第5話 陰陽の技(只管打坐)

翌日、わたしは〈ちゅ~華街〉に

出勤していました


こうみえても、社会人なので

まじめに働いております(*^^*)


今日もまたまたヒマヒマ文物店に配属

されています


(やってられないわ、もう~


昨日ならった座禅でも

練習しよっ)



『え~っと、真っ直ぐに座って

力をぬいて、


しかんたざ


しかんたざ


▪▪▪


「おはようございます~


あれっ、楓ちゃんひとり?


『あっ、はい


大庭先生おはようございます


今日もここの先生は2人みたいですよ


あいかわらずヒマヒマです(笑)』



「そうだね、ここはヒマだよね~

とくに金曜日とかね~」


『ほんとですね~、

とほほです、早退しちゃおっかな~』


「まあ、お互い赤身が多いからね~(笑)

それにしても、今日の楓ちゃん、

なんか姿勢がいいね、しゅっとしてる


『そうですか~(^_^;)

えへへへ

ちょっと座禅をならったんですよ~

イケてます?』


「うん、いけてるいけてる

いつも猫背っぽかったもんね

そっちの方がいいよ


がっくし○| ̄|_


「しかし、渋いよね

今どきの若い女の子が座禅なんて


只管打座(しかんたざ)

っていってたけど

意味わかってる?」


『只管打座(しかんたざ)ですか?

じつはあまりよくわからなくて


ITの時代なんだからネットで

調べたらすぐわかるわよって

いわれたんですが』


「それ、ただひたすらに座りなさいって

いう意味らしいよ」


『そうなんですか?

どれくらい座ればいいんですかね?』


「悟りを開けるまで?」


『悟りひらけますかね?』


「どうだろうね~(笑)

永平寺で1年修行したら開けるかも」


『永平寺?ですか?』


「しかんたざっていえば、永平寺の

禅僧の修行のテーマだからね~

テーマというか全てかも」


『そーなんですか』


「お坊さんになる卒業試験として

ここで1年間の修行をこなさなくては

ならないんだけど

きついらしいよ


ああ、でも女人禁制だったかな


『男子校なわけですね』


「そうだね

途中で体をこわして入院したり、

栄養が足りなくて脚気になったり


いまどき脚気ってね~


『なんなんですか、脚気って』


「江戸時代に流行って、江戸患いと

いわれたんだけど


玄米ではなくて精白米を食べるでしょう?


精白時に取り除いた胚芽に入っている

ビタミンB1が欠乏して

手足むくんだり、倦怠感などで

心身が不調になるんだよ』


『ええっ、そしたら毎日白米食べている

人はみな脚気に?』


「いまは食べ物が豊富で、豚肉とか

他の食べ物から補うから大丈夫なんだけどね


永平寺は粗食だからね、江戸時代なみなのかな~


『なにを食べてるんですか?』


「たしか、

朝は玄米粥と沢庵、

昼は麦飯と味噌汁、香菜(沢庵など)、

別菜(納豆、いんげん、茄子など)

夜は昼と同じでさらにもう一皿の別菜」


『完全にベジタリアンですね』


「これで激しい修行をするので

どこかで栄養が間に合わなくなるんだろうね


チョコレートやクッキーを持ち込んでいたら没収だって(笑)」


『そーなんですか!

それだけでついていけそうにないです

(><)』


『修行がきつくて逃げ出す人もいるんだって

それでタクシーをつかまえて、駅に向かおうとすると、いつの間にか、永平寺に連れ戻されているんだって』


「そーなんですか!」


『ここで逃げ出せば、もう曹洞宗の

お坊さんになれないということを

街の人達も理解しているらしいよ』


『へぇ~、きびしいんですね

それでどんな修行をするんですか


「よく覚えてないんだけど、

本堂や廻廊の清掃、これも大変らしいよ

勤行、お経をあげることね

座禅、あとは分担された作務だっかな~


ただ、食事の仕方からトイレの

仕方まで、すべて作法、作法、作法で


それを覚えるのが大変で、

もたもたすると鉄拳がとんでくるんだって

超体育会系らしいよ


ここのお坊さんの雰囲気って

みんな体育会系なんだよね~


作法是宗旨

威儀即仏法


といって、

色々説教したり、勉強したり、

考えたり、理屈をこねるのが

修行ではなく


ひたすら、威儀を正して、作法を守って

座禅をすることで


毎日のルーチンとなっている考えるという

習慣や自尊心やプライドを超えて


体当たりで、全身で感じるための

修行だから


座禅は意味があると思うよ


『はあ~~~

とても私のような可憐な乙女には

向いてない修行でございますね~』


「そだね(笑)」


「わたくし、ハシより重いものは持てなくて、

お掃除は家政婦がしてくれておりましたし

朝はロイヤルミルクティーと

1斤千円の高級食パンと

玉子とベーコンの炒めものとハッシュポテトを


夕食はサーロインステーキとワイン


わたくしの血はワインでできていて

わたくしの身体はパンでできておりますのよ』


「ああ、最後の晩餐のセリフだね(笑)


まあ、そういきなり全部できなくても

座るだけでいいんじゃない?

おもしろいでしょ?」



『はい、〈しかんたざ〉はよく分かりませんが

座るのは気分が落ち着いて、

自分の部屋なのに、こんな空間にも

なるんだとか、不思議な感じがしました

まだ、2~3回しかしてませんが』


「へぇ~、すぐにそう想えるんなら

才能がある証拠だよ


その人があるレベルに達したら

自ずと次ぎに引き上げてくれる人や

師匠、出会が巡ってくるんだって」



『そーなんですね、そしたら大庭先生も

そのひとりかもしれませんね』

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