女に歳は関係ない

「うーん大事」


『そりゃそうでしょう。宇宙戦争がすぐそばで勃発したんですから。終戦しましたけど』


 いつもの商店街、いつもの怪しげな占い師事幹也は、ひと騒動終わったと呑気に新聞を読んでいた。拾ったばかりの。


 その新聞の見出しには、ナット星人全滅! ナット星人を襲った艦隊に人類連合の文字!? 宇宙の陰謀に巻き揉まれた地球! といった文字がデカデカと印刷されている。


「まだ連中の化けの皮が剥がれる前にやっちゃったから、俺って世間一般じゃとんでもない極悪人?」


『バレたら"田舎者"と一緒に地球から追放ですよ追放。でもよかったですね旅の連れが出来て』


「あいつと宇宙旅行なんかしてみろ。その日の内に墜落だから」


 当然なのだが、ナット星人の陰謀を知らなかった人類は、友好条約を結んだ彼らが一方的に攻撃され、しかも全滅したことに愕然とし、また恐怖した。


 しかもである。そのナット星人を殲滅した艦隊の戦艦には、分かりやすく人類連合軍と書かれており、これは何か宇宙規模の陰謀に巻き込まれたのではないかと、連日連夜大騒ぎになっていた。


『これでディーラーも、胃痛を貰う側じゃなくて与える側になりましたか』


「隊長が関わってるんだから、今忙しい皆さんは被害者の会会員だろ。つまり俺のせいじゃない」


『会員の勧誘に余念がないとは被害者の会、胃痛同盟、社畜連合。全部に加入しているだけはありますね。いやはや可哀想に』


「うるさい」


 だが副産物として、人類間での戦闘行動が減少傾向にあるのは思わぬ僥倖だろう。尤も、絶対に無くなることは無いのだが……。


「さて、いつも通り俺には何の関係も無い事しか書いてないな」


『ディーラーがそう言うならそうなんでしょうね。ディーラーの中では』


 読み終わった新聞を広げて地面に敷き、その上に寝転がった幹也。誰がどう見たって浮浪者である。


「あ、いたいた。また拾った新聞?」


「こんにちはおじさん!」


「おーう」


 そんな浮浪者な貧乏人に話しかけるのは、それとは真逆。セレブ中のセレブで、世界的大企業の一人娘である、アリスとマナである。最近の趣味は、とある男をどうやってヒモにするかの計画を作る事。


「仕事紹介しようか?」


「私達の護衛とか!」


「ふ、世間知らずな嬢ちゃんたちに教えてあげよう。戸籍ってのが無いと履歴書書いても意味ねえんだわ。それに職歴はずっと空白。資格も無いと来た。ははははは。はは。それに女の子に仕事紹介されるとかヒモだから嫌だね」


 乾いた笑いを浮かべる幹也だがこの男、職歴として書いていいのなら宇宙規模の軍人とか、戦時省略された人型機動兵器だったり工作機械の免許を持っていない事もなかった。まあ、現代日本で使えるはずがなかったが。それに、採用担当官が特技は何かと問うても、カードゲームと、超越存在についていく事です位しか言うことが無いのだ。担当官だって困るだろう。


「じゃああんた、当分普通の結婚とか出来ないじゃん」


「そ、そうです!」


「はっはっはっは! 小娘共に心配されるとは俺も偉くなったもんだ。だっはっはっは!」


「あっそ」


「です!」


 まるでアメリカドラマの様な笑い方をする幹也は、どう見てもうざいとしか言いようが無いのだが、何故かアリスとマナは満足気だ。


「それより変わったことは?」


「無いです! ママもパパも私達が拉致されたの知りませんし」


「言ってもよかったんじゃね?」


「いいのよ。もう解決したんだから」


「なんかにやけてないか?」


「そ、そんなことないです!」


「ふ、ふん!」


 アリスとマナは、ナット星人に拉致されたことを両親に伝えてなかった。もう解決したことだし、幹也の事を詳しく説明しなければならなかったからだ。それと同時に、大事な言葉も思い出してしまった。殆どプロポーズ同然の言葉を。


「それじゃあ私たち学校があるから」


「また来ます!」


「おーう。学べ若人よ」


 ほんのり頬を染めたアリスとマナに手をひらひらと振る幹也。本当にぐうたらである。


 ◆


「よし、当分結婚する気はないみたいね」


「うん! 後は私達が会社をいくつか持ってから……!」


 何がよしで、何が会社を持ってからとは言うまでもないだろう……


 それこそが、恐るべき計画、幹也ヒモ計画の一端プランであった!


 まず第一に、幹也をヒモにするにしても、自分達の金でなければ両親から横やりが入るだろう。まあ、そもそも当たり前なのだが。


 次いで自分達の容姿。いや、今現在も美少女で、両親の事を考えると将来性抜群なのだが、生憎と今迫っても幹也はぷぷぷと鼻で笑うだけであり、もう少し成長する時間が必要であった。


 なお余談であるが、幹也のぷぷぷ笑いは、絶対に認めないが彼の悪友にそっくりである。どちらが先にその笑い方になったかは、鶏が先か卵が先かであるが。


「あれだけ好き勝手言ったら、責任取るってのが筋じゃない。ねえ」


「うんそうだよね!」


 勝手に進められている恐るべき計画だが、誰が悪いとなると、それはもう100%幹也が悪い。年頃の娘の命を何度も助けて、終いには宇宙船の中で二人の幸せを願っているだなんて言ってのけたのだ。むしろこれで責任取らないでどうするのだ。


「じゃあ、やっぱり必要なのは私達の会社だよね!」


「最初は洋服かしら」


 しかもである。この二人、超大企業の娘としてきっちり教育を受け、その父親たちの才能を持って生まれ、能力ゆえに人間の行動を理解している、まさにパーフェクト令嬢! はっきり言って今の段階でも、そこらの社長より能力があるとんでもない娘さん達である!


 知らないうちに人生の危機が迫っている幹也にこの言葉を送ろう!


 女に歳は関係ない!


 以上!


 幹也の運命やいかに!

 もう決まってる様なもんだけど。

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