第13話 斯くして王は生還する

 みんなに微妙な視線を向けられたけど仕方がないじゃない?アリシアがすらいむと言う謎の生物っぽく作ってみました!と言っていたんだもの。私のせいではない。多分。

 それに土砂崩れに巻き込まれた他の人達も助かったようだし、終わりよければ良いのよ!と自分を納得させる。


『陛下、どういたしますか?』

『いつまでも土の中にいるわけにはいかない。身につけている宝石類を全てこの水の塊の端に持って行ってくれないか』


 お父様は自分の魔術を使えるようにする為にそう騎士団長に頼んだ。しかし騎士団長は何故か私を見る。


『姫殿下は土系の魔術式は……?』

『まだ簡単な物しか使えません。それに魔法石に魔力をずっと注いでる状態なのでこれ以上は無理です』


 ここでババーン!と格好良く魔術が使えたら良かったのだけど、今の私にできるのは簡単な魔術式を展開させる事ぐらい。上に覆い被さっている土砂を退けるほどの土系の魔術式は使えないのだ。


『……ルティア、魔法石に魔力を注いだままなのか?』

『はい。ずっと注いだままです』


 そう答えると、お父様はなら土砂も退けられるかもしれないと言い出した。そんなに高度な魔術はまだ使えないのだけれど……と思っていると、すらいむを動かせないかと言うのだ。


『これ、ですか?』

『そう、これ』

『う、動かすとはどんな感じなんでしょう?』


 魔法石に魔力を注ぎ続ける事は普段しない。魔法石はそもそも生活魔法中心だし、注ぎ続ける必要がないからだ。ほんの少しの魔力でも使える。だからこその魔法石。

 動かしてご覧と言われて私はパニックになる。

 動かす?動かすってどうするの!?土砂を退けるぐらい動かすのはどのぐらい動かせば良いのだろう?まるで分からなくて、私の心の動揺が馬車を照らしている光に現れ始めた。

 チカチカと点滅し始める光。どうしよう!これで消えてしまったらもう一度光を出す事ができるだろうか?不味い。不味いぞ!?


『姫殿下、落ち着いてください』


 優しい声が耳元で囁く。そしてそっと目を手で覆われ、落ち着いて、ともう一度囁かれる。


『姫殿下、上に伸ばすイメージをしてください』

『うえ……?』

『ええ、すらいむを上に上に伸ばしてみましょう?』


 その時にアリシアからすらいむの魔術式とそこから小さなすらいむを出してくれた事を思い出した。本来のすらいむはぽっちゃりとした円錐状の形なのだ。あれが上に上に伸びる所を想像してみる。

 きっと円錐状から上に真っ直ぐ伸びたら壁のようになるだろう。ぐーんと伸びて、伸びて、水の壁が出来上がるのだ。


『姫殿下、とてもお上手ですよ』

『ああ、良くやった』


 お父様とマリアベル様の声がする。そしてそっと目を覆っていた手が外れた。

 馬車は横転しているけれど、その窓から空が見える。そして土砂は上の方にあった。

 なんとも不思議な光景だけれど、私は上手くできたようだ。




 ***

 ヒュース騎士団長に壊れた馬車の中から出してもらい、マリアベル様とお父様もそれに続く。


『これは、姫殿下が魔力を注ぎ続ける限りこのままでしょうか?』

『……多分。魔力を注ぐのをやめたらすらいむは消えると思います』

『ならば、このまま少し離れた場所まで行かないとダメですね。馬車がこの状態なので歩くことになりますがよろしいですね?』


 私は騎士団長の言葉に頷く。でも私よりもマリアベル様の方が心配だ。お腹に赤ちゃんがいるのにそんなに歩かせるわけにはいかない。

 お父様を見ればマリアベル様と一緒に持っていた宝石類を袋にまとめている。あの宝石の中に魔力を封じる魔法石があるのだろうか?鑑定魔法が使えれば直ぐにわかるのだけれど、生憎とそんな高度な魔術は使えない。

 土砂崩れに巻き込まれた騎士達と侍女、それと馬数頭と合流し、土砂の影響のない場所まで移動する。


「この辺なら大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫そうだね」


 落ちた場所から少し上がり、その場所から未だ壁のようにみょーんと聳え立つすらいむを見ていると何とも言えない微妙な気分だ。

 私は周りに誰もいない事を確認すると、魔力を注ぐのを止める。するとすらいむが徐々に消えていき、軽い地鳴りと共に土砂がその場に残った。

 暫くすると先行して崖崩れした場所を見に行っていた騎士達が戻ってくる。


「団長!申し上げます!!巻き込まれなかった他の者達は姿が見えません」

「何だと!?我々を探していないのか?」

「丁度、陛下が乗られた馬車の辺りで前と後ろに分断されたようですが……」


 その言葉にやっぱりそうなのか、と納得してしまった。この事故はわざと起こ

 されたのだ。お父様達を殺す為に。


「土砂に埋もれたのを見て、パニックになったのでしょうか?」


 マリアベル様の言葉に騎士団長は首を振る。そんな鍛え方はしていない、と。

 つまりは誰かが指示を出したのだ。探すよりも先に城へ帰還することを。最も、この惨状では仕方ないかもしれない。

 お父様が魔術を使えたのなら、直ぐに土砂の中から出てきただろうし。


「しかし、だいぶ土砂に埋もれましたから……残ったとしても数名でしょう。そのうちの数名が城へ早駆けして、残り数名が探している可能性もあるかと」


 確かに土砂に飲み込まれた人数は全体の3分の2ぐらいになる。その3分の2が今ここに居るのだ。

 運良く死者は出なかったけれど、それでも全員が無事ではない。

 誰かがお父様達を殺す為に手引きした可能性もあるが、それとは関係なく探してくれている可能性もある。

 それに巻き込まれなかったからと言って怪我をしていないとは言い切れない。

 お父様は少し考えてから待つ事を決めた。


「さっきの壁を見て、探しているのなら気がつくだろう。暫く待ってみよう」

「しかし……」

「ひとまず騎士達の怪我を確認しなければいけない。侍女たちも怯えているようだし、少し落ち着こう」

「畏まりました」


 騎士団長はお父様の提案に頷くと巻き込まれた騎士達の怪我の具合を確認し始めた。私とマリアベル様は別の馬車に乗っていた侍女達の元へ行く。

 彼女達も急にすらいむの中に入って驚いた事だろう。水死すると思った可能性もある。助かったとは言え申し訳ない事をしてしまった。


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