【かかかかかかかいいかかかかかいいいぶ??????????】
『裏終末時計が0秒』
『"巫女"が世界崩壊を断定』
『北欧予言者組合が全理事一致で人類滅亡を予言』
『バチカンが最終プロトコル"ラッパ"を発動』
『シチリア島で観測されている度重なる噴火ですが、原因は特定できておらず』
シチリア島? 噴火?
ヒュドラはヘラクレスに殺されてはいなかった。不死身であるこの怪物を殺しきれなかったヘラクレスは、岩で圧し潰すにとどまったのだ。
そう、いるのだ。
神話の時代に、神が、英雄が殺せなかった怪物が、現代にいてはならない存在が。
神話の時代に死ななければならなかった筈の怪物が、神と英雄なき現代にいてはならない存在が。
またシチリア島の火山が噴火した。
エトナ山が。エトナ山が。エトナ山が。エトナ山が。エトナ山が。エトナ山が。エトナ山が。エトナ山が。
ヒュドラの兄弟もそうである。
オルトロスもキマイラもネメアの獅子も死んだが、ケルベロスは今も冥府の門を守っている。
やはりいるのだ。倒されるべきはずなのに、今なお存在する怪物が。
エトナ山が噴火した。
爆発した。
吹き飛んだ。
天高く舞う溶岩が空を赤くする。
兄弟?
ナニカが現われた。
◆
『ジャアアアアアアアアああああああああaaaaaaaaaa!』
『もう……終わりだ……』
『神よ……』
『ああ……』
天高く勝鬨を上げる"世界を守る者"に対して人類は絶望していた。
最上位の異能者を集め、近代兵器で総攻撃を行ったのに傷一つ付かなかったヒュドラ。それすら打ち倒した黙示録の獣が、月を背に吼える光景は、まさにこの世の終わり。人々の心を打ち砕いてしまったのだ。
『蛇君おめでとう! おめでとう! おめでとう! 例え世界は違っても、君は本懐を成し遂げられたんだ! 素晴らしい! 素晴らしい! あああああ素晴らしい! 祈りを込めた皆さん見てますか!? 蛇君はやりましたよ!』
それを心から祝福しているのは、その光景に相応しい悍ましいナニカだけであった。
≪おお我が子よ……≫
『ま、ず、い!』
『え?』
『は?』
『あ?』
呆然とただ単なる意味のない声だけが戦場だった場所に漏れる。
そのナニカに反応できたのは、同じく悍ましいナニカと
『ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
その突如転移で現れたナニカに、霊基をヒュドラとの戦い以上に、臨界点まで高めて漆黒に輝きながら、その首で襲い掛かる"世界を守る者"だけであった。
『ジャアアアアアアアアアAAAAAA!』
"世界を守る者"はそれぞれの首に逆カバラの文字を浮かび上がらせながら、展開した超巨大なクリフォト図を前ではなく背に展開し、自身を極限まで強化する。
そして冗談でも何でもなく、オリンポス山すら粉砕する"世界を守る者"の突進を受けたナニカは
≪むう≫
ただ顔をしかめただけだった。
天に位置する顔が。
遥か下、足元でぶつかった"世界を守る者"を見る。
いや、足と表現するには語弊がある。
とぐろを巻いた蛇だ。
腿から上は人間。
肩には百の蛇。
背には翼。
≪失せよ我が子の紛い物。死に絶えよゼウスの創造物≫
『あ、あ、あ』
『う、嘘だ』
『夢だ。夢に違いない』
『ひひひひ』
神話に名高き大怪物。怪物の中の怪物。最強の怪物。怪物たちの父。
ヒュドラの父
そしてオリュンポス最高神ゼウスの宿敵。
テュポーンの姿がそこにあった。
『ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
≪失せよ≫
"世界を守る者"が怯まず襲い掛かるが、なにせ体積が全く違う。山に例えられる"世界を守る者"であるが、テュポーンはまさに天。足の蛇ですら"世界を守る者"より二回り以上巨大なのだ。少し足の蛇が動くだけでも、"世界を守る者"の体が浮いてしまう。
≪なに? ゼウスの創造物。我が胴まで辿り着くなど不遜。消えよ≫
テュポーンはふと、自分の胴体の辺りを飛び回っている羽虫を見つけ、その瞳から炎を放射した。
その羽虫とは
『少し荒くなる。掴まっていろ』
「ぬああああああああ!?」
「きゃあああああ!?」
幹也、アリス、マナが乗っているプライベートジェットだった。
≪避けた? 不遜≫
だが飛行機は垂直の縦になるどころか、時には一回転までしてその炎を避け、続けてテュポーンが炎を放っても、まるで当たらない。
「た、たいちょおおおおお! "どっちか"で出られませんかあああ!?」
『隊長ではない。隊長とやらは行方不明で俺は機長だ。それに俺の仕事はあれを倒すのではなく、単なる時間稼ぎだ』
「はいいいいいい!?」
通話機越しにパイロットと話す幹也だったが、全く会話が成立していなかった。
『"怒れる力"を召喚しますか?』
(他に呼べる人はいないのか!? 普通の兄貴とか!)
マスターカードの提案に幹也は難色を示す。"怒れる力"は切ってはいけない切り札なのだ。
『原因は不明ですが、マスターメモリー内で深刻なエラーが発生しています。"無茶振り野郎"と"田舎者"が実質稼働中ですが、最低ランクの稼働でここまで容量を圧迫するはずがありません。二人を戻してもエラーが解消されない可能性が大きいです』
(蛇君の勝率はどれくらいか聞いてくれ!)
『待ってろ! 今こそ蛇君の正真正銘のフルパワー! "世界を守る者"のさらに上、"世界を救う者"としての実力を発揮するときだ! 影絵とはいえついにお披露目だ! はっはっはっは! いや、いっそオリジナルの蛇君を呼んじゃうか? やっちゃうか? だそうです』
(答えになってねえよ馬鹿があああああああ!)
『10分待て! そしたら俺が蛇君の最終セーフティーを全解除するから、それなら余裕で勝てる! なあにその機長さんなら余裕余裕。だそうです』
(これプライベートジェットなんだよ馬鹿野郎! しかも微妙になげえ!)
マスターカードとの会話の様で、実は腐れ縁との馬鹿話をしている幹也だったが、幾らあらゆる意味で全幅の信頼を置く機長でも、単なる民間機では限界がある筈だ。多分。と思う。
しかも10分もテュポーンをほぼ野放しなど出来る筈もなかった。
(いや待て! こいつ転移してきたな!?)
『肯定。恐らくヒュドラの死を感じて、エトナ山から転移してきたと思われますが、いつまでもここに留まっている保証はありません。そして戦闘では一撃で消滅させる。もしくは転移を阻害しなければ、何処に逃げるか分かりません。最悪の場合、市街のど真ん中の可能性もあります』
幹也は天秤にかけた。戦場とするには問題ないここで、"怒れる力"を召喚するか、この場に留まっている保証はないが、10分後蛇君に頑張って貰うかだ。
(蛇君は一撃であれを仕留められるか!?)
『ちょっと分が悪いかなあ……だそうです』
(そうか……)
その時。窓からティポーンが畿内を見ていた。
≪おお。エキドナほどではないが、我が子を産むに相応しい≫
「きゃあっ!?」
「いやっ!?」
しっかりと、どこか好色の目でテュポーンが見た先には、アリスとマナの二人。その恐ろしさと嫌悪感に少女達は幹也にしがみついて悲鳴を上げ、それを幹也は
「
普段とは違う緊急事態の最中で、壊れる筈のない精神の守りすら抑えられぬ怒りを燃料に、アリスとマナを抱きしめながら、"怒れる力"の召喚を宣言した。
『WARNING!』
『WARNING!』
『WARNING!』
『危険危険危険』
『危険危険危険』
『危険危険危険』
『過剰負荷』
『過剰負荷』
『過剰負荷』
『特異点を検出!』
『特異点を検出!』
『特異点を検出!』
ありとあらゆる警告がマスターカードのシステム内で鳴り響く。
『No.1
『No.2
『No.3
『No.4
『No.5
『No.6
『No.7
『No.9
『No.10
『No.11
『No.12
『No.13
『No.14
『No.15
『No.16
『No.17
『No.18
『NO.19
『No.20
『No.0
『No.21
かつて単なる人間相手に呼び出そうとした時とは違う。なにせ相手は大怪物テュポーン。システムの警告音を聞きながら、大アルカナたちはここは使いどころだろうと納得する。そして万が一の緊急使用が出来る切り札として、"怒れる力"はストレングスの認証だけで即座に召喚できる。
『ワイルド認証! マスターカード! テキスト! 滅死滅殺滅界滅全! "怒れる力"ユ』
大地を消滅させる。
大陸を砕ける。
海を割れる。
大気を消滅させる。
万物を砕ける。
天を割ける。
竜の首を捩じ切り、堕ちた悪神の首を引き抜き、世界を滅ぼした蟲を踏み潰し、全てを殺し尽くした破壊の化身が
大気を震わせて深紅の瞳を持った黒い靄が、紫電をまき散らしながら
『封印解除に失敗! ストレングスの承認を得られませんでした!』
現れなかった
『No.8
◆
『蛇君がんばえー! くそったれテュポーンだと! ゼウスの野郎やるならきっちりやりやがれってんだ! ええい蛇君の最終セーフティーなんでこんなに複雑なんだよ作った奴馬鹿じゃねえの! そうだ! もういっそのこと蛇君本体を何とか召喚して別ワールドデビューを果たして! いや、それなら俺が無理矢理出て行って貧乏人の間抜け面も見に行ってやるか! ぷぷぷぷぷ。ぷう?』
『なんかおかしいな……』
『お疲れ様でっす! なんかよく分からないですけど、お帰りなさいっす! それと馬鹿親父の相手ありがとうございまっす!』
『いやいや、親父さんとは実に気が合うんだよね。しっかし、なんかこう、違和感が……ひょっとして近い……?』
『………………行ったか。馬鹿親父の駄目親父の友達。略してバカダチ。人間の体ってあんなにデカく重くなれるんだなあ……あそこまで行くとむしろ引くわ。でもなんか既視感を感じるんだけど……っつうかなんで呼び出されたと思ったら帰って来たんだ? ま、いっか! それよりもやっぱ俺本体に連絡して!? は? な、な、なんだああああ!? アホ馬鹿駄目親父の会のエリアからぶうううううう!? おっもっ!? 重すぎ!? なにこれ!? ぶぶぶぶぶぶぶぶ!? ちょっ潰れる!? ぶちゅ』
◆
『"世界を守る者"を強制遮断します!』
消える"世界を守る者"。いやそれよりも
起こってしまった。
『カウンター発動! 蛇の系譜! 怪物達の父! かかかかかかかかいいいいいいぶぶぶぶぶぶぶつつつつつつつ怪物怪物怪物怪物怪物かかかかかかかか!? 超越者!』
『超越者による人類存亡の危機を認定いいいいいいいいいいいいい!?』
嵌ってはいけない筈のピースが、いや、そもそも存在しない筈のピースが嵌ってしまった。
『人類滅亡の危機が認定されれれれれれれれ!?』
『最終条件確にんんんんん!?』
『最終条件を確認しままままま!?』
『人類が対処不可能な超越者による、人類滅亡シナリオををおおおおおおおお!?』
『セーフティーかかかかかかかかかかか!』
『全機能最大稼働ちちちちちち!?』
『オオオオオオオオオバアアアアアアあああああああ!?』
『最終安全装置が解除さささささささささ!?』
『マスターメモリー起どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? !?』
かつて【人類の守護者】を呼び出した時以上に、いや、最早壊れ切っているとしか表現しようのないマスターカードの声。
≪さあ来るのだ≫
「一昨日来やがれ!」
幹也にしがみついている、アリスとマナに手を伸ばそうとするテュポーン。
『No.1
『No.2
『No.3
『No.4
『No.5
『No.6
『No.7
『No.8
『No.9
『No.10
『No.11
『No.12
『No.13
『No.14
『No.15
『No.16
『No.17
『No.18
『NO.19
『No.20
『No.0
『No.21
『ききききき近位せせせせ世界にににににに対象を対象を対象を』
『発見』
『再いいいいいいいいいいいいいいココココココココンタクト!』
『成功』
あってはならない事が起こってしまった。
いない筈の存在が近くにいてしまった。
本来全く違う、遥か遥か遠くにいる筈の存在が近くにいてしまったのだ。
偶々。本当に偶然、この世界と隣り合うほどの近さにいたのだ。
だから成功してしまった。
見つけられたのだ。誰を?
コンタクトできたのだ。誰に?
『ししししし召喚が了承されままままままししししししたたたたた』
了承までも得られてしまった。誰誰誰誰誰?
『一応言っておきますけど、どうなるか分かりませんよ?』
先程までとは一転して、落ち着いた声のマスターカードが幹也に問う。全く機能が正常に動いていない今、行ったことのない召喚ではどうなるか分からないと。
「
理由なんてものはそれで充分。
フォーチュンテラーが守るため
全てを破壊する言葉を叫んだ。
『最終認証を確認しました。召喚を実行します』
とても静かに落ち着いたマスターカードが宣言する。
【人類の守護者】の召喚とは全く違うシークエンス。
『
呼ぶのだ。
招くのだ。
マスターカードからではない。
『最終音声認証をお願いします』
「兄貴いいいいいいいいいいいいいいい!」
そして最後に
『レアリティは存在しません』
レアリティは存在しなかった。
『テキストはありません』
テキストの言葉は存在しなかった。
『二つ名はありません』
名の前に冠する言葉も存在しなかった。
"怪物"も
"全力全開"も
"いずれ宙の全て飲み込む怪物"も
勿論"怒れる力"すらも
それもそのはず。
ある筈がなかった。
『ゲート通過』
ただその拳を打ち付
世界を
大地よりも、世界よりも、星よりも重くあ
大暗黒にして
怪物たちの
「おいアオダイショウ。夜中に五月蠅いぞ」
月
世界を破壊するものが
ありとあらゆる存在を目にして、それでもなお幹也が思う最も強いものが
『ユーゴを直接召喚しました』
"最強"が地球に招かれた。
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