その新しいエネルギーは魔法と呼ばれました。
行弥
第1話
はじまり
誰だって小さい頃は魔法に憧れるし、大人になっても魔法が使えたらな、なんて考えることはよくある話だ。
それはキラキラとした憧れだったり、今から逃れたいという現実逃避だったりと理由は様々あるだろう。
僕らが求めた魔法は、そんな願望を叶えてくれる素晴らしいもののはずだった。
そう、全てが狂ってしまったあの日まではーー。
1
暖かな日差しと小鳥のさえずりに気持ちの良い朝を迎える、一日の始まりとしては最高の出だしだ。
ゆっくりと伸びをして、ベットから這いずり出る。
まだ半覚醒のままリビングに向かうと、妹、結衣がおはようとソファーに寝っ転がりながら声をかけてきた。
「おはよう、早起きしてもそこで寝てたら変わらないんじゃないの?」
「お兄ちゃん、分かってないなぁー。このダラダラとした時間が早起きの醍醐味なんだよぉ」
にへらっと笑うと、もぞもぞと動く。
居心地の良い体勢を探っているようだ。
「分からなくも無いのがなぁ。でもそんなんじゃ彼氏が出来るのもまだまだ先の話だな〜」
花も恥じらう17歳、高校2年生といえばキラキラとした青春に胸を躍らし、唯我独尊を貫いた存在のはずではないだろうか。
ましてや身内贔屓にしても妹は美形だ。
こんな風に家でアザラシのごとく寝ているのがもったいなく感じてしまう。
「まずは自分が彼女作ってから、そういうことはいいましょうね〜」
全く意に解さないといった口調で反撃をすると、結衣はおもむろにテレビを付けた。
兄の心妹知らずって所だろうか。
しかしまぁ、人のことを言えないのは事実である。
大学1年の入学時には高校で成し得なかった青春ライフを手に入れるべく、気持ちを入れ替えたつもりだったが、リア充のやり方が分からなかった。
まあ、この兄にして、この妹あり、だ。
「そんなこと言ってると、いつか彼女出来ちゃうぞ?」
「あはは、笑える冗談だね」
こちらを見ようともしてくれない。
というか笑ってすらいないから悲しい。
「そんなことよりさ。テレビ!テレビ!」
言われて気づくと、なにやらニュースキャスターが興奮気味にこれはすごい発見だ!世紀の大発見だ!と息巻いている。
……何があったのだろう?
『いやー、私も使えたら良いななんて思うんですけどね!魔法だなんて心が躍りますよね、坂井さん?』
中堅のお笑い芸人が司会を務めるこの番組では話題の専門家をコメンテーターとして呼んでいる。
眼鏡を掛けた神経質そうな壮年の男に話が振られた。
『私としましては、この次世代のエネルギーが今後どのように使われていくか、政治、経済、人種問題、様々なソーシャルエンハンスが巻き起こると思います。人間が大きな力を手に入れた時には、必ずと言って良いほど過ちを冒すことが過去の歴史からもお分かりになるかと』
明るいニュースかと思いきや、深刻そうな表情でまるで戦争でも始まるかのごとく訴えかけてくる。
『まぁまぁ、坂井さんの言うことはもっともなんですけどね、今は新しい発見に喜びましょうよ!いやー堅い人だなぁ!』
コメンテーターが苦笑いをしながら場の雰囲気を崩すように周りに笑いかける。
『マルトヨの二人は魔法って聞いてどう思ったの?』
最近よく見る若手芸人がリモート越しに話を振られる。
『僕なんかこのニュース聞いて、うわー手から炎出せるんじゃね?超fantasticじゃん!なんてことしか考えていませんでしたよー!』
チャラついたおバカ芸人枠だろう。でも誰だって彼の言うように一度は手をかざして魔法を使おうとした事があるだろう。
え、てか魔法…?
さっきからめっちゃ、魔法って言ってない?
「お兄ちゃんたまに布団で空に手を向けながら、使えないか…って呟いてるよね。良かったじゃん、夢が叶うかもよ〜」
結衣がにへらっと笑いながら声をかけてくる。
「いや、あれは全身の気の流れを感じて……いつ見てたの?」
「逆に聞くけど、いつ見られていなかったと思う?」
妹はたまに怖いことを言う。
見られていたという恥ずかしさも相まって、魔法というファンタジーに話題を戻すことにした。
「魔法って呪文を唱えると魔法陣が足下に浮かんで、杖先から雷やら炎やら衝撃波やらを放出する、あれだよね?」
魔法というと肉体強化や、召喚、空間移動.etc……と様々な種類の妄想が駆け巡るが、オーソドックスなのは三大元素だろう。
「私もちらっとしか見てないからなぁ。『世紀の大発見、新エネルギーは魔法?』って見出しが出てたよ〜」
「マジかよ……。ちょっとチャンネル変えてもいい?」
すでに番組は『街中のオシャレ着女子特集!』という内容に変わってしまっている。
「駄目。これ見るためにテレビ付けたんだから」
アッサリと一蹴されてしまう。
家でゴロゴロしているが、流行のリサーチは欠かさない。
おそらくは学校での話題作りの為なんだろう。
「それに今時ネットで調べた方がよっぽど情報正確だよ?」
「言われりゃそうだわ」
もっともな意見を頂き、パソコンで調べるべく部屋に戻ることにする。
「ん、後で私にも説明してね〜!」
したたかな妹に感心しながら、ワクワクと胸が躍る自分を見せないように、ゆっくりとリビングを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます