第7話 おねだりの成果
私と言う存在は王城にある離宮ぐらいしか出歩いたことがない。外の世界に行くのはカレッジやアカデミーに通う時ぐらいだろう。それだって王都の中限定で、国の中を見て回ることなんて絶対にない。
もし有るとしたら……それは、私が外の国に嫁ぐ時だけだ。だからこそ、このおねだりはお父様に受け入れてもらえる可能性が高いと思う。
「ねえ、お父様……ダメかしら?」
精一杯の甘えっ子ポーズでおねだりを繰り返す。しかし視察は遊びではない。お父様は困ったように眉を顰めた。
「ルティア、視察は遊びに行くわけではないんだよ?」
「もちろん存じてますわ。人々の暮らしを見て、困っている事がないか確認するんですよね?」
「その通りだ。滞りなくその地域が諸侯によって治められているか確認する為にお父様は行くんだよ」
「私、お仕事の邪魔はしませんわ」
「お土産に花を持って帰ってくるのじゃダメなのかい?」
「そこでしか根付かないお花もありますもの……それに、土地によって花の色は変わるんですのよ?同じお花でも王宮で育ったお花と、その土地に合ったお花では違うんです」
できるだけその土地にある花を見たいアピールをする。もちろん魔法石を使えば、鮮度を保ったまま王城に花を持って帰ってきてくれることは知っているけど、それだけじゃない事を知ってもらわなければいけない。
「お父様、お願いします。ちゃんと言うことも聞くし、良い子にしてますわ」
「しかしな……」
両手を組んでお願い!とアピールするもお父様は渋い顔をするばかり。
アリシアの話を伝えられれば良いけれど、そんな事はただの世迷言。下手すれば謀反の心得ありと思われても困る。
自力でお父様の視察に着いていくにはお願いするより他はない。
「————陛下、連れて行って差し上げたらどうです?」
「ハウンド、ルティアはまだ幼い。長旅に耐えられるか……」
「そうはおっしゃいますが、姫殿下は大変健康にお育ちです。ロイ殿下も同じ頃に視察にお連れになってるではありませんか」
「ロイは男だ」
男と女で一緒にするな、とお父様が宰相様に文句を言う。しかし宰相様は少し呆れた顔でお父様を見た。
「姫殿下も継承三位のお方です。国の事を知るのに早いに越したことはありません」
継承三位なら多分、確実に、どこかにやられてしまう気はするけれど……と内心で思っていると、宰相様が私を見る。その目の奥に何か嫌なものを感じた。
氷の宰相、カルバ・ハウンド
大変頭の切れる方だが、不要だと思えばバッサリと切り捨てる。だからこその氷の宰相。アイスグレーの瞳が余計にそうさせるのだろう。
でも今はたとえ嫌な感じがしても宰相様を味方につけるしかない。私が行くことで変わる未来があるかもしれないのだ。
「お父様……視察までにもっと体力をつけますわ。侍従長にお願いして、体力をつけるための練習をさせてください。それなら心配いらないでしょう?」
子供が長旅に耐えられないと言うのなら、耐えられるだけの体力をつけると言えば折れてくれるのではなかろうか?そんな考えから提案してみる。
「……女の子が体を鍛えるのは大変だぞ?」
「女性騎士もいるではありませんか」
「彼女達は……いや、そうだな。ルティアは離宮の庭園も手伝っているのだったな」
「はい。ちゃんと私自身がお手伝いしております。最近は庭師の方にも怒られることが少なくなりましたのよ」
庭園を管理する庭師に自分もやりたいと頼み込んだ時、ダメなことはダメと言うが大丈夫かと確認された。
お姫様に肉体労働は無理だと思われたからだ。私は自分の花は自分で手入れします!と伝え、その為の手を貸して欲しいとお願いした。
その為に怒られるのなら自分が悪いのだから仕方ない。不敬とは思いませんと伝えてある。それはお父様もご存知だ。
お父様はジッと私を見ると、仕方ないと言う風にため息を吐かれる。
「わかった。連れて行こう。ただし、みんなに迷惑をかけるような事があれば途中で王城に帰すからな?」
「ありがとうございます!お父様!!」
第一関門が突破できたことに嬉しくてその場で飛び上がってしまう。そんな私の姿を見て宰相様が姫殿下、と諫めてきた。
私は慌ててドレスを整えると、淑女らしく裾を摘みお父様にお礼を述べる。
「ありがとうございます。お父様。視察までにきちんと体力をつけて、みんなを困らせないように致しますわ」
「行く場所の資料を渡すからきちんと読んでおきなさい。それも王族の務めだ」
「承りました」
後で部屋に持ってきてくれると言うので私はそのまま執務室を出て自室に戻った。
「ロイ兄様聞いて!視察についていけることになったわ!」
「本当に!?」
兄様に駆け寄ると兄様は驚いた顔になる。多分断られる可能性の方が高いと思っていたのだろう。
「ええ、ちゃんと体力もつけて迷惑もかけませんとお伝えしたら、宰相様が口添えしてくださったの」
「そうか……でも、本当に大丈夫?」
「大丈夫ですわ。でも、もしも……私もお父様と一緒に何かあった時にはお兄様がアリシアを助けてあげてね?」
「……わかった」
まだ不安そうな表情の兄様にギュッと抱きつく。
「きっと大丈夫」
「そうだね。ルティアは機転が効くから……きっと父上の助けになる」
兄様が優しく抱きしめ返してくれた。
子供の私達にはできることは少ない。アリシアの話が現実に起こらない事を願いながら、私達は私達にできることをするだけだ。
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