第14話 モブ王女は覚醒す?
ヒュース騎士団長が騎士達の怪我の確認を終えて戻ってくる。
流石に馬に乗っていた事もあり、騎士達も無傷というわけにはいかなかったが殆どが軽症だと言う。
私達も別の馬車に乗っていた侍女達に怪我はないかと確認したのだが、不思議な事に誰も怪我をしていなかった。
不幸中の幸いとはこう言う事を言うのだろう。
正直、私はすらいむの魔術式が展開された時に体が浮いて馬車の中でそれなりに打つかった事もあり、他のみんなはだいぶ怪我をしているのではないかと思っていた。
妊娠中のマリアベル様も体調に問題はないと言う事だし、あとは少し戻ってそこで馬車を用立てるか何かすれば王都に戻れる。そう思っていた。もちろん、多少歩くのは仕方ないと思っていたけれど……それなのに何やらお父様と騎士団長が話し込んでいる。
何か困った事でも起こったのだろうか?崖崩れに巻き込まれると聞いていたけど、助かった者達がいなくなっているとは思わなかった。
無事に土砂の中から出てくれば何とかなると多少楽観的に思っていたので、これ以上の装備を持ち合わせてはいない。
私のマジックボックスの中は視察先で買った花や薬草、あとロイ兄様とアリシア、離宮の侍女達、リュージュ様に捨てられそうだけどライルのお土産ぐらいだろうか?
因みにマジックボックスとは魔術師が作っている特別な鞄のこと。見た目は普通の鞄だけど、中身の容量はかなり入る。どう言う作りになっているかはわからないが、この中に入れると鮮度も保たれるのだ。これはかなり高価なもので私は亡くなったお母様から譲り受けていた。
マジックボックスを持ってきているのだから、もっと役立つものも入れておけばよかったと今更ながらに思う。食料とか、野宿できる装備とか?考えればきっともっと持ってくる物はあったはずだ。
兄様にもっと確認しておくべくだった、と考えているとお父様が私を手招きして呼ぶ。
「お父様?どうされました」
「ルティア、先程の魔術式を展開した魔法石を見せてくれないか」
「え、ええ。構いませんわ」
私は手に持っていた髪留めをお父様に手渡す。するとお父様は「鑑定」と小さく呟いた。すらいむの魔術式がそんなに気になるのだろうか?首を傾げているとお父様がこれを誰にもらったのかと聞いてくる。
「この髪留め自体は私のものです。でも魔術式はファーマン侯爵に入れて頂きました」
「ファーマン侯爵に?」
「お友達になったアリシア様のお父様です。私が庭園を庭師達と管理していて、夏場は直ぐに水がなくなってしまうと伝えた所、アリシア様と考えてくれましたの」
まさかアリシアの話をそのままするわけにもいかないので、そう言うことにしてあるのだ。でも最初に見せてもらったすらいむを見て、これなら夏場の水仕事が楽になるかな?と思ったのも事実である。
現実には魔力を注ぐのを止めると消えてしまうので、もっと改良が必要なのだけど。
「そうか……侯爵が……だからこれには救難の魔術式も入れてあるんだね」
「え?」
それは初耳だ。救難の魔術式と言うことは、何か一大事が起こったら相手にも伝わると言うこと。つまり今の状態が侯爵にも伝わったと言うことだ。
「姫殿下、これは元々あんなに大きなものを作り出すつもりで作ったわけではないのですよね?」
「え、ええ。もちろんです。だってそんなことしたらお庭が潰れちゃうわ」
私はそう言うと、本当はこのぐらいのサイズと手で示してみる。
「と言うことは、侯爵が姫殿下が使い方を間違えた時の為に入れたと言うことですかね?作った手前、何かあったら……と」
「そうだろうね。新しい魔術式だから念の為、と言うことだろう」
「お父様、救難と言うことはここにいれば侯爵が助けに来てくれると言うことでしょうか?」
「可能性は高いでしょう。多分、助かった一団の早駆けがそろそろ王都に着いていてもおかしくない頃ですからね」
では動かない方が良いのだろうか?それを話し合っていたと言うことなのか?お父様と騎士団長の顔を交互に見ると、お父様が私の頭をそっと撫でてくれた。
「お父様?」
「ルティア、私はね……この魔法石の中に治癒の魔術式が入っていると思ったんだ。あれだけの崖崩れに巻き込まれたにしては怪我人が少なかったからね」
「はあ……」
侯爵はそこまで手厚くしてくれたのか、と心の中で感謝をする。お陰で怪我人は少なくて済んだし、誰も死ななかった。
「姫殿下、魔力測定はされましたか?」
「いいえ。まだですわ」
騎士団長の言葉に私は首を振る。魔力測定は10歳になると神殿に行ってやるものだ。アリシアはすでにやっているようだが、アリシアが早かったのであって私が遅いわけではない。
「では属性測定も?」
「もちろんですわ。だってそれは魔力測定と一緒にするものでしょう?小さい子供のうちは属性が安定しないから……」
そう言うとお父様と騎士団長はお互い顔を見合わせる。そしてお父様が私に向かって小さく「鑑定」と呟いた。
ふわりと何かに包まれるような感覚。お父様は暫くジッと私を見ていると、騎士団長に視線を向けた。
「やはりそうだな」
「そうでしたか……おめでとうございます、陛下」
「きっと普通に生きていたら目覚めなかっただろう。命の危機に瀕したからこそ、目覚めた力だな」
「お父様……?」
一体何を言っているのだろうか?私はお父様と騎士団長を交互に見る。お父様は急に私を抱き上げ、今回みんなが助かったのは私のお陰だと言ったのだ。
「いえ、どちらかと言うと侯爵の魔術式のお陰ですわ。私はちょっとその、お父様に見て頂こうと悪戯心で持ち込んだものですし」
「確かに侯爵の魔術式があればこそ、ではあるんだが……それだけじゃないんだ」
「それだけじゃない?」
「ルティア、君は聖属性の適合者だ」
「聖属性……と言うとあの!?」
「そう、あの聖属性だ!ルティアは聖なる乙女の資格がある!!」
私は喜ぶお父様に抱き抱えられながら必死でアリシアの語った物語を思い出していた。
聖なる乙女、それは————ヒロインと呼ばれる女の子ではなかったのか、と。
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