第20話

「魔法と隣り合った時代……」


 そんなものは、なんていうかーー。


「「ファンタジー……」」

 意図せず霧島さんと声がハモる。


「はっはっは! 二人とも良い反応だ! これで話の初めにあった、全ての生物は魔法を使える、という説に行き着く訳だな!」


 世界には魔素が満ちていて、魔法が使えるようになった……。実際に使っている身とはいえ、なかなかに信じ難い事実だ。


「博士のお話し、分かりやすくて面白いー! あれ? じゃあどうすると、魔法は使えるんですか?」

 霧島さんはまず褒めて、疑問を投げかける。


 ん? 段々と褒めの感情は薄くなっている気がする……。めんどくさくなってませんか?


「当然の疑問だ。よし、次の段階だな。魔法を使うにはーー」

 ピンポーン。チャイムが鳴った。


「まったく! なんて間の悪いチャイムだ! いいか、魔法を使ーー」

ピンポーン。再びチャイムが鳴った。


「ちょっと行ってきますね!」

 プンスカと怒っている博士を尻目に玄関へと向かう。今日はやたらと来訪が多い。


 ガチャリ、ドアを開けると、一見警察のような出立ちの男が立っていた。

「はい! ……どちら様でしょうか?」


「君は……。失礼、魔連の遊崎と申します。スカウトをしたく、お伺いさせて頂きました」

 遊崎と名乗る男は、こちらを見るや否や目が僅かに見開いた。


「魔連? スカウトって、誰をですか?」


「急で申し訳ございません。我々は魔法使いによる秩序ある社会を目指すための連合、長いので通称"魔連"と呼称しております。実は……貴方のことを調べさせて頂いておりまして。魔法、お使いになりますよね?」

 柔和な笑顔をして、丁寧な話し方で言葉を並べる。


 のっけから、なんて頭の痛くなる話なのだろうか……。

 曰く魔連とかいう組織の勧誘、ということらしいが、怪しい。無下にしてしまいたい、が……またしても魔法を使ったことがバレている。

 あんなに慎重に過ごしていたのに、何が悪かったんだろうか。


 頭に思考を巡らしていると、畳み掛けるように優しい声で諭される。

「きっと、恐ろしい目に遭いましたでしょう。私どもは、魔法による犯罪を防ぐために、立ち上がった組織なんです」


「つまりは自警団みたいなもんですか? 」


 グルメコーポ殺人事件の犯人みたいな奴がいるとすれば、警察の手に余るのかもしれない。

 霧島さんの話でも、魔法を使った犯罪が起きているようだし。


「ええ、今はまだその程度ですが、ゆくゆくは世界の基幹になる組織だと、自負しております。もしも宜しければ、詳しいお話をさせていただーー「こんのペテン師め! ノコノコと現れたな!」

 背中越しに叱咤するような声が急に響く。確認するまでも無く……博士だ。


「おやおや、急に誰かと思えば……。こんな所で何をされているですか、白木教授」


 博士は白木という名前だったらしい。そして、どうやら二人は知り合いのようだ。


 訳がわからず呆けていると、博士がぐいっと前に出てくる。


「貴様らの嫌がらせに決まってるだろうが! まったく、お前も感心した顔をしてからに!」


「嫌がらせって、魔連の人達が相手だったんですね……。でも聞いてる限り、そんな悪い人達じゃ無さそうな……」

「甘い! まったく、ボンクラめ! こいつらはな、言葉巧みに人を騙し、骨の髄までしゃぶりつくし、挙げ句の果てには見捨てる……悪魔の化身だぞ!」

 一体何があったのか、凄まじい怒りようである。


「あの件は、我々としても想定外だったんですよ。いい加減納得して、協力して頂けませんか」

 遊崎さんは困ったような顔で諭す。


「なーにが協力だ! 私をWERDOから追い出したのも貴様らの仕業だろうに! 大体、この坊主は大した戦力にもならん! 帰った帰った!」

 手をばっばっと振り、扉を閉めようと手をかける。


 これで終わり。かと思いきや、足が扉に挟まる。悪徳セールス……。


「また、日を改めてお伺い致しますね。白木教授が居ない時にでも」

 遊崎さんはこちらを見てウインクをした。


 ガチャン、扉が閉まる。

 ……思わず溜息が出てしまった。


「まったく胸糞悪い! あの顔を見るだけで虫唾が走るわ!」

 博士は遊崎さんが居なくなった後も、まだ怒っている。


「とりあえず、戻りますか……」

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