占い師の癖に女の怖さをちっとも知らない
「西園寺と扇が共同出資で服屋?」
『もう少し言い方を考えてくれません? 洋服店とか服飾店って言うだけでかなりイメージ変わるんですけど』
「うるせえ。この名字、嬢ちゃん達の親の会社だよな?」
『まあそうでしょう』
拾った新聞を広げて読んでいる幹也が、自分の呼んでいる文字を声に出している。そこには彼の言う通り、西園寺と扇が共同出資で服飾店を始めると書かれており、カラーの写真には素晴らしいスタイルの女性たちが、その新たな企業の発表したデザインの服を着ていた。
「うーむ。服の良し悪しなんてよう分からん」
『戦闘服か古着しか着ないディーラーには無縁でしたからね。およよよ。お母さん悲しいです』
「はいはい。お母さんお母さん」
服ねえ……と首を傾げる幹也。それもそのはず。もう彼は長くまともなファッションとは縁が無かったのだ。まあ、戦場にいるか超越者とくっ付いているのに、そんな余裕がある筈もない。
『おや噂をすれば。若紫がだだだだだだ』
「地面擦り付けの刑! よう嬢ちゃん達。丁度今日の新聞で見たぞ。これこれ」
「……あんた、その新聞昨日のなんだけど分かってる?」
「おはようございますおじさん!」
「え!? あ、ほんとだ!」
漫才をしている幹也の前に、アリスとマナがやって来た。その彼女達に、これ嬢ちゃん達の家の事だろと新聞を見せる幹也であったが日付は昨日だった。
「でもそれ読んでたんなら話が早いわね。そこの経営者、私達なのよ」
「共同経営です!」
「へえー教導警衛ねえ。まあ確かに自衛力鍛えるのはいい事だ」
全く話が噛み合っていない二人と一人。だが仕方ない事だろう。少女達から経営者とか言われてもピンと来るはずがない。そのため、幹也が自分に最も馴染みのある意味に変換してしまうのは当然であった。
「自営力ですか?」
「そうそう自衛力と警衛力」
「何かおかしくない? 漢字で読み方教えて」
「自衛隊の自衛。それと警護の警衛」
「ぜんっぜん違うわよ! 経済! 営業! の経営よ! 共同経営!」
「え!?」
キョトンとしているマナに、何かおかしいと訝しんだアリス。そして幹也も教導警衛とばっかり思っていたら、まさかの共同経営で驚いていた。
「という事は社長!?」
「名義は違うけど実質ね」
「まだ私達の名義じゃ侮られちゃうんです」
「いや、そりゃそうだろ。嬢ちゃん達が社長とか名乗っても誰も信じんわい」
流石にアリスとマナの様な少女が社長ですと挨拶しても誰も信じない。そのため名義は別人となっていた。
「でも一体なんでまた?」
「私とアリスちゃんが次期トップとしての教育を受ける一環です!」
「そうそう」
「はえーセレブも大変だねえ」
半分嘘である。本当は、そろそろ私達、経営の仕事をしたいと言って両親を喜ばせ、初期投資を分捕って社長に就任したのだ。
この少女達、勿論両親の事は愛しているが、それはそれ、これはこれ。立っている者なら親でも使えの精神で、幹也ヒモ計画を着々と進めていた。なお初期投資は後々三倍にして返したため、流石はうちの子だ。こんなに才能があるとは、西園寺も扇も安泰だと両親を更に喜ばせた。
親の心子知らずとは言うが、子の心親知らずである。ヒモのためだと知ったら泡を吹くだろう。
「まあ頑張れ。何かあったら手伝うくらいはしてやるよ。尤も俺が役に立つ分野じゃないけどな。はっはっはっは」
勿論幹也は本心から、アリスとマナが困っていたら手伝う気であったが、服飾など全くの門外漢であったため、それはもう軽く考えていた。
「本当ですね!?」
「じゃあ早速手伝ってくれない?」
「あれ? 荷物運びの男手も足りない感じ?」
迫って来るマナと、ニヤリと笑ったアリスに困惑する幹也。
「私達、女の人の体は分かるんですけど、男の人の体がよく分からなくって!」
「ちょっと採寸取らせてくれない?」
「ははあなるほどねえ。分かった協力して進ぜよう」
(父親は忙しいだろうし、護衛にそんな事言うのも気が引けたんだろうな)
軽く応じた幹也は、ちょっとだけ常識が壊れていた。なにせ長くいた宇宙戦争世界では、軍隊生活が基本だったのだ。場合によっては上半身裸なんて当たり前。とんでもない時は、鍛え抜かれた女性も薄着でうろうろしていたのだ。そのため彼は、碌な疑問も感じずに了承してしまった。
「それじゃあ行きましょう!」
「こっちこっち」
「え、今から? せっかちだねえ若人よ」
こうして幹也は、態々自分から出荷されてしまったのであった。
■
「ここオフィス?」
「そう。まだちゃんと稼働してないけどね」
「その内賑やかになると思います」
幹也が出荷されたのは、高級オフィス街の一室であったが、まだまだ準備段階であり、そこは真新しい備品やデスク、パソコンなどが準備されていたが、人はいない状態であった。
「じゃあよろしく」
「はいよ」
やっぱりちょーっとだけ常識が壊れてしまっていた幹也は、オフィスの中だと言うのに、アリスに促されてその古着をすぐに脱いでしまった。
「っ」
「ほあぁ」
服の上から見れば貧弱で、実際に僧帽筋が盛り上がっている訳でも、腹筋が割れている訳でも、三角筋がはっきりと分かる訳でもなかった。しかし、未だに最低限度の肉体訓練は維持しているし、何より特筆すべきは、体中、至る所に存在する傷、傷、これまた傷であった。
「……」
勿論少女達も、幹也が普通の生き方をしていない事だって想像していた。だからこれだけ傷だらけでも驚きはしなかった。しなかったが代わりに、まあ、何というか、実際にその体に抱きかかえられ、しょっちゅう助けて貰っている事も相まって、年頃のお嬢さん達には少々刺激が強かったようだ。
早い話見惚れていた。
「さあどんと採寸してくれたまえ」
「わ、分かったわよ!」
「はい!」
逆に、さあどうぞとばかりにいる幹也が小憎らしいくらいで、少女達は一応持っていたメジャーを使って採寸していく。
「あんた、この痣は?」
「うん? そんなとこに痣なんかあったか? どっかでぶつけたかな?」
(宇宙船で取り押さえられた時のか)
「ふーん」
その際に少女達は、幹也に残っている幾つかの消えかけている痣に気が付いた。幹也は不思議そうな声を出しているが、少女達には聞こえているのだ。じっとそれを見ながらも、採寸してスケッチブックに服のデザインを描いていく。
こうして一人ボケっとした幹也と、アリスとマナの時間は過ぎていくのであった。
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