理想像
「わっはっはっは!」
「はっはっは!」
人は平等ではない。世界の指導者達がこの世の地獄を味わっているなら、高笑いをしている人間だって当然いる。
「流石はうちの娘だ! わっはっはっは!」
「扇も西園寺も将来は明るい! はっはっは!」
具体歴な例を挙げると、西園寺グループと扇グループのトップである、アリスとマナの男親達だ。
彼らの持っている新聞には、娘達の会社であるA&M社の躍進について特集が組まれており、親としてまさに鼻高々だった。実際アリスとマナが経営するA&M社は服飾から始まり航空業界、そして次には外食チェーンに進出して、そこで大きく業績を伸ばしていた。
航空会社と外食チェーンに関しては買収であったが、こちらは元の業績とは比べ物にならないほどの躍進振りで、業界に波乱を巻き起こしている。だがこれに関しては彼女達の商才もそうだが、その心の声を聴く能力も一役買っており、その力でどうしようもない無能の働き者と、中抜きなどしている単なる有害を綺麗に取り除くことが出来るのだ。
風通しのよい環境作りと人員整理を行い会社を整えると、あとは能力で見抜いた出来る人材をそのまま責任者に据え、彼女達が世の中の流れを見極め方向性を決めると、そのまま業績が上がっていった。
「こうなると婿だが、ちと考えを変えなければならん」
「確かに」
男親達の当初の予定では、商才ある優秀な男をアリスとマナの婿として迎え、娘達がそのサポートをして、グループを発展させていけばと考えていたのだが、娘達の能力の高さが示されて前提が変わってしまった。遠からず自分達の跡を十分継げるであろう娘達がいるなら、態々余所の家から男を迎える必要がなく、寧ろ横から口を出されたら邪魔になる可能性がある上、自分達の娘が継いでくれるなら親としても満足だったのだ。
「医者かその辺りか」
「ああ。政治家の家系は利権で少し面倒だ」
それなら医者辺りの全く商売とは関係のない、しかし人脈は多い良家から婿を選んだ方がいいのではないかと考えを改めていた。
「いくつかピックアップだけしておくか」
「そうだな。もう少しあの子達の才能を見る必要がある」
しかしそれは先の話。結果を出しているとはいえ、まだまだグループの総帥としては見定めることが多かった。
「ま、このままなら急ぐ必要があるかもしれんがな!」
「違いない!」
「わっはっは!」
「はっはっはっは!」
だが総帥ではなく親としての意見は違うらしく、娘達の頑張りに高笑いを浮かべるのであった。
が
彼らは知らなかった。
見定めるどころか下手をすれば娘達の能力は親を超え始めている上……
その娘達が選んだ男が、まさに商才がこれっぽっちも無く、そしてある意味での人脈がナンバーワンという、彼らにとって先程述べた通りの理想像だという事に。
◆
◆
「客が来ねえ」
「隣座っていいかい?」
「どうぞおおおおおおおおおおおおおお!?」
一方その頃、その商才がない理想像はその人脈っぷりも盛大に発揮していた。
相変わらず夜の繁華街に居座り、占い師で生計を立てている幹也であったが、今日は全く客が来ずに退屈していた。そんな時に掛けられた声に軽い返事をしたのだが、その声の持ち主の顔を見た彼は心底ぶったまげた。
「あ、あ、兄貴いいいいいいい!?」
『ぎょえええええええええええ』
叫び声をあげる幹也とマスターカード。
「よっこらしょ」
声を出しながら座ったのは彼の兄貴分だったのだ。
「ど、ど、どうやって!?」
言葉が全く足りていない幹也の問いだが、相手には上手く伝わったようだ。
「子供達がなんかよく分からんけど過去に飛んでな。慌てて色々ぶち破って追いかけて、そっから元の時代に戻ったのを見届けたから俺も帰ろうとしたんだけど、なんか破り方を間違えてここに来てな。あら? もう一回だなと思ったら、お前さんの気配を感じてやって来たんだわ。といっても、皆が心配するから俺もすぐ帰らないといけないんだけどな」
『世界の壁と時間軸をどれだけ破ったら、あちらからこちらへ来れるか全く計算不能です。まあどうやって破ったかは分かりますけどね。パンチですよパンチ。やっぱ人間じゃない』
「ええ……」
なんでもない様に答える兄貴分であったが、幹也とマスターカードはドン引きだ。恐らく人類が経験したことのないエネルギーが使われたことだろう。
「しかし、お前さんも相変わらずというか……」
「いやあ、ははは」
少し困ったように兄貴分の目には、相変わらず生活に困っていそうな弟分の姿があった。
「前にも言ったが、困ってるんなら俺の」
「あ、いたいた」
「おじさん!」
何かを言いかける兄貴分であったが、彼らに、いや、幹也に声が掛けられる。
「今度お忍びでウチの料理食べて、色々チェックしないといけないんだけど、一緒に来て意見くれない?」
「私達女の子ですから、量とか味とか男の人の意見も欲しいんです!」
「ほほう。嬢ちゃん達も仕事熱心だねえ。ようござんしょ。どこまで役立てるか分かりやせんが、精一杯務めさせていただきやす」
その声の主はアリスとマナで、見つけた幹也に早速仕事を頼んだのだが、幹也は確かに二人の胃では限界があるだろうし、デザートの感覚は女の子と男では色々と違うだろうと完璧に納得していた。納得させられた。
「あ、話の途中ですいません兄貴。なんだったですかね?」
「いんや何でもない。危うく蹴られるところだったからな」
「はい?」
何かを言いかけていた兄貴分が肩を竦めながら笑っている姿に、幹也は首を傾げる。
「初めましてアリスと申します」
「初めましてマナと申します。おじさんとはどういったご関係です?」
「あ、紹介するよ。俺の兄貴分で」
「新島勇吾って言うんだ。よろしくね」
草臥れたとしか言い様のない姿ながらも、確かな優しさを秘めた顔が満足そうに笑っていた。
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