マスターカード全開放・旅した世界・決戦・最後の旅路
前書き
本日投稿2話目です。ご注意ください 。
◆
幹也はそれを見ていた。
地球のすぐそばで、鏡に侵食されながら増え続けるガル星人艦隊、宙に輝く鏡の大地、そして無形無限の破壊エネルギーを。
『ガル星人艦隊、並びに鏡の大地に存在するガル星人なおも増殖中。総数不明』
『鏡面世界がこちらに完全出現。破壊するとこの世界の根底を揺るがします』
『照合完了。四葉貴明が打倒した無形エネルギー、恐怖の大王と類似点多数ですが、エネルギー総量においてこちらが圧倒的です』
『結論。ガル星人戦力、恐怖の大王を打破した後に、鏡の大地を元の鏡面世界に戻す必要があります』
マスターカードの絶望的な報告を受けながら、戦力数で逆転されても奮闘する人類連合主力艦隊を見ていた。
「ねえ……」
「おじさん……」
アリスとマナが、自分達と一緒にいると言った幹也が、動かず宙を見ていることに不安を感じて、彼の服の袖をぎゅっと握る。
「ああ」
その呼びかけに幹也は、なんでもないように言いながらアリスとマナに視線を合わせ、また宙を見上げてから、もう一度少女達に視線を合わせた。
(無理だよな)
『無理ですね。まあ、特務大尉なら無限沸きしようがガル星人戦力はひょっとしたらひょっとしてどうにかするかもしれませんが、鏡面世界と恐怖の大王に対してはどうすることもできないでしょう』
端的に問う幹也に、マスターカードは特務大尉と人類連合軍では対処不可能と断じた。
(神秘はなくなったままか?)
『はい。鏡面世界が現実世界に現れたため、より強くその影響を受けています。一方あちらは鏡面世界と合体しているくせに、恐怖の大王の計測不可能なエネルギーは利用できるときてます。チートですよチート』
マスターカードの中には、この局面においてなんとか対処可能な存在がいたが、それは鏡面世界という神秘の否定がない場合だ。物理現象のみでそれらに対処するのは不可能に思えた。
(お前が前言ってたあれなら?)
『まあ何とかなるでしょう』
しかし幹也には、一つだけ手が、札があった。一応そういうことが出来るとマスターカードに教えられていた札が。
「よし、じゃあ逃げるか!」
「うん!」
(よかった!)
「はい!」
(おじさんと一緒に!)
普段通りの顔で逃げようと言った幹也に、一瞬だけアリスとマナは気を抜いてしまった。少しだけ、少しだけ服を握っていた力を緩めてしまった。
「ほいっと!」
「ど!? どうして!?」
「おじさん!?」
その隙を突いた幹也が勢いよく腕を振って2人の指を無理矢理剥がし、アリスとマナは青ざめて悲鳴を上げる。
「マスターカード」
『了解』
その一瞬で幹也はマスターカードに呼びかけると、彼の足元から21枚の光り輝く大アルカナが浮かび上がり、その輝きで幹也を包んでいく。
「待って!? なにするつもりなの!? ねえ! ねえってば!」
「おじさん!? おじさん!? おじさん!」
鬼気迫る表情で再び幹也に縋りつこうとした二人だが、輝く光が壁となって阻んだ。自分達を置いて逃げるならまだいい。だが彼女達は確信していた。幹也は逃げるどころか、全くその逆を行おうとしていると。
『ディーラーも私も間違いなく死にますけどいいんですね?』
「やる。また会おう相棒」
『ええ。また』
マスターカードの最後の警告にも、幹也は普段と全く変わらなかった。ただ、覚悟の光を目に宿して。
「一緒にいるって言ったじゃないいいい!」
「おじさんの馬鹿ああああああああああ!」
「なあに帰って来るとも。約束だ」
(なあに帰って来るとも。約束だ)
泣きじゃくりながら必死に訴えているアリスとマナに、幹也は本心からの約束をして。
そして消えた。
「馬鹿! 馬鹿! ばかあああああああああああああ!」
「嘘つきは嫌いって言ったのにいいいいいいいいい!」
崩れ落ちたアリスとマナが、天へと消えていく光に必死に手を伸ばした。
『破壊』『破壊』
『破壊せよ』『破壊せよ』『破壊せよ』
『滅ぼせ』『滅ぼせ』『滅ぼせ』『滅ぼせ』
そして
その光は鏡の破片が幾つも突き刺さった形となり、自我を失ったガル星人犇めく鏡の大地の一番外に降り立ち。
『行けるのはここまでです』
本当は中心まで行きたかった幹也達だが、あまりにも乱れた次元と鏡面世界のせいで、端から中心まで駆ける羽目になる。
あまりにも不可能。
鏡の大地そのものはそこまで大きくはない。しかし、無尽蔵に増え続けて犇めくガル星人を突破するなど、どう考えても不可能。
しかも、鏡面世界によってマスターカードに眠る者達の異能、神秘を封じられてである。
『それでは、また』
「ああ! またな相棒!」
最後であろう言葉を交わす幹也とマスターカード。
幹也は
己の半身を、マスターカードを握りつぶした。
世界が解き放たれた。
鏡面世界が神秘を否定するのならば、全く別の世界を展開すればいい。
「ぐうううううっ!」
ガラスの様に砕けたマスターカードが幹也の体に吸い込まれる。
幹也の内に秘めた世界を
その全てを開放する
『マスターカード認証!』
最早自我なきシステムと化したマスターカードのシステム音。
『マスターキーカード認証!』
破片が次々と錠を開放する。
『ワイルドカード認証!』
1つ、また1つと。
影絵の錠を。
『No.1
『No.2
『No.3
『No.4
『No.5
『No.6
『No.7
『No.8
『No.10
『No.11
『No.12
『No.14
『No.15
『No.16
『No.17
『No.18
『No.19
『No.21
大アルカナ達の最後の認証。
そしてマスターカードの破片のうち、最も大きな4つが虚空へと消えた。
そのうちの1つは空を舞う、青き空の怪物のコックピットに。
残り3つは世界を跨いだ。
家庭の中から飛び出した
日記から飛び出した
泥の中から飛び出した
『JOKER認証!』
『JOKER認証!』
『JOKER認証!』
『JOKER認証!』
4つの全てが届いた。
『最終認証をお願いします!』
「認証おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
『No.9
特別な3枚だった。
No.9
『No.20
No.20
そしてなにより
『No.0
No.0
振り返った旅人が答えを出した。
『JOKER承諾!』
『ソロ!』
『JOKER承諾!』
『ツーペア!』
『JOKER承諾!』
『スリーカード!』
『JOKER承諾!』
『フォーカード!』
「
『JOKER認証!』
『ファイブカード!』
最後の、
『全正位置を召喚します!!!!!!!!!!!!!!』
最強の切り札を発動した。
『召喚!』『召喚!』『連続召喚!』『召喚!』『召喚!』『連続召喚!』『連続召喚!』『召喚!』『連続召喚!』『"究極生命体"アルティメットを召喚!』『"出来る機械メイド"グレースを召喚!』『"希望に染まりし"大魔王を召喚!』『"親戚ですか?"勇者を召喚!』『"千万死満"グレンを召喚!』『召喚!』『召喚!』『連続召喚!』『召喚!』『召喚!』『連続召喚!』『召喚!』『召喚!』
鏡の大地に続々と、続々と湧き出る影絵達。
鏡の大地に次々と、次々と現れる者達。
最も大きなマスターカードの破片の1つが戻ってきた。それは日記の形をしていた。
「全く、昼寝の最中に叩き起こされるだなんて」
かなり眠たそうな青年が降り立った。
風が吹いた、雷が迸った、炎が燃え盛った、雪が降り始めた、鏡の大地に植物が生え始めた、光が、闇が輝いた。
『アレン・ライルトを直接召喚しました!』
世界の理と共に生き、精霊達と家族に育てられた愛し子。森羅万象の全てを操るのではなく、思いのままに改編する埒外にしてマスターメモリー最後の一人。
また1つが戻ってきた。家族の絆が形となっていた。
それが分かれた。
(いくぞー!)
(了解)
『"頼れる番犬&番猫"ポチ&タマが召喚されました!』
『ウォオオオオオオオオオオ!』
『グル』
唐草スカーフを巻いた可愛らしい柴犬と黒猫の姿が一変して、柴犬は炎獄を纏った狼がひと鳴きすると、それは幾つもに分かれて分裂して狼達の群れとなり、黒猫は氷極を纏った虎となり大地を凍り付かせた。
そして破片が2つに分かれた。犬と猫は番犬であるため家を離れられず影絵だったが
この2つは違う。
「あの馬鹿また無茶しやがって」
「フェッフェッ。男の覚悟ってもんを分かってやんな」
「そうは言うがな婆さん」
くたびれ果てた中年と、腰こそ曲がっていないが皺くちゃの老婆だった。
「というかなんで付いてきてんだよ」
「フェッフェッ。巻き込まれただけだっただろうがね」
願いを現実に変えてしまう、魔法使いとしての頂点の頂点。
『ドロテアを直接召喚しました!』
「そういやそうか」
だがそれよりも恐ろしいのは、そのくたびれ果てた中年だった。まさしく怪物の中の怪物。誰よりも早くありながら誰よりも重く、遂には人間大の宙となり果てた大虚無にして大暗黒。決して触れるべきでない男。
『ユーゴを直接召喚しました!』
また1つの破片が戻ってきた。それは泥であったが、なにより友情が形となっていた。
それが細かく細かく分かれた。
「おやまあ、こりゃ空がいっぱいだ」
赤いメッシュがある女性が空を見上げる。
「流石に宇宙人とは戦ってないはね」
白い髪の女性の周りを雪が舞う。
「あってたまるか」
男が七色の虹に光る。
『【チーム花弁の壁・成人】"空飛ぶ残酷"佐伯飛鳥! "神威を貪る雪"橘栞! "虹色"藤宮雄一を召喚しました!』
影絵である彼らは直接幹也を知らないが、ある人物から直接話を聞いていた。
また破片が細かく分かれた。
「あの男……なんだこの筋肉的シンパシーは」
スキンヘッドに近い男がユーゴを見て首を傾げている。
「悪いけどもう一回言ってくれ」
常識人のような雰囲気の男が問い返す。
「ひょえええ。これ大事やん」
チャラい雰囲気を持つ金髪の男性が、腰が引けたかのような声を漏らす。
「違う世界の化粧品の方が品質が高かったりしない?」
妙に化粧が厚い女性が、馬鹿げたことを本気で聞いていた。
「知らないわよ……」
それを気苦労が絶えないような雰囲気の女性が、ため息をつきながら答える。
『【チームゾンビーズ・成人】"肉体的到達者"北大路友治! "捻じ曲げる拒絶"狭間勇気! "色褪せない色"木村太一! "完璧で不安定な銃身"如月優子! "無限の加護"東郷小百合を召喚しました!』
彼らもまた影絵であり幹也と直接面識はないが、これまた共通の友人がいた。
破片がさらにさらに細かく分かれた。
『ゴオオオオオオオオオオオ!』
『"強き強き強き"猿を召喚しました!』
宇宙空間で戦っている人型機動兵器にも負けない巨体を持った、三面六臂の巨猿が大気が震えるほどの雄たけびを上げる。
『ワン!』
『"仁に非ず・義に非ず・礼に非ず・智に非ず・忠に非ず・信に非ず・孝に非ず・悌に非ず"オンを返す者を召喚しました!』
その足元にいた、二足歩行で刀を持った武者姿の犬が一瞬9つにブレた。
『にゃあ』
『"箱の中の"猫を召喚しました!』
その更に足元にいた黒猫の姿が不気味にゆらゆらと揺れている。
『ジャアアアアアアアアアァアアアアアァアアアアアアア!』
『"世界を守る者"を召喚しました!』
今こそ使命を果たす時だと、ヒュドラが、アジ・ダハーカが、メドゥーサが、サタンが、八岐大蛇が、ウロボロスが、バジリスクが、ニーズヘッグが吠えた。
『キキャアアアアアアアアアアアア!』
『"凄まじき、恐ろしき、黒き呪い"蜘蛛を召喚しました!』
8つの瞳が深紅に染まり呪いをまき散らす。
その破片のうち、最も大きなものが2つ鏡の大地に降り立つ。本物が。
「幹!? やああ、ああー。ぴゅーぴゅー」
緊急事態だったのに自分の分体からの情報が途絶え、慌てて幹也の様子を確認しようとした悍ましき邪神が、四葉貴明が、幹也の無事な姿を見て誤魔化すように口笛を吹いた。
「ふふ。心配してたものね」
「そそそそそんなことありませんよお姉様!」
その貴明の傍らにいる小柄な女性が、柔らかい笑みを浮かべていた。しかし騙されてはいけない。彼女もまた埒外の一人であり超越者なのだ。
「っていうかこんなに人いらねえし! 【腐れ爛れて永遠に狂死しろ】!」
そして早速貴明が個人の恨みを込めてガル星人を呪殺するが……。
「なんだあ!?」
文字通り腐れ爛れたガル星人達が、即座に復活して新たな複製を生み出す。
とにかく、幹也の友がやって来た。
『四葉貴明、四葉小夜子夫妻を直接召喚しました!』
そして最後の破片は既に役割を果たしていた。
『さあやるぞ』
宇宙空間での艦隊戦闘を潜り抜けて、鏡の大地に降り立った青き薔薇から声が聞こえる。
『"空の怪物"バハムートを召喚しました!』
なにかに掠っただけで爆発すると言われた、全身のジェネレータを唸らせる機動兵器。その中にいる特務大尉で最後。
今ここに、旅人の世界が、旅路が、縁が紡ぎだされたのだ。
そして……
「行きましょう」
幹也は願うでも頼むでもなく、そう彼らに短く言葉を発した。
今、短くも果てしない鏡の大地で、旅人の、幹也の最後の旅が終わろうとしていた。
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