碌でもないいいいいいいいいだだだいいいだいなるるる偉大なる女神アテナ様

 ギリシャは世界の盟主となった。それもそのはず。勝利の女神が、世界でただ1柱の神が降臨したのだ。各国から貢物が送られ、毎日のようにご機嫌伺いにやって来た。


 そして全ての人間がアテナの下に跪いた。


 訳がなかった。


 なにせ降臨したのがギリシャ神話の神なのだ。ちょっと調べたら分かるだろう。その碌でもなさが。


 だいたい主神からして脳みそが下半身に直結しているのだ。その下がまともな筈がない。その中でもまあ"比較的"ましなアテナだったため、一応ご機嫌伺い自体は外交官が行ったが、跪くなんてする訳がなかった。したらそれこそ、あらゆるものを貢物として贈る羽目になるだろう。


 なにせましとはいっても、自分の水浴びを見た者を盲目にする。神殿でポセイドンと交わったメドゥーサを怪物に変える。機織り勝負で負けたのにその相手を蜘蛛に変えるなど、やることなすことが極端過ぎ、はっきり言って癇癪持ちの子供とそう大差ないのだ。


 しかも世界の主流は一神教である。アテナなんていう地方の女神はお呼びじゃないのだ。


「今更オリュンポス12神なんぞがいても困るわ」


 当然世界の反応はこうなる。


「おおアテナよ……」


 しかし、実際に直接アテナと会った者はそうならなかった。神に魅入られたと言うべきか。存在の格が違うモノと対面した彼らは、その全員がアテナを敬う信者となり跪いたのだ。


 しかもアテナは神殿と化した超高級住宅に籠るのではなく積極的に外へ出ていたため、ギリシャは忽ち彼女を、ギリシャの神々を敬う国と化した。


「なんとかしなければならん!」


 当然バチカンや裏の"会合"は危機感を感じていた。なにせ送り出した者が全てアテナの信者となり、その者が持っていた情報全てがアテナに流れてしまっていた。


 新たな信仰は信仰を呼び、アテナの力が増していく。巻き起こった信仰心の渦はどんどんと勢いを増し、今やギリシャのみならず周辺各国に影響を与え始めていた。


「アテナ様だ!」

「アテナ様ー!」

「アテナ様!」


 今日もアテナは街へと出ていた。その腰まで流れる赤毛の髪はそれ自体が薄く発光しており、戦いに流れる血の色と同じ赤い瞳は、自らを賛美する鉄の時代の者達を捉える。


 その瞳が辺りを一瞥すると全ての人間が跪いた。


 老いも若きも男も女も。


『聞け鉄の時代の者達よ』


 アテナの、はっきりと人間ではないと分かる声が辺り一帯に轟く。


『お前達は信仰を失ってしまった。再び我ら12神を称えよ。オリュンポスに像を建てよ。正しき信仰を取り戻すのだ』


 それをテレビの前で男がじっと見ていた。見定めていた。


 懐にある黒いナニカが脈動した


 のたうった


 蠢いた


 ナニカもじっと見ていた


 じっと


 じっと


 じーーーーーーっと


 じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと


 ◆


 ギリシャは世界の盟主となった。それもそのはず。勝利の女神が、世界でただ1柱の神が降臨したのだ。各国から貢物が送られ、毎日のようにご機嫌伺いにやって来た。


 そして全ての人間がアテナ様の下に跪いた。


 当然である。


 なにせ降臨したのが、世界に名高きギリシャ神話の神、オリュンポス12神の1柱なのだ。ちょっと調べたら分かるだろう。その素晴らしさが。


 そもそも主神からして、宇宙を統べる偉大なる全知全能の神なのだ。ギリシャの神々が素晴らしいのは当然である。その中でも特に素晴らしいのがアテナ様だったため、世界中の首脳がこぞってご機嫌伺いに訪れ、アテナ様に、そしてその後ろにある12神の像の前に跪き、ありとあらゆるものを貢物として贈ることを誓った。


 そんな偉大なるアテナ様なのだ。その水浴びを見た者を盲目にするのも、神殿でポセイドンと交わったメドゥーサを怪物を変えるのも当然である。その上、機織りの女風情がアテナ様に勝てるなどと思い上がったのなら、その女を蜘蛛に変えるのもこれまた当然。アテナ様が行うことはすべて正しく、まさしく偉大なる女神に相応しい行い。


 そして世界の非主流である一神教は既に殆ど絶え、アテナ様は世界へ、そのお姿を発信される。


「ああ偉大なるアテナ様! 偉大なる12神!」


 当然世界の反応はこうなる。


「アテナ様! アテナ様! アテナ様!」


 全ての者がアテナ様を敬い跪き、その偉大なる赤き目に留まろうと必死になった。


 しかもアテナ様はギリシャに籠るのではなく積極的に国外へ出ていたため、世界の全てが彼女を、ギリシャの神々を敬った。


「ああアテナ様!!」


 当然バチカンや裏の"会合"もそうだ。全員がアテナ様の信者となり、その全てをアテナ様に献上しようとしている。


 アテナ様の力が増していく。今や世界の全てがアテナ様の、オリュンポスの神々の物となったのだ。


「アテナ様!」

「アテナ様!」

「アテナ様!」


 今日のアテナ様は日本へとお出かけされていた。その腰まで流れる赤毛の髪はそれ自体が薄く発光しており、戦いに流れる血の色と同じ赤い瞳は、自らを賛美する鉄の時代の者達を捉える。


 その瞳が室内を一瞥すると全ての人間が恍惚とした。


 老いも若きも男も女も、アテナが命じれば即座に従うだろう。例えそれが自害の命だとしても。


『見つかったようだな』


 アテナ様の尊きお声が通り抜けた。


「はい。アテナ様のお傍に仕えるに相応しい、聖女の血を引く乙女です」


『二人と聞いた』


「はいその通りでございます」


 日本の首脳がアテナ様の前に跪き、アテナ様に命じられていた勅命の結果を報告する。


『連れて来い。どちらを送るか選ぶ。それと男はこの部屋から出て行け』


「ははあ!」


 アテナ様の命によって男は退出し、身の回りの世話をする女性達だけが残された。


「連れてまいりました」


『入れ』


 二人の少女達が連れて来られた。


 それと男が。


「アテナ様、どうか直言をお許しください」


『【死ね】』


 その無礼な男はどうにかして直接聞きたかった。一体何を考えているのでしょうか、と。


 しかし偉大なるアテナ様が、態々どうして人間如きと話をしなければならないのか。かつての愚か者は目を見えなくするだけで許したが、この無礼者にアテナ様は死の呪いを掛けようとした。


 が


 アテナ様に

 アテナ様に

 アテナさまに

 アテナさまに

 アテナさささままままに

 アテナさささに

 アテナにににににににににに

 アテナに


『キイイイイイイイイィィィィィィィ死死死死死死死死!!!!!!』


 呪いが襲い掛かった

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