどうしよう?」
俺達は、巨人――大規模魔術を止めたあと、ぶっ倒れてる魔術師の方々を一カ所に運んで寝かせていく作業をした。
リリさ……リリル曰く「魔力が回復するまでしばらくは起きないだろう」らしい。
因みに、この組織のトップだった例の男はいつの間にか消えていた。
シノなら探せるだろうけど、事の顛末を考えれば俺が呼び止めるなんぞできるわけもないしなぁ。
リリルも、色々思うところはあるんだろうが声をかけたりはしなかったらしい。
「さぁて、これからどうしたもんかねぇ」
何しろ『皆で幸せ夢の中計画!』によって俺も幸せに眠っていられると思ってたからなぁ……。後のことは考える必要なんてないはずだったんだが、予定が狂っちまったぜ。
「まずこの人達が起きないと動きが取れないよねー」
俺は自分の人生の先行きを悩んで呟いただけなのだが、シノは今現在の状況をどうするか? という話題だと勘違いしたらしい。
まぁ確かにそっちもどうするのか考えないといけないか。
「ここに居る者達も皆、魔術師よ。意識と魔力が戻れば自力でどうとでもできるとは思うけど……でも」
「でも?」
リリルの表情は割とシリアスな感じに見える。なんぞ懸念事項でもあるんだろうか?
「この状況を、あいつらが放っておくはずがないわ」
あいつら?
って、どいつらだ?
疑問に思ってリリルに聞こうとしたのだが、先にシノが声を上げた。
「ん? なんかここに来るね。今はこの辺の魔力濃度がおかしなことになってるから分りにくいけど、これは……異能者かな?」
異能者、ってことは正義の使徒か。
ココナちゃんかな?
「やはり、来たわね」
――リリルが、やたら苦々しく呟いた。
んん?
これは、またちょっとややっこしいことになりそうな気がするぞ。
つっても、今更ここから逃げ出すわけにもいかんしなぁ……。
程なくして、姿を現したのはやはりココナちゃんだった。
「……これは、一体どういう状況なんでしょうか?」
跳んでくるなり、辺りを見渡して戸惑いを隠せない様子だ。
まぁ、荒れた地面といい、ぶっ倒れている人たちといい、ここだけ見たら意味不明だろうなぁとは思う。
「かつてない程の異常な魔力反応、と聞いて急いで駆けつけたんじゃが。この状況……魔術師殿に……心弥殿か。これはやはり、例の計画を発動させるつもりということか?」
ココナちゃんの妖精であるミミが俺とリリルの方を見ながら聞いてくる。
例の計画――まぁそうなんだけど、もう事後なんだよね。
さぁてどう説明したものか?
ココナちゃんには『俺も計画に賛成なんで手伝ってます』的なことを言っていたのに、実際には直前で全部ぶっ壊しちゃったからなぁ。
「例の……。あの! 心弥さん!!」
「は、はい!?」
ココナちゃんが俺の名を呼びつつ、こちらに進み出た。
真剣な表情も実にキュートだ。
え? どうしよう気まず怖い。
「この前のお話しの続き、なんですけど。私は、やっぱり全ての人たちを問答無用で夢の中に押し込めてしまうのはちょっと乱暴だと思うんです。でも、例え幻であっても救われたい人たちがいるのも、理解できます」
あ、あぁなるほど。
以前会った時に言っていた「もっとよく考えて、ちゃんと次までに答えを探してきますから」って言葉の続きというか、その答えってことね。
「ですから、希望した人だけが夢の世界にいけるとか、そういう風に上手くやり繰りをしたらいいんじゃないかなぁ? とか思って。魔術のことはよく知らないので出来るのかは分らないんですけど……でも、可能な限りそうやって諦めずに皆にとってのよりより未来をっていうか――」
「ココナっちココナッち」
「――は、はい?」
ココナちゃんの『答え』を途中でシノが遮る。
いつの間にかココナちゃんの隣あたりに移動していたようだ。
「あのねぇ実はもうその計画、心弥がぶっ潰しちゃったんだよ。んで、いずれリリッちが引き継いでさ。希望者だけを募って夢の世界で幸せになる計画バージョン2をいつの日か目指したりするかもらしいよ?」
「ふぇ?」
口から空気が漏れるようなちょっと間抜けな(可愛い)驚きの声。
ココナちゃんは困惑の視線をこちらに向けてくる。
「あ、あ~、ね? うん、そういう感じだったんだよ。その、ちょっと思ってたよりも問題ありそうな計画だったんで、今回は急遽中止にさせてもらってさ。んで、さっきココナちゃんが言ってた感じの、もうちょい細やかな配慮のある計画にしてこうかな~、みたいな?」
俺がリリルに目線を向けると、彼女もため息をつきつつ頷いた。
「……そういうことよ。私は、やっぱり多くの人が幸せになれる世界を目指したい。今度こそ、自分の意思で選んで、幸せになれる世界を」
俺やリリルの言葉を聞いたココナちゃんの瞳が、ゆっくりと見開かれていく。
キラキラとした輝きが戻ってきたようにすら見えた。
「い、いいと思います! そっちの方が、きっといいですっ。そっちなら……そういうことなら、私もお手伝いしたいです!」
ココナちゃんは喜びつつも、安堵したような空気感を纏っていた。
恐らく、場合によっては俺やリリルとの戦いになるかもしれないと考えていたのだろう。
まぁ、どう間違っても俺がココナちゃんとガチバトルなどするわけないのだが。
「本当によかった……。あ、そうだ、解決したって連絡をいれないと。準備を終えた皆がこの場所に集ってきちゃう」
「連絡ならもうしたぞ。すぐに折り返し指示があるそうじゃ。何しろ、命令無視の独断専行をしてまでここに急いでしまったからのぅ」
かつてない魔力反応、とか言ってたからな。正義の使徒総動員でここに集る気だったのかもしれない。
ココナちゃんが一番早く来たのは、他の異能者がしているらしい準備的なものをちゃんとせずに独断専行で駆けつけたからだったのか。
「ん? 早速連絡がきたぞココナ」
「あ、うん。はい、ココナです」
小型インカムのような通信機で正義の使徒本部? との連絡を取っているココナちゃん。
やれやれ、ココナちゃんとのことはずっと気がかりだったけど。結果として気まずいことにならなくてほんとよかった。
なんなら、リリルとココナちゃんが協力するなんて話もでてきたしな!
これなら、最初に妄想してた二人揃って並び立つ姿も見られるかもしれん。
「はい……はい。えっ――」
連絡をしていたココナちゃんの口から、突如硬質な声が漏れた。
「で、でも。さっきミミが報告した通り問題は解決してて…………え? そ、そんな」
あ、あれ?
なんか不穏な気配。
「わかり、ました」
連絡を終えたココナちゃんが、若干憂いを帯びた表情でリリルの方を見た。
「リリさんでしたね。あなたを、あなた達を拘束します」
えっ?
「その、洗脳魔術計画はもう中止されたって報告したんですけど。それでも、関わった異世界の人たちは一度全員捕縛するように、という指示が出て……」
ん~あー……まぁ、妥当っちゃ妥当、なのかな?
中止とか口では何とでも言えるけど、実際に中止するつもりがあるのかどうか証拠がないもんな。
俺が魔術をぶっ潰すところを実際に見たわけじゃないし、仕方ないっちゃ仕方ない判断かもしれん。
何しろ、正義の使徒からみれば『人類を滅ぼす計画を企てていた魔術師テロリスト集団』みたいな認識だろうし。
「あの、勿論手荒なことはしません。計画が中止されたことがハッキリ分かりさえすれば問題ないはずなので」
「――お断りよ」
「え?」
だが、リリルはきっぱりとした声で拒絶を示した。
「ココナとか言ったわね? あなたのことはともかく、正義の使徒という組織……それ自体を私は信用してないの」
「そ、それは、どういう……?」
「末端のあんたは知らないかもしれないけど、お前らの大元は捕らえた魔術師を使って――」
ココナちゃんが困惑した表情でリリルに問いただすが、二人の会話が決着するよりも先にシノが全員に聞こえる声で。
「あのさー、その正義の使徒の皆さんだけど、そろそろ到着すると思うよ~?」
状況の変化を告げた。
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