アンノウン

「そ、そ、そのU.F.Oどんなのか分かる?」


「ちょっと待ってくださいね」


「汗凄いけど大丈夫?」


「だ、大丈夫さ。あははは」


 脳の電気信号がバチバチと音を立てている幹也は、アリスの言う通り脂汗を垂らしていた。


「えーっと、はいこれです」


「あ、あ、ありがとね。えーっとどうやって使うんだ?」


「あ、これで再生です」


「ははあ、あたら、じゃなかった。古すぎるのしか使たことないからなあ」


 マナが鞄から取り出したタブレット端末を受け取った幹也だが、彼が今まで使ったことがあるのは空間ディスプレイなんていう超ハイテクノロジーなものだけで、かえって使い方が分からなかった。


「え、えーっとどれどれ?」


『ご覧ください! U.F.Oです! U.F.Oが飛んでいます!』


 幹也がタブレットを覗き込むと、そこにはテレビのニュースなのか、企業のロゴと一緒に浮遊する飛行物体、まさにU.F.Oと言うしかない様な飛行物体が写り込んでいた。


「っ」


 そんな幹也を見たアリスとマナは胸が高鳴った。


 彼が普段見せない男の顔をしていたからだ。


(隊長を"人類の守護者"として呼べるか?)


『否定。まだ人類の存亡の危機とは言えません』


 それを見た幹也の汗はびたりと止まり、目を細めて動画を見ながら端的にマスターカードに尋ねた。マスターカードも普段の軽口を止めて端的に報告する。


(はじめさんに資料映像見せてもらったけど、開戦前に似たことがあった筈)


『肯定。開戦前に"宙を蝕む者達"が人類を発見するために使用した、目立つ無人偵察機で生物の関心を引き、一定以上の知的生物の反応を確認する生物探知戦術に非常に酷似しています』


(このタイプの問題点は、相手のリアクションがどうだろうと関係ない思考でしか生まれない事だ)


『肯定。それなら知的生命体を探しているにも関わらず、その存在に対する刺激を考慮していない矛盾も生じません』


(宇宙人は存在しない。いても我々より劣っていなければならない。か)


『向こうで戦時中に生まれた戒めの言葉ですね。"宙を蝕む者達"は事実そうでしたが、開戦前の人類も同じ考えを持っていたのは皮肉極まりないでしょう。これの持ち主もそうだと?』


(自分達が頂点だと思うのは生物の癖だ。案外、単に友好種族を探す為に作られたのかもな)


『上の立場から?』


(じゃないと宇宙の探索なんてしないよ。上位者に見つかる可能性を考慮していないんだ。探すってことは探されるってことなのにな)


『"田舎者"が笑い転げそうですね』


(それは間違いない。ま、何かの試作兵器の暴走ってこともありうるしな)


「おじさん?」


「やっぱりこれ宇宙人?」


「い、いやあどうだろうね!」


 俯いて思考の渦に飲まれていた幹也は、マナとアリスの声に慌てて顔を上げて誤魔化す。ただ、彼女たちの顔が普段より若干赤かったのは気が付かなかった。


「流石に宇宙人がいるかどうかは占っても分からないなあ」


「ま、それもそうよね」


「じゃ、じゃあ代わりに私達が将来結婚する人を占って下さい!」


「はっはっは、またそれか。お年頃だねえ」


 宇宙人がいるかは占いの領分じゃないと断る幹也に、アリスは肩をすくめるが、何を思ったのかもう何度か占っているにも関わらず、代わりに将来の結婚相手を占ってほしいとお願いするマナ。


「ほら引いてちょうだいな」


「えい!」


「ごっそり取ったああ!?」


 意外! 普通は上から取るカードを、マナは纏めて束で引いたのだ!


「前から思ってたけど肝が太いな。えーっと、司祭長、思いやりと愛情の深まり、結婚。力、勇気、忍耐。はいつも通りか。絶対出るなこいつら。つまり嬢ちゃん達のためなら火の中水の中に飛び込むね」


「それと?」


「です!」


 引いたのはマナであったが、アリスもそれとなく急かしている。


「引くの多すぎなんだって。隠者、ってなんじゃこれ。意味が文字通り隠れてる奴になってら。それと塔!? こいつは波乱万丈な奴だな。しかも並大抵な波乱万丈じゃない。死にかけたのは一度や二度どころか数えきれないな、うーんこりゃ凄い。でもダメだぞ嬢ちゃん。巻き込まれるからもっと安定した奴を見つけるんだな」


 幹也は驚いた。塔のカードから伝わるエネルギーがとんでもなく、持ってるだけでビリビリと伝わってくる。死にかけた回数は100回ならいい方で、むしろ死んでない方がおかしい位の災難に見舞われるだろう。


「いいから全部説明してよ」


「そうです!」


「へいへい。じゃあ最後は審判、なんだ精神力だけはやたらと強いな。というか強すぎ。なんじゃこりゃ、こんだけ精神的にタフなの隊長並みじゃん。でもあの人はあの人で、マニュアル車が何処にも無いことにへこんでたな。結論、概ねいいけど騒動に巻き込まれちゃうから、そういうのとは無縁そうなの人を見つけましょう」


 次いで引いたカードも負けず劣らずのエネルギーを秘めていた。


 名は審判。


 不滅の精神力。


 折れず曲がらず朽ちず枯れず。


「あっそ。まあそれはお互い様だからいいのよ」


「はい! ありがとうございました!」


「それじゃあね」


「また明日来ます!」


「おーう。気をつけて帰れよー」


 何故か足取り軽く去っていくアリスとマナ。




























 だが幹也は彼女達に手を振るとすぐに俯いて、マスターカードの角の端を地面に立て、これまた上の端を指で固定すると、親指で弾いて回転させる。


 ずっと。くるくると。


 くるくると。


 アンノウンがアンノウンに対して考えを巡らす。


 狂狂と。

 来る来ると。

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