神神神神神??????怨怨怨恩怨怨怨呪呪祝呪呪呪
「ふ! ふ!」
「おじさん!」
「おじさん!」
アリスとマナの歓喜の声を聞きながら、二人を脇に抱えた幹也がホテル内を疾駆する。しかし、極限まで鍛え抜かれているとは言い難い彼が、女として成長し始めた二人を同時に抱えて逃げ切るのは、いささか無理のように思えた。
(蜘蛛君がタイマンでそう負けるとは思えないけど、逃げるための車がいるな! 最悪奪うしかない!)
蜘蛛の権能を知る幹也は、その蜘蛛がまず負けることはないと思っていたが、少女達の安全を確保するために、足となる車の確保を決断する。
「どうやってここ来た!? リムジンならキーは護衛だけか!?」
「そう!」
(なら無理か! とにかく外へ出る!)
幹也は息を切らしながら選択肢の一つである、アリスとマナの所有しているリムジンについて尋ねるが、アリスの返答とマナの頷きは、自分達はそのキーを持っていないというものだ。そして幹也一人だけで護衛達を制圧してキーを奪うのはほぼ不可能であり、ホテルの外へ出て奪える車を探す必要があった。
プーーーーーーーー!
(なんだ!?)
幹也達がホテルの外へ出た直後、大きなクラクションを鳴らしながら、高速で近づいてくる一台の車があった。
「あれ……ウチの?」
「え、でも……」
その車はアリスとマナが見慣れた、自分達の家が所有しているリムジン、の筈だ。
だがなぜ二人が戸惑っているかというと、色が違っていたのだ。高級感あふれる艶のある黒の車体であった筈のリムジンは
青に染まっていた。
キイイイイイイイイイ!
何をどうすればそうなるのか。急ブレーキの音を響かせながら、車体が長いにも関わらず、幹也達の前の前にドアが位置する様にリムジンが停止して
『乗れ』
「た、隊長おおおおおおおお!?」
特別に備え付けられた車外のインターホン越しから聞こえてきた声に、幹也は心底ぶったまげたながらも、車内にアリスとマナを連れて転がり込んだ。
『発進する。それと俺は運転手だ』
「マスターメモリーが機能不全起こしてるのにどうやったんです!? おいマスターカード!?」
『えーっと、なんか、その、"マニュアル車好き"って新しい側面が出来てたんですけど、どうも直接マスターメモリーと関係してないみたいで。ま、まあとにかく、この場は逃げられるじゃないですか。いや、おかしくね? これが軍曹達の味わった気持ち?』
「なんじゃそりゃ!? ぐおおおおお!?」
「きゃああ!?」
「おじさーん!?」
非常に珍しく歯切れの悪いマスターカードの言葉を聞きながら、リムジンがフルアクセルで発進した際に生じた慣性でバランスを崩す幹也と、その彼に抱き付いて悲鳴を上げるアリスとマナであった。
◆
◆
◆
◆
◆
時刻は深夜。首都高速道路を暴走しながら都心を脱出した幹也達は、運転手が消え去った後に、アリスとマナの携帯端末で情報を収集していた。
「蜘蛛君が勝ったが、アテナの洗脳が溶けて無いな……」
だが結果は芳しくない。アテナが蜘蛛に敗れたシーンは世界を駆け回ったが、未だにアテナの洗脳は解けていなかった。
「ねえ、私達追われてると思う?」
「さて……」
車内でアリスが発した質問に、幹也は何とも言えなかった。少女達を求めたアテナは死んでいたが、その命令がまだ機能している場合、あのホテルで二人の顔を見た者達が、追手を差し向けてくる可能性はあった。
「じゃあ無人島で三人で暮らしましょう!」
「ふ、俺にはまだ最後の切り札があるのさ」
「そうですか……」
「うん?」
そうだこれぞ名案! とばかりにマナが提案したが、安心させるよう幹也がまだ奥の手があると教えた。教えたのだが……何故かしょんぼり気なマナの姿に、幹也は首を傾げてしまう。
「まあ無人島は一旦置いておいて、私達、この分じゃA&M社の社長じゃなくなっちゃうわね」
「そ、そうだねアリスちゃん!」
「なに、すぐ元に元通りさ」
このまま洗脳が続くようであれば、社長として活動しようにもすぐさま追手が差し向けられるだろうとアリスが暗い話を持ち出すが、何故かアリスとマナも間に挟んでいた幹也に近づく。
「そ、それでだけど」
「お、おじさんにあげられる物が無くなっちゃたので」
「うん?」
「そ、その、あれよ」
「か、代わりにそのー」
「わ」
「わた」
「綿?」
信仰がピークに達した。
全ての人間が敬愛した、敬ったアテナが敗れ、人々が信仰する先を見失ったときに思い出したのだ。
その上がいたと。
アテナ様さえ明確に凌ぐお方がいたと。
雷鳴が轟いた。
世界中で轟いた。
かつてそうであったように。
雷に人々は神を見出した。
「あのお方がいた……」
「そうだ……!」
「まだ俺達にはあのお方がいた!」
世界中の信仰が明確な形となった。大神に、全知全能に、オリュンポス12神その頂点に!
コンコン
『ほっほっほ。娘が世話になったのう』
唐突にノックされたリムジンの窓ガラスの向こうに、長い白の髪、白の髭を蓄えた好々爺がいた。
「クソが!」
幹也も態々誰かと聞かなかった。今この状況下で娘が世話になったなどと言うのはたった一人、いや、一柱に決まっている。だから幹也は、リムジンのドアを開けるとそれを蹴飛ばして、好々爺も一緒に巻き込もうとした。
『おうおう元気じゃの。ほれ』
「がっ!?」
「おじさん!?」
「いやあ!?」
だがその目論見はすぐに崩れ去った。バチリと一瞬だけ光った稲光が幹也に奔ると、彼は痙攣して崩れ落ち、リムジンから滑り落ちてしまう。
『おっと、お嬢ちゃん達には刺激が強いからの』
「この爺! 開けなさい!」
「開けて!」
慌てて幹也を助け出そうとしたアリスとマナだが、好々爺がドアを閉めるとロックが掛かり、開けることが出来なかった。
「ゼ、ゼウスか……」
『そうともそうとも』
倒れ伏した幹也が眼だけで好々爺に問いただすと、好々爺は、ゼウスはニコニコと笑いながら幹也を見下ろした。
「む、娘の敵討ちって訳か……」
『うむうむ。それもある』
「それも? てめえ!」
ゼウスの言葉に引っかかりを覚えた幹也は、目の前の神の逸話を思い出して激昂する。その強姦歴を。
『うむうむ。いや、単なる摘まみ食いではないぞ? 儂が再び統治するには、手足となる半神が足りんのでな。あの嬢ちゃん達に産んでもらわんといかんのじゃ』
その言葉に幹也は切れた。
「マスターカードオオオオオオ!」
彼の手札にはあるのだ。怒られるから出来れば使いたくなかったが、マスターメモリーに頼らないその札が。
『全大アルカナを逆位置にセット! 条件を確認! 大神! 複数の該当あり! 連続召喚しますか?』
「
異なる世界を二分した者達。完全な戦闘生命体として神達に牙を剥き、あらゆる権能を使いこなし、ついにはその神達の主さえ打倒した、その名も竜達の長。いずれも若き日の怪物ユーゴですら手古摺らせた化け物達が、その彼の記憶を基にした影絵としてマスターカードに眠っていた。
その全てが今、解放されようとしていた。
『ワイルド認証! 全竜達の長を連続しょ』
『おっとっと。それから儂でも面倒なのが出るのは分かっとるぞ』
しかし、ゼウスの雷がそれを許さなかった。
『errrrrrrr………』
バチリと一瞬輝いたマスターカードが沈黙する。
『さてさて。娘の仇じゃ。どうしてくれようか。どう思う嬢ちゃん達?』
「おじさんを殺さないで!」
「止めて!」
切り札を失った幹也を、ゼウスは相変わらずニコニコと見下ろしていたが、その後、好色に塗れた目でアリスとマナの方を見ていた。
『そうじゃのう。嬢ちゃん達が儂に優しくし』
「なあ、俺の末路はプロメテウスと一緒か?」
『うむうむ。そうじゃのう』
アリスとマナに話しかけている途中に幹也に割り込まれたが、ゼウスはまたニコニコとしながら幹也の言葉に頷いた。人類に火を与え、その罰として三万年間肝臓を鷲に啄まれたプロメテウスと同じ道を辿ると。
「なら俺は心臓にしてくれ。二番煎じはダサい」
『うむうむ。そうじゃのう。どれ、今から始めようかの。その方が嬢ちゃん達も聞き分けが良くなりそうじゃし』
ゼウスは神の優しさとして、幹也の言う通りにしてやることにした。そうすれば、我が子を産むことになるアリスとマナも、幹也の刑期を短縮する為に聞き分けが良くなるだろうとも考えて。
『ほれ』
『キイイ!』
ゼウスの体から鷲が飛び出た。幹也の心臓をこれから三万年啄む鷲を。
「いやああ!」
「だめええ!」
鷲が
幹也の肋骨を剥ぎ取り
その心臓を嘴で取り出した。
「……」
人の倍はある自分の心臓を、幹也はまるで痛みを感じていないかのような目で確認すると
手に握った木の枝で
『そんな枝切れじゃ傷一つ付かんぞ』
突き刺した。
自らの心臓に。
『うん?』
幹也が枝を握っていたことを把握していたゼウスは、幹也が最後の悪あがきとして鷲の目にでも突き刺すのだと思っていたのだが、予想外な光景に首を傾げる。
『は?』
ゼウスは困惑した。枝が突き刺さった心臓の傷から、自らでも理解出来ない、黒いナニカがどろりと溢れたのだ。
幹也の心臓は、正確には倍ではない。
二つあった。だから倍に見えるのだ。
一つは自前の心臓。
もう一つはそれを包むようにして……いや、やはり二つとも言い難い。
そのもう一つは、心臓に擬態しているだけなのだから。
なにかが起こったときに、無理矢理心臓の代わりを果たすため。
そしてそれを触媒とすることで、幹也はマスターカードに頼らず唯一召喚できる存在に呼びかける。
「馬鹿ドジアホ間抜け! 馬鹿ドジアホ間抜け! 馬鹿ドジアホ間抜け! 馬鹿ドジアホ間抜け!」
幹也が叫んだ。
単なる罵倒を四回。それを四度。
異なる世界において、ずっと昔に虐待されていた小さな少女が、押し入れの中でそう呟いたように四回四度。
言葉を
呪文を
祝詞を
名を
「ダチ公おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
準備が整った
フォーチュンテラーが
人類の守護者にも、怪物本人にも言わなかった言葉を
「
頼んだ。
いや、かつて二度言った。蛇と蜘蛛に。
共通点は一つだが、それでも呼び出すときには言っていない。
『復旧完了。補助くらいは出来ますかね。全大アルカナ開放!』
修復を終えたマスターカードから飛び散る大アルカナ、その数22がもう一つの役割を果たす。
その役割とはセフィロトの小径としてそれぞれを繋ぐ。
だが今回は違う。それそのものとなる。
夜空に描いた巨大な巨大な一本の樹。
これ即ち世界そのもの。生命の樹。セフィロト。
だがもう一組あった。
そのセフィロトの下にありしは真逆の樹。
つまりは生命の樹とは真逆、邪悪の樹クリフォト。
白く輝く10の大アルカナ、黒く輝く10の大アルカナ。
そこにセフィロトに隠された最後の一つ、
これで21。では最後の一つ、残ったのは愚者のカード。愚者のカードはどうするか。
役割通り旅に出た。世界を跨ぐ旅に出た。
近くて遠い世界に。辿り着いた。
戻って来た。
『なんじゃ!?』
ぎょろりと星が見た。夜空に浮かぶ全ての星が目となった。ギリシャにとって重要な星座すら、全ての全てが瞬き一つせず、血走った星が、目が、眼が、ぎょろりぎょろりと、ぎょろぎょろと蠢き、そしてピタリと一斉に見た。それを見た。見た。見た。見た見た見た見た見た見た見た。
ゼウスではない。
アリスとマナでもない。
ましてや鷲でもない。
地面に倒れ伏し、その心臓に枝を刺した幹也の姿をはっきりと見た。
ブッチン
ナニカが千切れた。
『ぎゅ』
それはまるで雑巾の様に捩じ切られた鷲の断末魔か。
それとも
ナニカの理性が千切れた音だったのか。
血走った星の目が赤く、真っ赤に染まる。
世界が夜ではなく黒に、真っ黒に染まる。
生命と邪悪の樹の接合部から、ナニカが、10本のナニカ、細く長いナニカが滲みだす。
バキバキバキバキバキ!
その10本のナニカがガッシリと空間を、二つの樹を、世界を握り潰した。指だった。空を覆う、宇宙ステーションからもはっきりと見える二つの樹と同じ長さの真っ黒な指。それが世界を割いた。狭い道を広げるために。
『こりゃいかん!』
「あ! ちょっと待ってあげてください! そのままの力を全部持って次元を渡るのは慣れてないんですよ! 何分昔はこれくらいだったのに、今はあれくらいになっちゃって! いやあ、感無量! それにこないだ二人が会ったときは分割してたみたいなんで、直接全部で会うのはちょっとだけ久しぶりだから、邪魔したり逃げたりされたら困るんですよ! ね? ね? もう少しだけいましょ? ね? どうかこの通りお願いします!」
『き、き、貴様一体なんだ!?』
広がった道の向こうに、虚無の空間に、そこらの山よりもずっとずっと大きな、ナニカがいた。まるで逆立ちしているかのような体勢で、ナニカはどんどんと道を広げ、そして
その指よりも更に長い長い腕が横に広がり切った。道が通った。通ってしまった。
そのナニカは世界から手を離すと手を地に付け、次いで目も口も鼻もないのっぺりとした頭が、腕と同じほど長い胴が、これまた長い足がずるりと道から通り抜ける。まるで獣の様に四つん這いとなって、あってはならないナニカが、世界を蝕むナニカが完全にこの世界に入り込んでしまった。
いったいどれほどの巨躯。四つん這いのままの姿はまさに山脈ともいえるが、その体は全てが細長く、人体というにはアンバランス過ぎた。
『af◇◇jis亜oiccかあo亜;qiur■■■i293ぁぃwq亜pcs◆ank;亜iyq9w!』
文字通り全人類がその声を聞いた。全く理解出来ないナニカの声を、狂気の叫びを。
憤怒を。
『gjqpi2qかwrkocヴァsavはui9x■■alm;wrk■qouああああg!』
そして悍ましきナニカはゼウスすら無視して、四つん這いのまま人間を、幹也を覗き込むように体を曲げてのっぺりとした顔を近づける。
『おおお!?』
ゼウスは流れ落ちる汗すら気付かず、その悍ましきナニカから距離を取った。感じ取ったのだ。呪いを呪いを呪いを怨を怨を怨を怨を呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪怨怨怨怨怨怨怨怨怨。
『rwopfむcjo@あk21oaががががmaoギギギギギsamkjqwozakljwq!』
ひょっとしたらその生において、最も怒り狂っているナニカの細長い体が、ボゴリボゴリとあちこちで隆起し始める。
それはまさしく噴火する寸前の火山。実際黒くテカテカと光るナニカの体が、ドス黒い赤に変色し始めている。
だが噴き出すのは溶岩などという可愛らしいものではない。
人類の全てを合わせてもなお足りぬ無限の負が
底知れぬ深淵が
宙を塗り潰す呪いが
生命と邪悪の樹をぶち破り混ざり合った混沌の無限
「おーい」
幹也の声で止まった。
「悪いけど起こしてくれ」
第二の心臓のお陰で外見上修復されているも、倒れ伏したままの幹也が、ピタリと動きを止めたナニカにそう声を掛ける。
次の瞬間、世界を蝕んでいた巨大なナニカはきれいさっぱりと消え失せ、代わりに幹也の隣に同年代の男が立っていた。特徴……というほどの特徴はない。田舎に行けばどこにでもいそうな成人男性だったが、何処か子供っぽいような雰囲気を湛えているのが特徴だろうか。だがその表情はいかにも幹也を小馬鹿にしていることが分かるほどで、目はニヤニヤと笑いながら口角は皮肉気につり上がっていた。
「ちっ。しゃあねえなあ」
その男は心底仕方ないとばかりに幹也が伸ばした手を取る。
ナニカがフォーチュンテラーの
邪神が人間の
腐れ縁が腐れ縁の
幼馴染が幼馴染の
「おら、とっとと起きろ貧乏人」
「あんがとよ田舎者」
田舎者が貧乏人の
「おお、足はちゃんとついてるな」
「言ってろ」
なにより
友が友の
「じゃお爺ちゃんはそこでお嬢ちゃん達に湿布貼って貰ってな。ぷぷぷ」
「けっ。まあ、そう、あれだ」
斎藤幹也が
ナニカに
邪神に
腐れ縁に
幼馴染に
田舎者に
「頼んだ」
友に
再び頼んだ
「貴明」
『四葉貴明が召喚されました』
四葉貴明に
「おうよ」
◆
後書き
異世界帰りの邪神の息子200話記念と合わせてやり切りました(まだ終わってない)
もしよかったらそちらも合わせてご覧下さい。
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