第2話

ネットで『魔法_エネルギー』と検索をかけるとすぐに目的の情報が出てきた。


 なんでも、WERDOという組織で発見されたものらしい。


 世界エネルギー研究開発機構、頭文字を取ってWERDOは石油エネルギーの枯渇と核エネルギーの 環境汚染への懸念から設立された機関だ。


 新エネルギーの研究とその応用を目的とした研究の二本を軸として活動しており、その成果として魔法を発見したということだった。


 魔法の源である魔素の発見から、その応用として魔法の使用まで漕ぎ着けたというビッグニュースだ。


「魔法ってか半分科学なんだなぁ」


 ふむふむと納得し、より詳しい内容がないかネットサーフィンをしてみる。


 こういう時は掲示板への書き込みを調べてソースを辿ると、色々な情報が出てきて面白い。


『魔法とかキタコレ!』

『おっさん落ち着けよ、てかキタコレとか今日日聞かんわww』

『反応してきたオマエモナー』

『お、おっさんちゃうわ!』

『童貞ちゃうわ、みたいなテンションテラワロスwww』


 みんな浮かれているようだ。


 エネルギー問題の解決という意味でもおそらく凄いのだろうけど、やはり魔法の2文字には惹きつけられるものだろう。


 やりとりを見ているのも楽しいが、今は詳しい情報、自分にも使えるのかを知るべく、めぼしい所まで流していく。


『魔法って魔素が必要なんでしょ?世界に魔素ってあったってこと?教えてエロい人!』

『ggrksと言いたいところだが、俺が調べた情報を教えてやろう』


 それらしい書き込みを見つけた。

 この辺りから読めばいいだろう。


『魔素とは一般人にも分かりやすく伝えるために名前をつけられているか、実態としては五次元の物質に近いらしい。WERDOにある観測装置を使って発見された新物質で、特定の条件を満たすとエネルギー、現時点では熱エネルギーに変換できる』

『エロい人キターーー!ワッフルワッフル!』

『今はまだ熱への変換のみだが、理論上は電気や磁力、斥力などにも変換できるらしい。つまるところ、魔法って言っても炎魔法のみ使えるといったところか』

『なるほどなー。そんで結局一般人には使える代物なんすかね?観測装置使わないとダメなん?』

『それはまだ情報が出てないから不明だな。まぁ特許やら利権やらあるだろうし、魔法使いになるには何年かかるやら……』

『いや、炎髪灼眼の討ち手になれる可能性が出てきただけでも生きる希望が出てきた、ありがとう』

『お前がなるんかww』


 どうやら魔法といっても一般人にはあまり関係の無いもののようだった。


「あーあ、折角魔法使えるようになると思ったんだけどなぁ」

「本当残念だったねー」

 ビクリッと独り言への思わぬ返事に肩を揺らすと後ろを振り返る。


「……いつの間にそこに?」

「えへへ〜、いつからでしょう?」

 そこにはベットに寝っ転がりながらニヤニヤとこちらを見ている結衣がいた。


「え、あ、気づかなかったなー、あはは」

 部屋の扉は閉めていたし、いつの間に?


「そろそろお昼だしごはんにしようよ」

 そう言われて時計を見るともう12時を回る頃だった。

 どうやら随分と熱中していたらしい。

 結衣の侵入にも気付かないわけだ。


「そうしようか」

 切れた集中力は食欲へと変化する。

 今日はチャーハンでも作ろうかな。


ーーーーーーーーーーーーー


「神宮寺博士!魔素の数値が!」

 WERDOの新設された魔素研究所では不穏な雰囲気が漂っていた。


「分かっている!」


 神宮寺博士は魔素の発見に携わり、その功績を認められ研究所の所長に任命された人物だ。


 現在は研究所の中でも魔素の検出を調べる装置の前で、若手の所員と原因不明の事態に陥っている。


「おかしいんです!魔素の顕現が変換器を介さずにどんどん進んでいて……!」


 魔素はその性質から、特殊な装置で認識されることで初めて存在が実現する。

 それはシュレディンガーの猫と似た性質で誰かに知られなければ存在しないものとなる。


「これは……装置の有無に関係無く、魔素の存在が拡大しているのか?」

「そんな勝手に変換が起きるなんて……!」



 一度狂い出した世界の常識はゆっくりと形を変えていくーー。

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