ホットスポット

『日本に悪魔現る』


 ある意味最初の事件であったアリスとマナの誘拐騒動、そこに現れた悪魔と勇者の出現は、インターネット、テレビ、SNS、ありとあらゆる情報媒体に乗り世界へと配信された。


 それに歓喜したのは、狂喜乱舞したのは……


「やっぱり魔法も勇者も悪魔も存在してたんだ!」


 裏の事を全く知らない世界中のオカルトマニアたちであった。


「日本に行くんだ!」

「すいません有休ください」

「ふひ、ふひひ」

「人類は滅亡する!」


 彼らにとっては青天の霹靂、一部の同士以外理解されなかった趣味が、突如現実のものとして現れたものだからさあ大変。家に鎮座しているありとあらゆるオカルトグッズを引っ提げて、彼らは日本へと殺到した。


 そしてホットスポットは当然二か所ある。いや、彼らにとって聖地か。


 一つは最新の神話、八岐大蛇が降臨した富士山。だがこちらはつい最近事が起こったこともあり、完全に封鎖されていたため、オカルトマニアたちはこっそり忍び込むか、泣く泣く写真を撮ったり祈ったりで済ましていた。


「はあああああ!」

「ほあああああ!」

「ぬおおおおお!」

「ほあちゃああ!」


 まあ、一部は山の霊気を感じて何かしようと、上半身裸で奇声を上げていたりするが……。そのうち何か本当に出るかもしれない気迫である。


「こ、これは!?」

「間違いない! あの蛇のだ!」


 ついでに言うと、富士山付近で見つかった蛇の抜け殻は、マニア垂涎の一品として家宝となったりしたようだ。


 そしてもう一か所のホットスポットは当然、どこぞの文無しがいつも座っている商店街の近く、つまり悪魔の出現地であった。


 その文無しは人生経験が濃すぎる上に、日本人は自分だけという環境に慣れっこだったため気にしていなかったが、商店街周辺は急に外国人が増えていた。怪しい。すっごく怪しい。


「魔法魔法」

「水晶には何も映らないな」

「エーテル計測器に反応なし」

「ほああああああああ!」


 なにせ魔法使いの様な帽子を被っているだけならいい方で、中には水晶やなんだかよく分からない計測器を覗き込んでぶつぶつ言っている者や、ここにも半裸で奇声を上げている者までいる始末なのだ。


 はっきり言ってこの周辺だけ、怪しげな中世ファンタジー世界となっていた。


 そのため商店街の人々も彼らに怯えていたのだが、ある時誰かが気づいてしまった。


「あれ? ひょっとしてこいつらカモじゃね?」


 と。


 そこからは早かった。商店街には、勇者饅頭、勇者剣、陰陽術の本、妖怪集、伝奇、悪魔人形、など様々なグッズが所狭しと売られるようになったのだ。


 そして大当たりした。


「これが日本の魔法……!」

「あ、おいしい」

「うーむ。やはりあの悪魔は東洋にいるタイプではないのだな」

「すいませんカレーのお代わりください」


 現在商店街は、空前のオカルトバブルに沸いているのであった。


 ◆


 そんな、ひょっとしたら世界の裏の秘密に近づきかねないオカルトマニアを苦々しく思っていたのは、当然その裏の住人達。だけではなかった。


「あの野郎ども! 何が宇宙人はいなかったけど魔法はあったね、だ!」

「くそったれがあああああ! 宇宙人だっているに決まってるだろうが!」

「畜生! 態々ホームページに写真を送って来やがった!」

「エリア51を開放しないからオカルトなんぞに後れを取るんだ!」

「やろおおおおぶっころっしゃあああああああ!」


 そう、彼ら宇宙人マニアと言えるような連中が、それはもう憤慨していたのだ。


 なにせ今までは魔法を見たという報告よりも、U.F.Oを見たという報告の方が圧倒的に多かったのだ。そのため彼らも、ちょっとだけ、そう、ちょっとだけ他のマニア達に、宇宙人がいる証拠はたんまりあるぞ。ほれほれ。とマウントを取っていただけなのだが、今や立場は完全に逆転していた。


 しかも、彼らは親切に宇宙人の存在を教えてあげただけなのに、オカルトマニアときたら、宇宙人マニアのSNSやホームページに悪魔や蛇の写真を送り付けて、ここが現地でーす、あれ、君達フィールドワークしないの?と煽って来る始末なのだ。


 そりゃ当然怒るだろう。


 しかし、神様は彼らを見捨てていなかった。


『カリフォルニア上空でU.F.Oが目撃されました!』


 朝一番で宇宙人マニアたちを叩き起こしたのはそのニュースであった。彼らがテレビに噛り付くと、そこには大体野球場ほどの大きさの光り輝く円盤が浮かんでいるではないか。しかも、驚くほど鮮明にである。しかもしかも、その円盤は消えるどころか今も戦闘機を振り切りながらアメリカ各地を転々と移動しており、宇宙人マニアたちを絶頂させていた。


 さあこれでオカルトマニア達に反撃だ!


 とは残念ながらならなかった。


「今日は世界中で祝日となるな」

「その通り」

「じゃあ俺はシェルターに籠るんで」

「は?」

「握手しに来たに決まってるだろ」

「は?」

「人類を滅ぼしに来たに決まってるだろ」

「は?」

「は?」

「は?」


 彼らマニア内で禁断の、地球に来る宇宙人はいい宇宙人、悪い宇宙人論が再熱し、内紛が起こってしまったのだ。もうこうなるとしばらく収まらない。


 ああ人間とは悲しきかな。


 という訳で、幹也が知らないだけであったが、世界中でまたしても大騒ぎが起こっていたのであった。

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