第17話
「狭くてごめんね。てきとうにベッドにでも座って?」
「なんか……ドキドキしますね。分かりました!」
部屋に女子と二人だけ、当然のように鼓動が全身で分かるほど高鳴っている。
結衣からは抗議の声が出たが、元々そこそこに切り上げて買い物に行く予定にしていたため、なんとか切り抜けられた。
素敵な妹作戦が仇となったのだった。
「ぼちぼち本題に入ろうか。霧島さん今、魔素は見える?」
「いえ、特には見えないです」
やはり何もしていないと見えないようだ。
「そっか、じゃあ今度は?」
体の中で魔素を意識する。
「あ! ……全身に視えます! いつも視えていたやつです!」
「やっぱりか。そしたら、今度はどう?」
魔素の流れを意識して、右手に集中する。
「どんどん動いて……右手に集まってます!」
「よしよし、じゃあ今から魔法を発動するから」
あまり強すぎない光量、懐中電灯を意識して魔素を変換する。
ーー、パッと右手が光る。
「わあ! 凄い!! 光ってます!! これが魔法……」
霧島さんの目に光が反射してキラキラとしている。驚いてもらえたようだ。
「こんなもんかな。思ったより地味でしょ?」
「そんなことないですよ! なによりも、私が視てた不思議が、ちゃんと意味を持ってたことに嬉しくて……!」
うるうるとした目で、感極まっている。
今まで変人扱いされ、不幸の前兆にもなっていた原因に理由がついたというのは、それだけでも意味があるに違いない。彼女の今までを考えると、多少なりとも力になれた事に嬉しさを感じる。
「これが霧島さんが視えていた謎、の正体ね。今やってみて分かったけど、視えるのは魔素を俺が認識した時みたいだね」
「認識した時、ですか?」
「そう、魔法って魔素を体の中で認識しないと使えないんだ。プロセス的には、魔素の認識、魔法のイメージ構築、変換して発動みたいな感じ」
「はえー、使うまでに時間がかかるんですね」
「練習すると早くはなるんだけど、威力とか調整すると多少はね」
現時点では認識から発動までの時間は、ボールを投げる予備動作くらいだ。
調整の時間は、言わば握り方を変えている程度に考えると分かりやすい。
霧島さんが魔法を使えるようになったら、教えてあげようと思う。
霧島さんは少し考え込むように遠い目をすると、少し困った顔で口を開く。
「そうすると……私はどうやって視てるんでしょうか?」
「そこなんだよね、不思議なのは! 俺も散々やろうとしたけど、魔素を目で見ることが出来なかったんだよ……。是非とも使い方を教えてもらいたいなと思ってさ!」
「そ、そうなんですね……。使い方かぁ……」
実際にはそれだけじゃなく、他の魔法も使えないのだ。例えば、水魔法(仮)を使おうにも手から水は出てこない。
魔素が見えるなんて魔眼のようでカッコいいし、もしも相手が魔法で何かしてきても、その前に察知できるのは大きなアドバンテージだ。
「感覚とか、分かる範囲で教えてもらえない、かな?」
「うーん。こう、ふわぁってなってるので、んッって感じて意識するとチカチカって視えます!」
霧島さんはまさかの感覚派だった。
「ふ、ふわぁ、か……」
「ごめんなさい……伝えるの難しくて……」
「ううん、大丈夫! 使える可能性があるだけでも充分進歩があったし!」
「そうだったら良いですけど……。例えばなんですが、私が逆に魔法を使えるようになれは……しないですか?」
「霧島さんが? なるほど……」
「そうすれば使い方のコツとかも上手く伝えられる気がするんです!」
魔法を使う感覚と、彼女の眼の感覚をすり合わせれば分かるようになるかもしれない、ということだろう。
「たしかに目で視えてる分上達も早そうだよね。……うん、そうしようか!」
「やった! なんだか魔法使いなんて、ちょっと憧れちゃいます!」
嬉しそうにしてるのを見ると、こちらも顔が綻ぶ。
「まだまだ手探りの最中なんだけどね。よし、一緒に頑張ろ!」
ーーピンポーン。チャイムが鳴った。
宅配か何かだろうか?
「ありゃ、ちょっと待っててもらってもいいかな?」
「もちろんです!」
パタパタとインターホンの画面に向かうと、藍色の服を着た男性が映っている。……何かの業者か。
「今行きまーす!」
扉を開けると、会ったことのない人物ではあるが、どこかで見たような顔をしていた。
男はこちらを観察するようにじーっと見るだけで、言葉を発しない。薄気味悪さすら感じる気がした。
「あの、どちら様ですか?」
「君は……隔離対象の疑いが掛かっている。平和な日常を失いたくなければ、協力して頂きたい」
「ちょっと何言ってるのか分からないんですが……」
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