【人類の守護者】

『どうします?』


(どうしようか)


幹也は困っていた。ついでにマスターカードも困っていた。


『まあ、首都に制止を聞かない未確認機が接近すればそりゃ攻撃しますよね』


(間違いない)


情報収集のため、半ば住居と化しているインターネットカフェでパソコンを使うと、アメリカがU.F.Oに対して攻撃し、そのU.F.Oが地球を離脱したことを知ったからだ。これに予定を狂わされた幹也は、頭を抱えながらもそりゃそうだろうと思っていた。


『そうだ、国連で一つ演説をしますか? 人類よ団結するときは今だ。とか』


(ぷぷ、そりゃいい。まずは国連事務総長にならないとな)


『ディーラーを賭けてもいいですけど、アリスとマナの伝手を使って宣伝しても無理ですね。誇大妄想家のおかしな奴扱いで終了です』


(現時点で人類の団結も無理だな。それこそ賭けていい。というかカードのくせして持ち主を賭けに出すな)


『人類連合軍ですら、開戦初期は辺境惑星の反乱を疑っていませんでしたからね』


(無視かこら。尤も俺も最悪の最悪を仮定しているだけだ)


『まあ前例がある以上無駄にはならないでしょう』


まさに八方塞がり。単なるホームレスに出来ることなどたかが知れているし、実際に行動を起こしたとしても、アリスとマナ以外誰も聞き入れはしないだろう。唯一の望みは、まだU.F.Oが敵対的だと確定していないことだ。


(DEATHは相変わらずか?)


『ええ、彼女達に引っ付いてます』


(アリスとマナも難儀な……だが何かあっても駆け付けられるならいい)


そして最悪の場合、守ると約束したアリスとマナはどうにかしなければならなかったが、よりにもよって死のカードに気に入られている少女達に幹也は嘆息する。


『それで結論は』


(どうしようもないから、いい考えが浮かぶまで生活費を稼ごう)


『およよよよ』


結論! とりあえず明日明後日の寝床と飯! だって人間だもの!




「うーん」


「聞こえなかったね」


軽い足取りでリムジンに乗り込んだアリスとマナだが、座席に座って落ち着くと、一つの懸念が沸き起こった。


「あら、見惚れてたから気が付かないと思ってた。でもそうね、たまにキメ顔したらとんでもなく精神プロテクト上がるのよね」


「も、もう! アリスちゃんだってそうじゃない!」


それは普段聞こえてくる幹也の心の声が、宇宙人の話題になった途端聞こえなくなったことだ。


「隙あらばあいつを押し倒そうとしてるマナの方が見惚れてたわよ」


「んにゃあああああああ!? 何で知ってるのおおおお!?」


「え!?」


「え!?」


どうやら揶揄う為にアリスが言った適当に言葉が、マナの秘密の企みを暴き立ててしまったらしい。


元々彼女たちの能力はお互い効果がないため知られるはずがないのに、うっかり口を滑らしてしまったマナはしまったーー! という表情を浮かべながら両手で口を押えアリスから距離を取るが、俗に言うもう遅いという奴である。


「ちょっと待ちなさい! 内緒にしてたってことは私を出し抜こうとしてたわね!?」


「そ、そ、そんなことないよ!」


「嘘つきなさい! そのうち既成事実を作って結婚まで持ち込むつもりでしょ!?」


「んにゃあああ!? まだそこまではあああ!?」


「じゃあどこまでよ!」


「アリスちゃん止めてえんむうううう!?」


とりあえず夜景の綺麗なレストランで、とは口が裂けても言えないマナは、興奮して襲い掛かって来たアリスからなんとか逃げようとするも、それこそ押し倒されて頬を圧し潰されてしまった。


そんな防音の壁で運転席と隔てられているとはいえ、彼女たちの両親が見たら卒倒しそうな会話と行動をしながら、先程まで感じていた懸念はすっかり忘れてしまっていた。



それもそうだろう。情報媒体の発達で世界の人間全てがU.F.Oの存在を目撃したとして、いったいどれほどの数の人間が、人類の滅亡、地球陥落を真剣に考えるのだ? そして考えている数少ない者達も、どう起こるか具体的な事などまるで分らなかった。


(奇襲、通信遮断、主力艦隊の総数と航路、地上兵力、機動兵器、携帯兵装、戦略戦術)


ただ一人の隠者だけが、自分の経験をひっそりと反芻していた……。


そして……



『交通事故が』


『本日のお天気コーナーは』


『昨夜のホームランはしびれましたね!』


『ここが流行りのスイーツ店です!』


『自動車教習所でのマニュアル車とオートマ限定の割合は』




『ニュース速報です。世界各国の宇宙調査機関や天文台が、宇宙船の様な物体を複数確認したとの共同声明を発表しました』


『アメリカ合衆国がデフコン2を発令。キューバ危機以来』


『ロシアが戦略ロケット部隊を動員』


『NATOで軍事委員会が』


『カナダが予備役2万5千人を』


『国連が直ちに全人類同士による、全ての戦闘行動を中止するよう要請』


『宇宙船が火星付近を通過!』


『宇宙船の数は5隻でいずれも100メートルほど』


「……来たか」


ゆらりと立ち上がった隠者の手には、輝く一枚のカードが……



『ご覧ください! たった今、国連事務総長とナット星の代表大使が友好条約に署名し、初の地球外交流が成立しました!』


が、それも全部無駄になった!



世界はたった数週間で劇的に変わってしまった。


(俺って違う世界に帰って来たんじゃないか?)


『そうかもしれませんね』


(いや、マジで初手友好条約とか頭おかしくなりそうなんだけど)


『星系連合とですら、共通の敵がいた上での軍事力を背景にした軍事同盟でしたからね』


(しかも人型金髪青目のエルフ星人だぜ? 向こうの一部が発狂して羨ましがるぞ)


いつもの商店街、いつもの場所で幹也は寝転がっていた。一応仕事に来たはいいのだが、ショックが大きすぎて全く仕事をする気が起きないようだ。


(俺だいぶ腹括ってたんだけど)


『奇遇ですね私もです』


しかも最悪どこかの国が沈没したり、自分が死ぬ可能性も考えに含まれていたため、そりゃもう肩透かしを食らっていた。


(あいつの反応は?)


『そのまま伝えましょう。俺の本体なら分かるけど、こっからどうやって恨みを感じろってんだ。あと種族全体を呪いたいならサンプルにそれなりの数を用意しろよ! だそうです』


(反応じゃなくて普通に話してるじゃんそれ!)


『はっきり言って"田舎者"はストレングスやDEATH以上に、いえ、"無茶ぶり野郎"すら超えて全カードで最も手に負えません。他のマスターメモリーすら何かの刺激がなければ休眠状態なのに、ただ一人"田舎者"だけが好き勝手してます。しかも隙あらば勝手に出て来てやろうと、虎視眈々とチャンスを狙っているようです』


(負の側面が強調され過ぎた状態で出てきたら、それこそ手に負えないから何とかしてくれよ!)


『まあ頑張ってみます』


(断言しろおおおおお! 第四態以上で勝手に出てきたらマジでまずいんだって!)


幹也はぶったまげた。マスターカードからは、てっきり反応があった、なかった程度の答えだと考えていたら、普通に返事が返って来たのだ。


幹也は絶対に、絶対に認めないが、友人で、親友で、心友で、悪友で、腐れ縁で、しかも召喚条件がかなり緩い"田舎者"であるが、それこそ人類滅亡の危機以外で頼りたくない、召喚したくないのがこの存在である。


単純な破壊力で言えば"怒れる力"が最も危険なのだが、それでも"田舎者"を呼びたくない理由、それもまた最も危険であるからだ。


(本人でさえ形態が上がったら思考が荒れるのに、ましてや負の面が強調された状態でコントロール出来なかったら、宇宙中の恨みの感情に連鎖反応するぞ! そうなったらもうどうなるか分からん!) 


その存在はただただ不安定で根の性根がひん曲がっているため、コントロールを外れた場合、幹也でもどうなるかさっぱり予測が出来ないのだ。その癖攻撃距離が馬鹿みたいに長く、それこそ宇宙人に対するような規模の権能を行使できるとなると、フリーハンドなんて以ての外だった。


『俺の事なんだと思ってんだこの貧乏人! だそうです』


(馬鹿だよ馬鹿バーカ!)


『馬鹿っていう方が馬鹿に決まってるだろこのバーカ! だそうです。知能指数いくつですか? あと私を間に挟まないでください』


「あ、いたいた。って寝っ転がって仕事する気全然ないじゃん」


「おじさん久しぶりです!」


「おーう久しぶりだな嬢ちゃん達」


なにやら馬鹿丸出しの会話を心の中でしていると、ここ最近の宇宙船騒動で学校も休校となり、両親から禁じられて家から出られなかったアリスとマナがやって来た。


『愛しの若紫が来ましたね。あ、これは私の言葉です』


「ふんっ」


ベキッ


『あいたああああああああ』


「怖くなかったか?」


「宇宙人が攻めてきても、あんたが助けてくれるんでしょ?」


「おう」


「……やっぱり私よりアリスちゃんが見惚れふんむううううううう」


「うっさいわよ!」


「やめへええええええ!」


幹也がふざけたことを抜かすマスターカードをへし折りながら、家で缶詰め状態だった少女達を気遣うと、何故かキャットファイトが始まってしまった。ちなみに幹也は寝っ転がったままの涅槃像である。この男、気が抜けきっている。


「嬢ちゃん達、アメリカとかがどうするか知らない?」


「え? おっほん。核攻撃が効くか検討しながら、表面上は仲良くしてるってパパが言ってた」


「ふみゅうううううう。しょ、植民地化されないかがまず念頭にあるみたいです。あ、でも何とか技術は欲しいってあちこち言ってます」


「だよねえ」


『国家に真の友人はいない。いい言葉ですね』


(ましてや握手しようがよく分からん宇宙人とくればな)


服の乱れを直したアリスと、ほっぺたを撫でているマナによると、いきなりやって来た宇宙人に対して当然どこの国も、一に国防、二に国防、三四がなくて、五に国防のようである。


「あとは、そうね、圧倒的に科学力が上な連中が握手してきたんだから、ちょっとは信用してみようって考えもいるわね。っていうか握手って文化があることの方が驚き」


「しかも宇宙船建造の技術まで教えてくれるって打診されているみたいで、何とか利用しようとしている人もいるみたいです。でも見返りの要求がほどんどないから、かなり警戒してます」


「ふむふむ」


『大アルカナ会議しますか?』


(分かり切ってんだよなあ。まあ一応聞くけど、侵略するよりある程度育ててからどっかの戦場で使う、そんな感じの派は挙手)


『全22が挙手しました』


(知ってた)


応えは分かっていたが、一応マスターカード内の大アルカナたちに意見を求めると、やはり幹也の思った通りであった。


『敵に塩を送るな』

『隣国を援助するものは滅ぶ』

『無償援助とか絶対ない』

『役に立たない未開の文明ならとっとと帰るかスルーしてる。そして人間を駆除していないとなると、資源より人的資材を必要としている。つまり損耗の激しい戦争』

『なぜ技術付与という話になるのか。これが分からない』

『それじゃあまた今度ね、をしてない時点で何かの目的がある』

『宇宙船の技術を提供とか笑っちゃうね』


(支配をしないのは……軍事力はあっても、支配するだけの頭数がない? 人的資源説に一ポイントだな。クローンは……痛い目を見た例をいくつも知ってる。連れ去らないのは……人類に適した場所がない、保管するスペースがそもそもない?)


「宇宙船の乗員知ってる?」


「えーっと、表には10人も出てない筈」


(100m級の船5隻で表に出ているのは10人? 高度なオートメーションで宇宙船を運用しなければならない人手不足、着陸後に人を使っての示威行為も出来ないほどの人手不足、侵略後の管理も出来ない人手不足)


『推論、何者かと戦時中、もしくは戦争後で人的資源が払底し、早急な戦力回復が必要な勢力。かつ大規模なスペースがなく、新造艦の建設並びに修理が不可能で、本星が失陥している可能性がある』


(単なる敗残兵ならそれでいい。が、リベンジに燃えてたり、まだ戦争中なのは困る)


あくまで推論であり妄信することはないが、現時点での情報で幹也は仮説を立てた。


「ところでマナが一緒にレストラン行きたいそうよ」


「ふにゃ!? それはアリスちゃんだって一緒でしょ!?」


「マナが、よ。マナ、が」


「ふ、舐めんなよ。嬢ちゃん達が行くようなハイソな店のテーブルマナーなんて知らんわ」


「じゃあ教えううっ!?」


「きゃあっ!?」


「どうした!?」


マナが、という理由を前面に押し出して、アリスが幹也を食事に誘ったその時であった。突如として彼女達が蹲ったのだ。


『警告。超々大規模で詳細不明な、調査波の様なものが確認されました』


(ならどうしてアリスとマナだけこうなってる!?)


『解析中……固有の精神波を探知するものと推測』


幹也は蹲った少女達たちを脇に抱えながら、臨戦態勢で路地裏に駆け込む。


『警告。該当データなしの飛行物体を感知。こちらに接近中です』


(路地裏にいたまま地下鉄へ行けるルートを探せ!)


『了解』


アリスとマナの異変に、接近してくる謎の存在が関わっていることは明白で、幹也は上空から探知されない様に裏路地から地下鉄に行き、隠れるかそのまま遠くへ逃れるプランを立てる。


『未確認機頭上。トラクタービーム類照射準備確認』


(建物内は!?)


『計測出力上意味なし』


どんどんと端的になるマスターカードの報告が、それだけ今の危機的状況を表していた。


(投げる、無理! 兄貴、出現の余波でアリスとマナが死ぬ!)


そしてその謎の存在は、幹也の頭上にあっという間に接近すると、アスファルトの一部を巻き込みながら、幹也たちをその船内に取り込んだ。


『動くな!』


「あーっと」

(6人。光線銃。1人は一際豪奢な服。狙うはあいつ)


「ううっ」


「ひう」


光線が止まるとそこは船内の倉庫の様な場所で、幹也の周りには全部で6人の、俗に言うエルフの様な男性たちが銃の様なモノを構えて囲んでおり、アリスとマナは怯えた声を漏らす。


『こいつら3人ともか?』


『いえ、メスの2人だけです』


『なら邪魔な方はとっとと殺して処分しろ。猿の標本が一つはあった方がいい。しかし、目標値に達する精神感応者が二人もいるとはな。これであの精神生命体どもを駆逐してくれる。待てよ、二人いるならどちらかはすぐに繁殖用に、いやリスクが』


『あのー少し話をしませんかねっ』


『なに!? 翻訳機なしになぜ我々の言葉を!?』


(射線が被った!)


『貴様!?』


全くこちらに事情を説明することない彼らの会話を聞いた幹也が、驚いてこちらに詰め寄った指揮官らしき男と自分が重なり、周りの兵たちとの射線に被ったことを確認するとすぐさま飛び掛かった。


「ぐっ!」


しかし、ほんの僅かな、本当に僅かな差で、幹也は護衛に羽交い絞めにされてしまった。


「ぐうう!」


『いっつ!?』


『ムウ様!?』


『何をしている! しっかり取り押さえよ!』


渾身の力を込めてムウとやらの拘束を図った幹也であったが、その手は虚しくムウの頬を引っ掻いただけで終わってしまう。


『こ、この余に傷を! ゆ、許さん! このガキどもがいるのならこの星の猿にもう用はない! 自分の行いが何を招いたかここでとくと見るがいい! 全艦隊を呼び出してこの星を更地にせよ!』


『はっ!』


彼らの当初の目的を考えると全く持って不合理極まりないのだが、頭に血が上ったムウは目の前の猿を少し懲らしめるためだけに、艦隊を呼び出して地球を更地にする様に命令を出した。


自分の行いが何を招いたか知らずに。


そう、招いたのは星間戦争を引き起こすほど恨まれた自らの種族。そしてそれは邪なるモノを呼び出すには十分な怨念であった。


宇宙空間にワープアウトしてくる艦の数が多くなるにしたがって


マスターカードに黒い光が集まっていく。


『ディーラーに報告! 一定以上の正当な恨み値を確認!』


「召喚する!」


『了解! カウ、カウ、カウンタアアアアアアアアがこlvのがんあkヴぉvんjsどぁerrrrr………』


マスターカードの報告に、即座に召喚を決断する幹也であったが、そのマスターカードの様子がおかしい。連続的な機械音を出すと唐突に黙り込んでしまったのだ。


『なにをしようとしたか知らんが「かあっ!」ぎゃああああ!?』


溢れるかのような黒い光が止まり、ムウだけでなく幹也にとっても予想外な状況であったが、それだけでこの男が、隠者が止まるはずがない。例え取り押さえられた四肢がもげようと、心臓が止まろうと、指揮する敵の大将首を獲る。今アリスとマナを救うには、その混乱に乗じる隙しかない。そしてその覚悟が僅かに届かなかった筈の数ミリを超越した。


幹也の口が、幹也の歯が、


ムウの喉を、ムウの肉を、


噛み切ったのだ。


『ぎいいいいいい!?』


「んんんん!」


『ム、ムウ様!?』


迸る赤い血を止めようと、首を押さえながら体をくの字に折り曲げるムウを、例え首だけになったとしても止めは刺すと、肉片を吐き出しながらなおも一歩だけ進む幹也。


『こ、この猿があああ!』


「「おじさん!」」


最早許すまじと、兵士たちがムウに当たらないよう銃を構えて、その引き金を


運命は



『あん? 呼ばれるかと思ったらなんかバグったぞ? でもまあ、制御が緩んだし貧乏人の顔でも見に行ってやるか! ぷぷぷ。ぷぅ? んん? んんんんんんん!? ぶうううううううううううっ!?』


『友情に水を差すのは悪いが、パンはパン屋にだ。譲ってくれ』


『お、お、おおおお疲れさまでえええす! 勿論ですとも! 行ってらっしゃいませえええええ!』


『ああ、ありがとう。ではな』


『………い、行ったか? お、おっかねえええええ! あんなのと俺の召喚条件が被ったらそりゃバグるよ! 話には聞いてたけど、全人類の希望呪いを受けてもピンピンしてるじゃねえか! ほんとに人間かあれ!? 復活の事考えずに単に殺すだけなら親父でも殺れるじゃん! お姉様ああああ僕ブルっちゃいましたああ! あ、それとこの貧乏人め! 異世界言語の壁がきついって言ってたから、折角俺の翻訳タールを口へ突っ込んでやったのに、お返しを貰ってねえぞこのバーカバーカ!』



不幸があったとすれば、この宇宙人たちがこの艦隊だけで遠い惑星に本拠地というものを持たず、怨念による遠距離攻撃が不要であったことだろう。


「んんんんんんんん!」


銃口を突きつけられようと、引き金が今にも引かれそうでも、幹也はそれを認識しながらも、全く気にせず更に一歩を踏み出す。


『死ねえ猿がああ!』


プシュ


地球における火薬の炸裂音ではなく、光学的な銃による銃身の冷却音が船内に漏れた。


「「いやあああああ!」」


アリスとマナが絶望の悲鳴を上げ……


『全大アルカナ開放おおおおおおお!』


先程まで発していた黒き光は完全に霧散し、眩く白い光が発せられた。


そして幹也の体から全部で22枚のカードが押さえつけている兵士たちを吹き飛ばして、ぐるぐると彼の体を取り囲みながら回転し、そのうちの一つが凶弾を防ぐ。


『カウンター発動! 地球外生命体! 侵略! 敵性宇宙人による宇宙艦隊! 条件をか、か、かかかか確にににににに


敵性宇宙人による人類滅亡の危機を認定!!』


最後のピースが、カチリと嵌った


『人類滅亡の危機!』

『最終条件確認!』

『最終条件を確認しました!』

『生存戦争シナリオを確認!』

『セーフティー解除!』

『全機能最大稼働中!』

『オオオオオオオオオバアアアアアアロロロロロオオオオオド!』

『最終安全装置が解除されました!』


『メモリー起動! ががががががががが該当ううううううううううううううう 一件のおおおおおおおおおがいいいとうううううううううううふぁkhがいyvぎぃあうrhんjこあd!!! ディーラーによる音声認証をお願いします!』


「たいちょおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


『わわわわわワワワワイルド認証にににに認証! マスターメモリイイイイイイイイ起動!』


『マスターメモリ―起動!』

『マスターメモリー起動!』

『マスタアアアアアアアあああああaaaaa』

『起動』

『起動!』




22枚の輝くカードは更に、更に早く幹也の体の周りを飛び回りながら、無限のエネルギーを生み出していく。




『No.1 魔術師マジシャン、認証!始まりを告げよう!』


『No.2 女司祭長プリエステス、認証! 未来に光あれ!』


『No.3 女帝エンプレス、認証! 少しお待ちなさいね、アリス、マナ』


『No.4 皇帝エンペラー、認証! 男を見せたな!』


『No.5 司祭長ハイエロファント、認証! 勇気あれ!』 


『No.6 恋人ラバーズ、認証! いいとこ見せたわね!』


『No.7 戦車チャリオット、認証! 勝利を! 勝利を! 勝利を!』


『No.8 ストレングス、認証! やっちまえ! ぶっ飛ばせ! 張り倒せ! 蹴飛ばせ!』


『No.9 隠者ハーミット、認証!』


『No.10 運命の輪フォーチューン、認証! 我らが無限の力を見よ!』


『No.11 正義ジャスティス、認証! 世に齎せ!』


『No.12 吊るし人ハングドマン、認証! 自暴自棄と自己犠牲は違う』


『No.13 死神Death、認証! ヒヒヒヒ!イーッヒッヒッヒ!』


『No.14 節制テンペランス、認証! 名誉も宝石も金も不要!』


『No.15 悪魔デビル、認証! お前達は誤った』


『No.16 タワー、認証! 我こそ汝らへの災厄也!』


『No.17 スター、認証! いずれ全て星に還る。もちろん我々も。しかしそれは今日ではない』


『No.18 ムーン、認証! 一寸先は闇、お前たちの事だ』


『NO.19 太陽サン、認証! 俺たちが成功するか占うかい?』


『No.20 審判ジャッジメント、認証!』


『No.0 愚者フール、認証!』


『No.21 世界ワールド、認証! さてやるか』





『大アルカナの全認証を確認!』


『エネルギー臨界点突破!』


『ガ、ガガガガガガガ』




『ディーラーによる最終認証をお願いします!』




行きましょう召喚!」




……フォーチュンテラーが運命を破壊するために叫んだ




『最終認証を確認しました召喚を実行します』





『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『

シシシシシシシンギュラリティレアリティ!




マァァァァァァスタアアアアメモリイイイイイイィィイイイイイイマスタアアアアアァァカアアアド!




ワイルド!ワイルド!ワイルドワイルドワイルドワイルドカード!




テキスト!




運命を殴りつけ、滅びを蹴飛ばし、敗北に勝利した! 明日の! 未来の! 子の! いずれ生まれてくる命の為に!






人類連合軍主力艦隊並びに






「そうとも、さあ行くぞ幹也。罪なき人々を、人類を守るのだ」



"人類の守護者"特務大尉を召喚します!!!!!!!!

』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』





ー災害とは不条理に、理解できる意味もなく、理由もなく、説明もなく、背景もなく、突如と現れ破壊を残して去っていく。


が。


それはこちらに限った話ではないー




あとがき


先に言っておくと、相変わらず、と……の事を詳しく描写することはしないので、次回は地の文がないいつもの謎の音声ログとなります。

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