第63話 エンジョイ!ポーション作り!!
あの日、私はお母様の代わりに何をぶち壊すのか全くわからないまま部屋へと戻された。
カーバニル先生はそれで良いと言う。気になる言葉を言っておきながら、それで良いとは何だかモヤモヤした気持ちだ。
きっとまだ、私には話せないことなのだろう。
王城に巣食うもの。
それが何かはまだ良くわからないが、ひとまずはできることから一歩ずつ!コツコツと地道に進めていくしかない。
私にできることは限られているのだから。
「姫さん、よそ見してると手元が危ないっすよ?」
ロビンの声にハッとする。
薬草を入れるカゴを側に置いてぼんやりとしてしまっていた。手元に鎌を持っているのによそ見は危ない。
ちなみに今は畑仕事をしている最中で、魔力過多で収穫に大忙しの畑の中をみんなが動き回っている。
今日はカーバニル先生から中級ぽーしょんの作り方を教わる予定だ。
そして今日からはぽーしょん作りにロイ兄様とアリシアも加わる。
できればぽーしょんを魔術式研究機関でも量産したいみたいだけど、忙しくて人手が足りないらしい。なのでそれなり手が空いて、尚且つ魔力量のある私達に白羽の矢が立ったわけだ。
子供といえども役に立つことがあるなら役に立ちたい。
それはジル、リーン、シャンテも同じ気持ちだ。彼らも私やライルと同じようにぽーしょん作りに参加している。
まあ三人は自分達の家族に渡したい、と言う気持ちが大きいかもしれないけど。
最初はそれで良いんじゃないかなーと思う。
誰かのためって、思えば作るのも楽しくなるものだ。
ふと、目の前にいる兄様の従者のロビンに問いかける。
「……ねえ、ロビン。ロビンもぽーしょん作る?」
「あー俺でも作れるなら……てか、ポーションの発音おかしくないですか?」
「そうなの?」
いきなり発音がおかしいと言われ私は首を傾げた。
「ポーションですよ、ポーション」
「ポーチョン?」
「ポーション」
「ポーちょ……?ぽしょん?」
「ポーション!」
「ポーション!」
ロビンがポーションと何度も繰り返す。私は何度も噛んだり詰まったりしながらようやく正しい発音を言えるようになった。
なんと言うか、発音がしづらいのだ。私は口の中で何度もポーション、ポーション、ポーション……と繰り返す。
「そういや、ロイ様もぽーしょんでしたねえ。発音」
「だって身近に正しい発音してくれる人って二人ぐらいしかいなかったんだもの。二人からは特に何も言われなかったし」
「ラステアに行くなら正しい発音覚えてください。向こうの薬なんですから」
「……そうね。確かに同じ物を作っているのに発音が変なのってなんだか失礼だものね」
そうですよ。と言われ私はポーション、ポーション、ポーション、と繰り返す。するとライルが側に寄ってきて、何をしてるんだ?と言ってきた。
「あのね、ポーションの発音がおかしいから直してたの」
「ぽーしょん?」
「ポーション、ですよ」
ロビンが正しい発音をライルにも教える。
「ポーちょん?」
「ポーション」
「ぽーショ……ん?ポーション?」
「そうそう。上手いですよ。はいもう一回」
「あ、ああ。ポーション?」
「上手い上手い。もう一回」
「ポーション」
「バッチリです」
グッと親指を立てて上手くできていると言うと、ライルはホッとした表情を見せた。むむ、私よりも上手く発音できてない??
私も何度もポーションと声に出す。ライルも一緒に声に出していると、ジル、リーン、シャンテも不思議そうな顔で寄ってきた。
みんなでポーションの発音をロビンに教わり、何度も繰り返す。
「あらやだ、ヒナの学校でもやってるの?」
「いや、そう言うわけじゃないんすけどね……」
先生が肩を震わせて笑いだす。そこに兄様やアリシア、アッシュが加わり兄様とアッシュも正しい発音ができるようになった。
「ねえ、ロビンはいつの間に正しい発音ができるようになったの?」
「そうだよね。最初は僕と変わらなかったはずなのに」
「いやですねえ。できる従者と言うのはそう言うものなんですよ」
フッフーとロビンは笑う。確かにロビンはいつの間にかサラッとこなしていたりするのだ。自分で自分のことをできる従者と言うぐらいだから、やっぱりロビンはできるのだろう。
「さ、ポーションの発音も綺麗に言えるようになったことですし?みんなで初級ポーションを作っていくわよー!」
先生の掛け声で、私達は収穫したばかりの薬草を持って
今日初めて作る兄様とアリシア、ロビンの為に先生が一から作り方を教えてくれる。私達はもらっているレシピを見ながらおさらいだ。
そして時折、先生の質問に答えを返していく。
「ポーションを作るのにどのぐらいの魔力量があればできるんです?」
「残念ながら……水の色が変われば問題はない、としかまだ言いようがないのよ」
ロビンの質問に先生がまだわからないと答える。
ここでポーションを作っているのは貴族か王族、例外はベルとアッシュだけど二人とも魔力量は一般の人より高かった。
「ロビンは魔力量低いの?」
「俺は普通ですかねえ。一応まだ伸び盛りではありますけど」
「あら、幾つ?」
「6をようやく超えたあたりです。アッシュは俺よりあるよな?」
「はい。俺は今7から8の間ですね」
先生はそれを聞いて、元々が魔力過多すぎる畑の薬草だから問題ないと判断した。ただ、初級は作れても中級以上はもう少し魔力を入れないと難しいらしいので、水の色が変わらなかったら無理らしい。
「なるほど。そりゃわかりやすい」
ロビンは気負うことなく、先生に言われた通りに、ビーカーに薬草を千切って入れて、水を注ぎ、魔力を中に注ぐ。
すると水の色が初級ポーションの空色に変わった。
「初級は平気っぽいっすね……」
ビーカーを小さなコンロで煮込み、グツグツと言ってきた所で火を止めるとそれをこし器でこしながら小瓶に入れていく。
「へー煮るともう少し色が変わるなあ」
「ロビンの初ぽーしょんね!」
「姫さん、発音」
「ポーション!」
「よろしい」
ロビンはニッと笑うと、袖の所から何かを取り出した。そして自分の右手のひらに当てると、スッと動かす。
すると、あっという間に血が溢れてきた。
「ろ、ロビン!?」
ロビンは怪我をしていない手で私を制すと、小瓶の中身を一気に煽る。
それから怪我をした右手を水で洗い傷痕を見た。
「お、これはすごい!」
「す、すごいって問題じゃなくてね!?それはもうカーバニル先生が初回にやったわ!!」
「自分でもちょっと試してみたいじゃないですか。従者的に」
「あーその気持ちは、はい。わかりますねえ」
アッシュまでもがロビンの意見に同意する。いやいや、しなくていい怪我はしないで欲しい。急にやられるとこっちの心臓に悪いじゃないか!
「ロビン、やるなら淑女のいない所でやらないとね」
そう言って兄様がロビンを嗜める。いや、いない所だったら良いって話でもない気はするが……するとロビンは私とアリシアを見て、淑女……?と呟いた。
「わ、私はともかく、アリシアは淑女でしょう!」
「そうよそうよ!ちびっ子二人はともかく、アタシだって立派な淑女よ!!」
先生までも一緒になってロビンに文句を言う。先生の場合は自分は淑女だとの主張だけども。
「俺目が悪いんすかねえ……淑女はいない気がする」
「まあ、土いじりを喜んでする淑女はそういないな」
ライルも少し困り気味にロビンの意見に同意した。兄様は肩を震わせながら笑っている。笑われた私はぷっくりと頬を膨らませた。
「そんなに頬を膨らませてるとリスみたいですよ」
「別に何も入ってないもの」
しかしロビンは私の両頬を手で挟み中の空気を抜いてしまう。
「ほらほら、笑顔、笑顔。淑女はいつもニコニコしてるもんです」
「もう!ロビンが怒らせること言うからでしょう?」
「確かに」
兄様に指摘されてロビンは肩をすくめる。
先生からその辺にしておきなさい、と言われ兄様とアリシアが初級ポーションを作っている間に私達は次の中級ポーションを作ることになった。
「作り方は初級と一緒よ。ただ薬草と水の量が増えるの」
そう言って私達の前に薬草を七種類置いて見せる。
初級ポーションを作る時に使った薬草にプラス二種類だ。つまり効果を上げるとなると、更に足していく、と言うことなのか?
「さ、薬草を千切ってー水を入れてー魔力を入れる」
先生の言葉通りに私達は作っていく。ロビンは魔力量がそこまで多くないから初級を何本も作るよりは先にできるか確認したいと、一緒に中級を作っていた。
順調に私やライル、リーン、ジルの順番で色が変わる中、シャンテとロビンはなかなか色が変わらない。
「あ、色が変わった」
シャンテのホッとした声がする。
ロビンはまだ変わらないようだ。しかしビーカーの中を見ているとゆっくりとだが色が変わり始める。
「ロビン、色が変わり始めたわ」
「ホントです?これ、結構キツイすわ」
ロビンは眉間にシワを寄せながらビーカーの中に魔力を注いでいた。
そして完全に色が変わる頃には、疲れて椅子に座っている。先生に最初に作った初級ポーションを飲むように言われ、ロビンはそれを飲み干すと難しい顔をした。
「俺は、初級までっぽいっすね」
「そうね。中級を2本作るのに初級1本使うぐらいなら、その魔力量で初級作れるもの。シャンテも初級を頑張りなさい。無理に魔力を使って倒れたら意味ないわ」
「……はい」
色は変わりはしたが、注ぐ魔力量が増えるとやはり難しいものがあるみたいだ。
ポーションを量産するなら時間をかけて中級を作るよりも、手早く初級を作れた方が良いのだろう。
「そんなに落ち込むことはないわ。また魔力量が増えたら中級に挑戦すれば良いもの。それに時間をかければ作れるわけだしね」
「量産するには向いてないってことですね」
「そうね。できるなら初級ポーションがたくさん欲しいの。魔物を討伐に行くから、その時に間に合わせたいのよ」
先生の言葉にライルが反応する。魔物討伐、と聞いて彼らを思い出したのかもしれない。
「先生、魔物討伐は……やはり危険なものなんですよね?」
「ええ、とても危険だわ。でもしっかりと訓練した騎士と魔術師達が行くからそこまで大きな被害は出ないはず。なんせアマンダも行くしね」
でも無傷とは言い難いから、初級ポーションがたくさん欲しいと言う。そうすれば同行する神官の負担が減らせると。
「聖属性の神官様は少ないんですよね?」
アリシアの言葉にそうよ、と先生は頷いた。もちろん魔術式研究機関にも若干名聖属性持ちはいるそうだ。だが聖属性が飛び抜けて強いわけではないので、大怪我をした時には神官がいた方が良いらしい。
「聖属性って、それを持ってるだけで怪我が治せるのかと思っていたわ。そうではないの?」
「属性を測る石板があったでしょう?アレは一緒に属性の強さも見ているの。聖属性だけなら訓練していけば怪我も治せるけど、他にも使えると相性の良い属性がどうしても優先されちゃうのよね」
「聖属性を優先することはできないの?」
「したいのは山々だけど、適合している、ってだけだから……身になるかはやってみないとわからないの。聖属性ってそこが困るのよ」
聖属性はどうやら使えるようになるまできちんと訓練が必要になるらしい。
私は石板で測った時のことを思い出す。聖属性のメモリは他の属性よりも多かったはず。ならば訓練すれば私は結構な聖属性の使い手になれるのだろうか?
「ま、今はポーションが作れるようになったしね!これが量産できれば、神官達もハードな生活からおさらばできて感謝されるわよ」
「ハード……?」
「どうしても治してもらいたい人はたっっくさんいるからねえ」
どうやら神官達の生活はかなりハードなようだ。魔力過多の畑に薬草、そしてある程度の魔力があれば作れるポーションはきっと彼らの助けとなるだろう。
私はそう願いながら、ポーション作りに励むのだった。
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