第14話


「それは……」

 唐突な告白に衝撃で言葉が詰まる。


 察するに、彼女は魔素が視えるのだろう。

 それにしてもどこまで話すべきか。


「急に変なこと言ってごめんなさい! 痛い子とかそういうのじゃ無くて、本当に見えてて……! ってこれじゃあ、ますます変人みたいですよね……。もう、どう言ったら……」


「大丈夫。見えるってどういう感じに?」


「はえ? 引かないんですか? この話を学校でしたら、不思議ちゃんって呼ばれるようになっちゃって……」


 霧島さん自分から話し始めたくせに、目を丸くしてポカンと驚いている。


「そりゃあ、普通はそうなるよ。さ、具体的に教えてくれる?」


「はい、それじゃあ遠慮なく……。気づいたのは最近なんです。ごく稀に、体の内側から光みたいなものが溢れる人が見えてーー」


 彼女の話を要約すると、低い割合で魔素を使う人が視える。

共通点としては、その後に何かしらの事件が起きているそうだ。例えば、ボヤが起きるとか、救急車がやって来る、など。


「なるほどなぁ。正直、霧島さんが羨ましいよ。まさか、見える人がいるとは思わなかったからさ」


 自分でも視える様にならないだろうかと、思わず考えてしまう。

 それにしても貴重な存在だ。警察あたりで重宝されるんじゃないだろうか。


「それじゃあやっぱり、アレが何なのかご存知なんですね! 声をかけて良かった〜」


「俺もちゃんと理解してるわけでは無いけどね。分かる範囲で教えてあげるよ」


「ぜひ、お願いします!」


「全ての始まりは、WERDOの爆発事故だと思うんだ。少なくともあの日から、俺は使える様になったから」


「3ヶ月前くらいからなんですね」


「そう。そしてこれは他言して欲しく無いことだから、秘密にして欲しいんだけど……いいかな?」


「もちろんです! というか、言ってもみんな信じてくれないですよ」


「一応ね、念押ししときたくてさ。……結論から言うと、霧島さんが視えてるのは、おそらく魔素って呼ばれるもので、使いこなすと魔法が使えるんだ」


「……ふぇ? 魔法?」


 案の定、頭に疑問符を浮かべる様に怪訝な顔をされてしまう。


「やっぱり、そういう反応になるよね。ニュースで見てない?魔法が発見されたってやつ」


「見ましたけど、あれって発表したその日に、事故で研究所が爆発事故して……」


「そうなんだよね、その辺がまだよく分かってないところなんだけど……。まぁ兎にも角にも、その魔法って何故だか使えるんだよ。ていうか、多分無意識化で霧島さんも、使ってるんだと思うよ」


「ぇ、ぇえ!? 私も魔法を!!?」

 驚いた拍子に声量が上がったのだろう。店内に声が響き渡る。


「ちょっ! 声、押さえてっ!」


「ご、ごめんなさい。でも、ビックリしちゃって」

 何かから隠れる様に身を小さくして、辺りをキョロキョロと見渡している。


「急にこんなこと言われたら、そうだよね。でも、君が視えるのは魔法の一種に違いないよ。俺の場合は使えても、視ることは出来ないから」


 そう、魔素が見えないものかと試してみたものの、感じることは出来ても視えなかったのだ。


「そういうものなんでしょうか……。なんだか実感が湧かなくて、どう言ったらいいのか……」


「手っ取り早い話、魔法を最後まで見れば、納得すると思うよ。ただ、ここだとちょっと人目がなぁ。とはいえ、人気が無い所に連れて行くのは流石に怪しいし……」


 只でさえ、ナンパされていた女の子なのだ。やましい事は無いとはいえ、よろしくないだろう。


「私、平気です!」


「え?」


「二人きりの密室でも、路地裏でも、山奥でも!この人なら信用できるって確信しました!」

 あっけからんと言い放たれる。


 一体どこからその自信は湧いてくるのだろう。いや、本人が良いのなら別に気にする必要も……?


「いやいや……いやいやいや。それは無防備過ぎるよ。俺だって男なわけで」

 よくよく考えれば、やはり良くない。


「でも大丈夫ですよ?」


 霧島さんは上目遣いでこちらの目を見ながら、何か問題でも? と言わんばかりの姿勢だ。

 試されているような気さえしてきてしまう。


「あーだから、未成年はまずいっていうか。いや、違くて!……そうだ、家にしよう!」


「お家……ですか?」


「そう! それならたぶん、妹くらいしか居ないし!セーフティ!」


 急に名案が、天啓の如く頭に思い浮かんだ。

 家ならばこちらも住所が割れているから、下手な事が出来ないため安全である。……もちろん、そんな事は万一にも無いけれど。


「ご家族に会うのは緊張しますね……。でも、いつかはそういう日も来ますし……。お邪魔してもいいですか?」


 頬をポッと染めて、恥ずかしがられる。

 他の場所よりマシな筈なのに、なぜだろう。


「うん、そうしよう! ……あ、ヤバい。買い物の途中だったんだ……。とりあえず日を改めて、で良いかな?」


 お喋りに夢中になっていたせいで、買い物が頭からすっかり抜け落ちていた。冷や汗を背中に感じながら、後日の約束をとりつける。


「はい!楽しみです!」

 にこりと微笑まれる。


 こちらも顔が緩んでしまう。


「じゃあ、また後で連絡をっ!……連絡先教えてもらっても良い?」


「ふふふ、せっかちさんですね。もちろんです」


 結果的に、図らずとも霧島さんという美少女と連絡先を交換するに至った。

 なんだか少し、ヤンキー二人組に申し訳なくなるも、役得のようなものだと納得してスマホを取り出した。

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