U.F.O
「アリスさん御機嫌よう」
「あら御機嫌よう」
「御機嫌よう西園寺さん」
「御機嫌よう」
良家の子息子女のみが通う学園の中で、アリスがお淑やかに挨拶を交わしていた。もしどこぞの文無しが見れば、誰だ? と真剣に疑う光景なのだが、どちらかというと普段の彼女は
尤も、とるに足りない者が相手だと地が出てしまうが。
もしくは、身内に対して。
「西園寺さん、今日も綺麗だなあ」
「こないだ生徒会長に告白されたみたいだぜ。断ったみたいだけど」
「ええ……あのイケメンで無理ならこの学園全員無理じゃん」
「許婚がいるんじゃないのか? それこそ顔もよくて金もある様なエリートの」
「はあ……」
そんなアリスだが、異国の血が混じった白い肌に青い目、長い金の髪をなびかせて歩く姿に憧れ、彼女と交際したいと願う男子生徒は数多いし、実家の意向でお近づきになりたいと思っている者もいる。だが淑女らしくそのガードが固く、成功した者はいなかった。
「お待たせアリスちゃん」
「私も今来たばかりよ。それじゃあ行きましょうか」
「扇さんも来た」
「扇さんの方はサッカー部の部長に告白されたとか。そっちも断ったみたいだけど」
「あーあ、扇さんにも許婚とかいるのかなあ」
アリスが男子生徒達から人気なら、マナもそうであった。アリスと似ている彼女だが、雰囲気はより柔らかく、一部ではアリスよりも交際したいと願う者は多かった。
「これからその許婚のとこに行ったりして」
「やめろよ……」
「もっと俺の顔が良くて金持ってたらなあ」
「西園寺さんと扇さんの家は、この学園でも断トツの企業だからなあ」
校門に止まったリムジンに乗り込む二人を見送りながら、顔と金の両方を完璧に揃えていたらと男子生徒達はため息をつく。
まあ実際のところ、彼女達が行く先は…………
◆
◆
◆
「うーん。もう少し……もう少しで取れる」
『自販機の下に落ちた10円にそこまで必死になるなんて、お母さんお金は大事にしなさいとは言ましたけど、社会的外聞を考えると完全に赤字ですよ』
「うっせえ! 1円を笑うものは1円に泣くんだよ! ましてやその10倍を諦める訳ないだろ!」
斎藤幹也。この男、鬼気迫る表情で自販機の下に落ちた10円を回収しようとしていた!!!!
『これが"田舎者"なら、ぷぷぷ、貧乏人。やっぱり人間って面白。と笑い転げているところでしょう』
「ありありと想像できるのが腹立つな! んぐぐぐぐもう少しいいい。だけどあいつが態々人間って強調して言う時は心底褒めてるか、嘲ってるかだから最後のは言わんな!」
『流石は親友ですね』
「誰があああああ」
「何やってんの?」
「おじさんこんにちは!」
幹也がマスターカードに、実際仲はかなりいいのだがそれを認めるのは癪な相手について話していると、彼を呼ぶ声が聞こえてきた。
「この声は嬢ちゃん達か。ちょっと待ってくれ、もう少しで、取れた!」
「……10円?」
「いやあ、危うく大金を失うとこだった」
その声に覚えのある幹也だったが、残念ながら今は手が離せないと自販機の下に手を伸ばすことを優先しており、ようやく取れると決め顔で10円を掲げていた。なお顔には小石やアスファルトの跡がくっきりと残っている。痘痕も靨と言うが、この場合は何というのか……。
「……やっぱ養ってあげよっか」
「です!」
「まーたませたこと言ってるよ。10年は早いね。そんで10円は投入っと」
そのあんまりな幹也の姿に、少女達はいつもの言葉を投げかけるが、彼はそれこそいつもの揶揄いだと取り合わずに小銭を自販機に入れてお茶を買おうとする。だが、もし彼女達の顔を見れば、いつもよりずっとマジな顔をしていたことに気が付いただろう。
「というか学校はどうした学校は。いかんぞ、俺が世話になった兄貴分は最終学歴中卒をかなり気にしてたからな」
『星を木っ端微塵に出来る世界最強のウィークポイントが学歴だなんて。およよよ』
「今度兄貴に会ったら言ってやる」
『止めてください死んでしまいます』
幹也は自分の恩人が家庭を持って子供が生まれてから、よく学がないことを嘆いていた事を思い出してサボりはいかんぞと少女達に注意する。
「そんな訳ないでしょうが」
「流石に叱られちゃいます」
「そりゃそうか。よっこいせ」
実際のところ、普段よりたまたま授業が早く終わったため会いに来た少女達と話しながら、定位置となりつつある場所の一つに腰を下ろす幹也。外見は若いのだが動作の一つ一つがおっさん臭い。
「それでどうしたんだ?」
「ちょっと占ってほしいんです」
「はい喜んで!」
「この変わり身の早さ……」
「お客様は神様です! あ、普通のお客様ね! ここ大事!」
学校の鞄から可愛らしい財布を取り出すマナに、腰を曲げながら手を恭しく伸ばす幹也。そんな彼を呆れたようにアリスが見ていた。
「それで何を占いましょう!」
「……私たちの寿命」
「……です」
「いいかアリス、マナ。人類史上宇宙最高のスーパーコンピュータが出した結論は覆せる。運命は蹴飛ばせる。因果はぶち壊せる。決定は覆せる。敗北した盤面をひっくり返して相手の顔面に叩きつけた後、マウントを取ってボコボコに出来る。俺がそうする。俺がさせない。オーケー?」
「ふんっあっそ」
「はい!」
ここ最近の出来事で不安になっていたのだろう。彼女達が占ってほしい内容は、自分達がいつまで生きられるかというものだった。だが占いで生計を立てている幹也に言わせたら、そんな事はちゃんちゃらおかしかった。実際に運命は覆せると知っていたから。ではない。
そんな事させない。
占いを頼んだのに返って来たのは単なる言葉だったがそれに満足したのかしてないのか、幹也の目を見たアリスは顔を背け、マナは満面の笑顔で頷いていた。
「じゃあ宇宙人っているか占って」
「いるんだよなあ……」
「おじさん大丈夫ですか!?」
「ちょっどうしたのよ!?」
アリスが照れ隠しなのか、全く関係がない占いを頼んだ途端、先ほどまで揺るぎ無い様に思えた幹也の首は力なく垂れ下がり、目から光は完全に消えていた。
「うう……隊長、人間は睡眠ってのが必要なんです……365日は無理なんですぅ」
しかも何やらぶつぶつ言い始めた。これは危険だ間違いない。
「はっ!? ちょっと意識が……。いやしかし、急に宇宙人だなんて。ひょっとしてエリア51とか恐怖の大王信じてるのか? ぷぷぷ」
『信じてるも何も実物知ってるじゃないですか』
「エリア51は分かるけど、恐怖の大王?」
「なんですかそれ?」
「うっそだろ。ノストラダムスの予言知らない?」
「?」
「こ、これがジェ、ジェネレーションギャップ!?」
『単にディーラーが歳とって話題が噛み合ってないだけです』
まあ可愛らしいことと口に手を当ててぷぷぷと笑っていた幹也であったが、キョトンとしているアリスとマナを見て、思わぬところで歳を取ってしまったと実感しダメージを受けていた。
「よく分かんないけど、今朝のニュース見てないの?」
「いや、昨日はネットカフェに泊まってないし、まだ電気屋行ってテレビも見てなくて朝刊も拾ってない」
「私達と暮らしましょう!」
「あっはっはおませさんめ」
何気にトンデモ発言をする幹也に、それならとマナが食いついてくるが彼は笑って取り合っていない。
「アメリカでUFO騒ぎが凄いみたいなのよ」
「動画も目撃者もたくさんです」
(隊長助けて……)
『呼びましょうか?』
(そうだな呼ぼう……)
アリスとマナの言葉に幹也の意識は遠くなっていった。いったい何があったというのか……。
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