■き■き■き■?????????????
「ひどい目に会った」
『お巡りさんがいて助かりましたね』
「本当だよ」
早朝、いつもの商店街で腰を下ろしながら昨日の朝刊を見ている幹也。彼はホームレス狩りから必死に逃げながら、深夜に巡回中だったお巡りさんに助けを求め、何とか無事朝を迎えることが出来たのだ。
『でもなんかいましたよ。はっきりとはしませんが』
「ああやっぱりそうだよなあ……」
そんな彼だが、商店街を逃げ回っている最中に彼の危機察知センサーが働き、自分が強者にチラリと意識を向けられたことを感じていた。しかし何らかの方法で姿を消していたのか、幹也とマスターカードははっきりとその姿を捕えることが出来なかった。
「竜達の長と出くわした時の感じだったな。強さ的な意味じゃなくて、自分達以外は等しく塵だって心の底から思ってる視線だ」
『あのレベルがいたら日本列島沈没してるんで、強さ的意味じゃないって事は分かってますよ』
「はは、そりゃそうだ」
幹也は全く別次元の超越者達、比喩抜きでこの地球に一体でも出現すれば、その日こそが世界の終わりとなる者達の視線を思い出す。
あれこそはまさしく全てを塵としか思っていない、そして事実そうであった。
『尤も塵になったのは彼等ですがね』
「はっはっは。またまたそれもそうだ」
『隣にいたディーラーもよく塵になりませんでしたね』
「はっはっはっはっは! はは……」
だが幹也はそれすら単なる力によって押し潰される事を知っている。というか隣で見た。もっと言うなら危うく塵になりかけた。それを思い出した彼は、力なく乾いた笑い声をあげるのであった。
『おっと、若むらさあああああああ』
「新聞紙丸めの刑!」
「なんかやつれてない?」
「おはようございますおじさん!」
「よっす嬢ちゃん達」
そんな時、いつものアリスとマナがやって来たが、幹也はアホな事を言い出したマスターカードを新聞紙に包めてくしゃくしゃにし、後ろにポイっと捨て去った。
「中々会社の方も順調みたいだな」
「まあね」
「頑張りました!」
力が振るわれるのは突然である。例えそれが平和の時代に、全くの日常で、穏やかに話をしていても、脈絡もなく唐突に、振るわれるときは振るわれてしまうのだ。悪意で、エゴで、圧倒的強者から。なぜ許されるのだ? 答えは強いから。強ければ全てを許されるのか? 当然である。弱者が作り出した倫理や法を、強者にどうやって押し付けるのだ? 弱きものはただの塵なのだ。
そして幹也も少女達も力を振るう側でない。振るわれる側なのだ。だから受け身で訳も分からず力を押し付けられる。
「っ」
一瞬でスイッチの入れ替わった、いや、そもそもそんなラグすらなく、幹也は
「弱者め」
突然アリスとマナの後ろに現れた修験者の様な男に殴り掛かる。
「っ!?」
しかし修験者が手に持った錫杖が、幹也の腹に突き刺さる。
「おじさん!?」
「いやあああ!?」
コンクリートなど易々と粉砕する衝撃を受けた幹也に、アリスとマナは悲鳴を上げる。
が
「っ!」
再び修験者に殴り掛かる幹也。いつも通り、叫んで体の力を外に漏らすことも、ましてや激痛でうめくことすらない。
高々コンクリートを粉砕する程度の衝撃で幹也は気絶しない。いや、例え何が起ころうとも。言葉通り、死のうが肉体が消滅しようが粉微塵にされようが、
慣性で体が後方に吹き飛ぼうが、四肢には力が籠められ、瞳には炎を宿しながらどこまでも澄み切っていた。
衝撃で横隔膜が痙攣しようが神経が麻痺しようが関係ない。単なる覚悟がその肉体を動かして、修験者に拳を放つ。
「む?」
修験者にとってそれは意外な事であったが、それでも幹也の拳は修験者にとってあまりにも遅すぎ、再び錫杖を当てるのは造作もない事だった。
「……!」
「おじさん!?」
「雑魚め」
額に錫杖がぶち当たり幹也の顔は仰け反る。
とっとと修験者はアリスとマナを拉致して、暴力と蛇の事を、仮面と巫女が恐れた超越者の事について聞き出せばよかったのだ。そして必要であれば少女達を生贄にして、大蛇を呼び出せばよかった。だが強者である自分に、弱者の癖にも関わらず纏わりつこうとする存在が許せなかった。弱者には弱者の振る舞いがある筈だと。そしてなによりその目が気に入らなかった。
だから死なないギリギリでそれを分からせることにした。
「っ」
「いやああああああああああああああああ!?」
アリスとマナの悲鳴が、絶叫が重なる。しかし人払いの結界が張られたこの近辺で気が付くものは誰もいなかった。
その悲鳴の原因……幹也の眉間に錫杖が当たったから……だけではない。その外から内に掛かった圧に
幹也の両の眼が飛び出してしまったのだ。
「あああああああ!?」
狂ったように絶叫を上げるのは幹也ではない。その光景をはっきりと見てしまったアリスとマナだ。
「ふん。少しは見れた顔に」
幹也がこぼれた眼を探すのに必死に
「っ!」
なる訳がなかった。
ぶちりと自分の飛び出た瞳を踏み潰しながら、なおも修験者に挑みかかる。しかも馬鹿げたことに、目の見えない幹也に喋って位置まで教えてくれていた。
その幹也を、狂気ではなく単なる意思で立つ彼の後ろ姿を、踏み潰された筈の目がぎょろりと見た。見た。
見た。
見た見た見た見た見た見た見た。
黒が見ていた。
『あーあー。中途半端に強くて雑魚い上に、条件も微妙だから誰も呼べねえじゃん。でも俺が直接出たらダメ親父の会にニヤニヤされそうだしなあ。あ、そうだこの目って俺が作った奴じゃん。えーっとこの目から辿って、本体の俺に繋げて、ここをこうしてこうやってっと。あ、もしもし? 俺俺。いや俺だって俺。いや馬鹿が死んじゃいそうだからさ』
「ちっ死ね」
法治国家だが、修験者にとって人間の死体の一つや二つを完全に消し去る事など造作もない。錫杖にほんの少しだけ力を込めて、幹也を消し飛ばそ……
『が、がががががが外部からの介入を検知! カウンター????????? エラーああああああerrrrrrrr発動! 求道者! 弱肉強食! 獣の理論! 修羅道! 条件????????をををををををを確かかかかかかくにににんいにににににんんんんんメモリイイイイイイイイイ…………………』
『ワイルド認証!選定完了!ブラックレア! テキスト! 弱い自分が許せない君に送るもの"力"だ』
『強き強き強き猿!』
「あ?」
呆然とする修験者を見下ろす形で現れたるは
狒々の顔をした猿である。
全長20メートルの。
そしてその外皮は黒い筋繊維の様で
はない。
いや、本来はその筈だった。この恐るべき力の化身は黒い筋繊維の様な外皮で覆われ、三猿、つまり見ざる言わざる聞かざるを相手に押し付け、視覚、聴覚、発声を封じ、平等に単純な力比べに持ち込む不平等な存在であった。
だが、修験者にとっては現れ方がマズかった。本来の役割、精鋭たちに対する仮想敵の姿ではなく、よりにもよって修験者と同じ、求道者として、そしてなにより
『"第二形態阿修羅モード"をoooooooooooooooooooしょしょしょしょしょ召喚んんん!』
修羅道の化身として。
現れたるは狒々の顔をした三面六臂。
その面に喜怒哀など一切なし。面頬を付けた顔全てが闘の一文字。
手には剣槍独鈷。
人類には理解出来ない超越者をして、アメリカとロシアを蹂躙し、凄まじきカバラの大天使すら凌駕する怪物の中の怪物と評する存在。
似て非なる世界、時空において、"強き強き強き猿"がその巨体を大地に……
『しゃあねえなあ。ま、猿君が商店街で暴れたらヤバい事になるし、気当たりだけでもバタバタ倒れちゃうからな。あ、サービスじゃねえからな! きちんと菓子折り準備しとけよ! という訳で、
【■■■■■結界!】』
四方を囲った、常世と現世を隔てる注連縄の結界の中に
着地させた。
青と赤の炎を纏いながら、恐るべきものの影絵が
影絵?
『召喚門から異常を感知! オオオオオオオオリリリリリリ』
『ゴオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』
『"強き強き強き猿"オリジナルを召喚しました!』
"本物"が
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