第9話 ユーカラ

「カムイの使いの方、お名前を伺っても

よろしいですか?」


『はい、カエデ(楓)ともうします』


「カエデ様、こちらが妻のアシリレラ

それでこちらが息子夫婦と孫達でございます」



頭をこくり



「こちらが妻の母ですがユカラをやります」


『ユカラ?』


「ご存知ないですか?

英雄叙事詩のことでございます」


『まあ~、叙事詩があるのですか


それは、それは▪▪▪


過去にすごい文明があったのですね~』


「たぶん、そうだと思います

いにしえの英雄譚でございます」


『よかったらほんのさわりだけでも

聞くことは可能でしょうか?』


「もちろん大丈夫でございますとも

イワンパヌ婆、お願いできますか?」


「ウムウム」


「郷の神の兄神(夫)はなぜかずっと目を閉じていてな~

それでも何でもお見通しだった


郷の神の姉神(妻)はいつもお裁縫をしていて

とても幸せに暮らしておった


部屋の中は宝器が並び、

かかってある太刀は光り輝き、

その房がゆれると屋内に白雲黒雲が

たちこめるのであった


姉神のぬった刺繍のおもてからも

神雲がたちのぼったものであった


二人の神様は少女の神様を預かって育てておってな、大事に大事に育てられ

妹神はすくすく育っていった


毎日這いずりまわって、

ときには灰だらけになって、

ひとり遊びをしていたが

成長すると姉神のまねをして

布をねだって裁縫する


あっちこっち、ひきつれて、ゆがんだり

させて、ハイ出来ましたと姉神に手渡すと


姉神、おお上手なこととほめながら

息を殺してクスクス笑う


妹神は足をバタバタ泣きわめき、

泣きあばれると


姉神は自分で自分の頭を叩いて、

『おお、こんなに上手なのを、

何わたしが笑うもんですか、

笑ったのは下女たちのこと

さあさあ泣くんではない、

もうひとつこしらえて頂戴!』


妹神はけろりとおさまって、

また布をにかませに夢中になるのであった


▪▪▪▪




『へえ~おもしろいですね~


妹神の許嫁の幌尻の神が

誤解、嫉妬から妹神を殺して


ただ、妹神にお酌をしてもらっただけ、

たまたま立ち寄った

名も無き西浜の神が妻を盗んだとされ

幌尻の神と戦うことになってしまい


天界で幌尻の神に加担した神たちと戦い、

冥界で幌尻の神に加担した神たちと戦い

命尽きるも西浜の神が使っている神々に

より、西浜の神も妹神も蘇生して


他に戦いをさせるばかりで自分は

戦わなかった幌尻の神を

西浜の神が冥界の遥か底になげすえた


その名も無き神といっていたのが

実は伝説の神雄、アイヌラックル

ということだったんですね


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