第167話 自分を好きになる方法

 和やかなような、和やかでないようなお茶会は続いていく。

 カティア将軍とコンラッド様は運動とは?というぐらい剣を結び合っているし、私は私でランカナ様とサリュー様のことで話し合っていた。


「サリュー様が自分に自信を持てるようになるのはどうすればいいのかしら?」

「それは一番難しい問題よな。サリューは特出して、コレというものが無いと言うが、裏を返せばどの分野も高いレベルで出来ている、と言うことなのだがな」

「私なんて出来ないことだらけだけどなあ」

「ほほほほほ、出来ないことがあると自らを見つめ、その為に努力する力が姫君にはあろう?それで良いのよ」


 でもそれはサリュー様だって同じだ。王族の一員となる為に、たくさん努力して、たくさん頑張ってきている。その努力を嗤う人はサリュー様の身近にはいないと思うのだけど……それでもサリュー様は自分を追い込む。

 こればかりは心の持ちようだから難しい。私や、ウィズ殿下、ランカナ様がどう言ったところでサリュー様がその言葉を受け入れてくれなければ意味がない。


「うーん……私なんて褒められたら、すごく嬉しくなっちゃうけどな。それで調子に乗りすぎると失敗しますよ!って侍女長に怒られてしまうの」

「ふむ。確かに匙加減が難しいの。しかし姫君のように褒められ認められることをプラスと考えるものと、マイナスに捉える者がいる。サリューは後者。こればかりは我らの言葉ではどうにもならぬ」

「サリュー様には幼い頃から仕えていた方とかいらっしゃらないんですか?そう言う方からの言葉なら伝わるんじゃないかしら?」


 私にユリアナがいるように、サリュー様にもいないのだろうか?幼い頃から見ていた人ならサリュー様の性格も熟知しているはず!そう思ってランカナ様に提案してみたけれど、そんな人はいないそうだ。

 貴族の令嬢といえど、ラステアは自分のことは自分でする者が多い。だから一人がずっとついて面倒を見る、ということは稀らしいのだ。


「この国の侍女は令嬢や令息を一人前に育てる、ということを皆で協力しておこなう。誰か一人だと考えが偏ってしまうからな」

「そうなんですね。ファティシアには一人は必ず専属の侍女や侍従がつくからそうなのかなって思っていました」

「どちらの育て方も正しくあり、間違いでもあるのであろう。侍女や侍従達の性善説に頼らねばならぬし、真に心を預けられる者を作れぬともいえる」


 ライルが我儘放題していた時の侍女や侍従がいい例だ。専属でつくことはしてなかったけど、彼らは自らの保身の為にライルの我儘を増長させていたしね。今、ライルの周りにいる人達はそんなことはしない。悪いことは悪いと言うし、上手く出来たら褒めてあげている。

 その匙加減が絶妙に上手いらしい。特に従者のアッシュはライルにとても良い影響を与えている。


 視野が狭くなりがちなライル。そのライルに、他にも道はあるんだよ。と上手くコントロールしているのだ。ライルもアッシュのことをとても信頼しているし。

 ロイ兄様にロビンがいるように、ライルとアッシュの関係も二人と同じようになっていくと思う。息抜きのさせ方も上手いしね。


 立場上は上下関係があるけれど、二人の間にはとても強い繋がりがあるように私には見える。でもラステアではそんな関係を結べる人がいない。

 サリュー様の心の重荷を少しだけでも軽くしてくれる人はいないだろうか?


「どうすれば良いでしょうか?この呪いはウィズ殿下のものとはだいぶ勝手が違う気がして、私の力でも上手く助けられないし……」

「そういえば、研究の成果はどうであった?」

「え、あ、えっと……デュシスの鱗に聖属性の術式と私の魔力を入れることができたので、それを持っていれば私が側で術式を展開してなくても大丈夫そうです。まだ研究の余地はあるみたいですけど」

「そうか。しかし、それを誰が渡すか、で色々とあるな」

「私が渡すと問題があるって言われてしまいました」


 私の言葉にランカナ様は静かに頷く。私が呪ったと思われるのも心外だし、だからといってこの鱗をランカナ様やウィズ殿下からの贈り物にするわけにもいかない事情がある。


 なぜかって?だって鱗は魔力が切れると割れてしまうのだ。パッキリと。意外とわかりやすい終わり方だとカーバニル先生達は言っていたけど、でも贈り物としてあげたものが途中で壊れてしまうのは問題がある。


 それをサリュー様をよく思わない人が知ったら、悪い噂を立てられかねない。ウィズ殿下やランカナ様から頂いた物を壊してしまうだなんて!って……

 使い捨てだから、と説明して幾つか最初から渡してしまうと言うのも手かもしれないけど、その渡せるだけの量を私が作れるか?と言われると難しい。


 他の鱗と違って、デュシスの鱗はまだ未知数なのだ。まだ壊れないところを見ると、だいぶ持つとは思うのだけど……でもこれは何もしてない状態。呪いの側に置くことでどれだけ持つかは謎なのよね。


 呪いってそもそも簡単にかけられるものでもないから。実験のしようがない。サリュー様自身に持ってもらって観察するしかないのだ。


「それならさ、ルーちゃんが渡せば?」


 ようやく運動?を終えた将軍が私達の会話に割って入ってくる。私は思わず首を傾げてしまった。だってそれはダメなのだ。


「私が渡すと問題があるから、ダメなんです」

「違う違う。問題があるのはが渡すからでしょう?でもルー・カティアが渡したら?まだ女官として入りたての新米の女の子が綺麗な鱗を拾ったから是非に、って渡すのはどう?」

「なるほどな。それなら、サリューの側をうろうろしておっても問題はなかろう。新米の女官が鱗を渡したら喜ばれた、次に渡すときはペンダントに加工できるように持っていくとかな」

「そ、それってサリュー様に取り入ろうとしてるとか思われません?」

「カティア家は実力主義。それはない」


 将軍はあっさりと頭を左右に振る。そ、そうなのか。カティア家はそんな風に周りから見られているのか……

 それなら私がルー・カティアとして姿変えの魔法石でサリュー様に近寄っても問題ないのだろうか?新参者でも疑われたりしない?


「まあ事前にサリューには言っておく必要はあるな。サリューも王族の一員。いくらカティア家の者といえども、拒絶する可能性もある」

「そうですね。その辺はウィズ殿下から伝えていただけると良いのでは?」

「じゃあ、私はしばらくの間、女官として後宮で働けばいいですか?」

「姫君を働かせるのはどうかと思うが……新しい者が入ったことによって、なにかしら変化が起こるやもしれんしな。ただルー・カティアがルティア姫であることは秘密にしておこう」


 流石によその国の王女が後宮をウロウロしてるのってまずいものね。私はその提案に頷く。

 それに誰かを経由するよりも自分で渡す方が安心できる。自分で渡す方法ができて一安心だ。もしもの時は直接魔術式を使えば良いし。


「えっと、それはその……一応、あちらに許可を取ってからの方がいいのでは?」


 よろよろとしながらコンラッド様が近づいてくる。将軍は「腕が鈍ったんじゃないですか?」とコンラッド様に言うが、現役の将軍とコンラッド様では普段の運動量が違うのでは?


「あの、大丈夫ですか?」

「うん。まあ……でも次は姫君の番らしいよ?」

「えっ!!」

「そりゃあルーちゃん、食後の運動は大事だもの!」

「おねえさま……」


 しょんぼりした表情をしてみたが、将軍には通じなかった。でも運動といえどもコンラッド様と違って、膝を曲げたり伸ばしたり、腕を振ったりと体操?と呼ばれる動きだけだったのが幸いだ。


「将軍も姫君には敵わぬと見えるの」

「そりゃあもう!可愛い妹ですもの!!」

「いや、妹じゃないからね?」

「私お姉様が欲しかったので妹でも平気ですよ?」


 コンラッド様の言葉に私は大丈夫だと告げる。だってお母様によく似たお姉様なんて素敵だと思うの!そんな私にランカナ様は笑っていたけれど、コンラッド様だけが「壁が高くなった」とガックリとテーブルに伏せてしまった。


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