いざイタリア

 修験者の襲撃で負傷し、アリスとマナに病院へ連れていかれた幹也であったが、健康そのものと太鼓判を押され、次の日には商店街のいつもの場所に座っては


 いなかった。ではどこにいるかというと


「気象変動、CO2、アメリカで大火事、シチリア島噴火、溶ける氷山。うーん、地球が持たん時が来ている?」


『ドキュメンタリー番組に嵌りましたか』


 この世の楽園、地上のオアシス、その名も大型電化製品店であった!


 11月も過ぎるころには流石に肌寒くなり、少し電化製品店の暖房で温まろうとした迷惑客は、大きなテレビに映っていた地球環境のドキュメンタリー番組を見ながら暖を取っていたのだ。


 そう迷惑客である。なにせこの男、よく店にやって来ては色々見ている振りをしながら、結局何も買わずに去っていくのだ。ブラックリストに載っていてもおかしくはないだろう。だがしかし、今まで店側からお引き取りどころか、何かしらの牽制すらもされていなかった。それはなぜか。


「いないと思ったらやっぱりここだった」


「こんにちはおじさん!」


「ん? よう嬢ちゃん達」


 幹也がテレビを見ていると、いつもの少女達、アリスとマナが声を掛けて来た。


 ……それと同時に、この店の責任者が遠からず近からずの位置にスタンバイする。勿論目的は、幹也を通報するため。ではない。


「体は大丈夫なの?」


「平気平気。腫れも引いてるし」


「でも気になります……」


 つい昨日、眼球が飛び出してしまった幹也を心配する少女達。


 ……それと同時に、この店の責任者が手元の機械をチェックしている。勿論電話で幹也を通報するため。ではない。


「態々心配しに来てくれてありがとよ」


「買い物のついでよついで。事業を拡大するから、パソコンの数が足りないのよ」


「ついでに色々買えて助かってます!」


 幹也のお礼に顔を背けるアリスと、笑顔のマナであったが、ついでという言葉のニュアンスはマナの方が正しいだろう。


 ……それと同時に、この店の責任者が飛び出してきた。


「いらっしゃいませ西園寺様、扇様!」


 これぞ最敬礼と言うべきか。下手をすれば身長の低いアリスとマナよりも、更に頭が低い位置しているこの店の責任者、即ち店長。


「前買った機種のパソコンをもう100台送って」


「はい直ちに!」


「それとプリンターもです!」


「畏まりましたあああああ!」


 ああ資本主義。娘と同い年程度の少女達に対して、店長はそれはもう深々と頭を下げていた。


 いや、最初は当然ではなかった。幹也と会うために訪れたこの店で、ついでとばかりに機材を注文したアリスとマナであったが、こんな少女達がパソコンを100だの200だの注文しても、普通は何かの悪戯だと思うだろう。しかし実際に金は入金した上、この少女達が世界に名高い大企業のご令嬢という事が分かると、店を上げて歓待する事となったのだ。


 それはつまり、彼女達とよく話している幹也を追い出すことが不可能という事でもあった!


「ちょっと聞きたいんだけど、何か国語話せる?」


「ん? どうしたんだ突然?」


「いいから答えて」


「うーん、大きな声で言えないけど、地球上の言語は全部大丈夫だな」


「おじさん凄いです!」


「それほどでもない」


「本当?」


「本当本当」


 アリスに突然聞かれた質問だが、これに対して幹也の答えはもっと正確に言うと、全知的生命体の言語を話せる。であった。そしてアリスとマナからすれば、以前宇宙船に拉致された時、突然現れた兵士と幹也が英語で話していた事を知っていたため、とりあえず聞いてみた質問であったが、ある意味嬉しい誤算であった。


「じゃあイタリア語は?」


『全く問題ありません』


「うっ、本当かどうか分からないのが悔しい……!」


「凄いネイティブな発音!」


 しかもこの男、単に話せるだけではなく、仮にイギリスに行った場合、完璧なクイーンズイングリッシュで、現地のイギリス人すら驚くほど様々な言語を流暢に話せるのだ。


「ま、まあこの悔しさは置いておいて、それじゃあ短期間だけ仕事を頼みたいんだけど」


「はい何でございましょうか!」


「短期間はいいのね」


「ふっ。短期間はヒモじゃないからな」


「そうなんですね分かりました!」


 よく職を紹介しようと言われても、それはヒモみたいだから嫌だと駄々を捏ねている幹也であったが、どうやら彼の基準では短期間の仕事はヒモには含まれていないらしい。そしてヒモでない仕事と給金が入るなら、幹也は飛びつかざるを得ないのだ。


 その事に対してマナが、三日月の様な口で笑っているのに幹也は気が付かなかった。


「それじゃあイタリアに行くから通訳して」


「また遠いな。なんかあるの?」


「ファッションショーです!」


「つまり私達の仕事の付き添い」


「ああなるほどね」


 少女達の目的は、ヨーロッパイタリア半島。


 そう、世界四大ファッションショーが行われる聖地のひとつであり、彼女達が手掛ける服飾業で、最大のアピールをする場であった。


 そこへ一行は向かう事となったのである。























「俺パスポートないんだけど」


「はいこれ。写真は病院で撮ったから」


「はいいいいい!?」


















 ◆


『"田舎者"が、俺のお陰で色々話せるんだから、何かお返しを寄越せってうるさいんですけど、どうにかしてください』


「タバスコ買うか」


『余計うるさくなりました』

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