■■の■の■であれ そして■■を■■■であれ

(さてどうするか)


 重要な情報を教えてくれたマナ、アリスと別れた幹也は、今後の予定を立てていた。


(あの辺りで呼べそうな人いる?)


 何故か自分が騒動に巻き込まれる前提で、緊急時の助っ人まで確認していたが。


『まあいない事も無いですが……』


(え、いるの? 富士山に所縁のある人いたぶっ!?)


『かなり無理ある縁召喚なので、大幅に弱体化してしまいます。出来ればもう二押し欲しいですね』


(大馬鹿野郎! 弱体化もくそもねえよ! その二押しで日本が沈むわ!)


 だが相変わらずマスターカードが提示したのは、幹也にとってぶっ飛んだ存在のようで、即座に拒否していた。


『では一押ししましょう』


(まあそれならいいか)


 だがこの男、もう二押しで日本が沈むと言っておきながら、自分の安全の為に一押しするのは躊躇いがない。だが許してあげて欲しい。それだけこの男が色々と経験してきたという事なのだ。



 つまり、準備は怠らないと言う事である。



 ◆



 ◆


 銃撃

 銃撃

 爆発

 銃撃


 アメリカの高級別荘地。その中でもひと際大きな建物。


 そこは戦場と化していた。


 住宅街で何をと言われてしまうだろうが、総勢100名は超えているであろう襲撃者と、彼等を撃退しようとする者達が銃を撃ち合っているのだ。これはもう戦場としか表現しようがなかった。だが多勢に無勢、守っている側からの銃声は次第に小さくなっていった。


 それに頷く襲撃者達。彼等は一体何者だろうか。ここはアメリカ暗黒街の帝王、"暴力"が滞在している別荘なのだ。そんな所を襲撃するとは、アメリカの特殊部隊か、はたまた敵対組織か。いずれにせよ彼等の目的は一つ。即ち"暴力"の殺害である。


 そして彼等が別荘突入しようとした時である。


「誰だこんな役立たず共を雇ったのは」


 彼等は驚愕した。なにせのこのこと殺害ターゲットの"暴力"その人が、弾痕だらけのドアを開けて玄関から現れたのだ。


 だが驚愕は一瞬。すぐさま銃の引き金を引き、必殺の銃弾の嵐を巻き起こす。


 しかし


「だから俺は出るのが嫌なんだ。見ろ、服が台無しだ」


 その嵐の中、"暴力"は平然としていた。全く、全くの無傷で。


「全く効いていないぞ!」


「バズーカを使え!」


 しまいには対戦車ロケットまで持ち出した襲撃者達。


 ドッ


 発射された弾頭が爆炎を発生させて"暴力"に直撃した。


「やった!」

「いくら奴でもこれなら!」


 だが


「クソ! こうなるから警備を雇ってたんだぞ!」


「そんな!?」


 爆炎の中から、現れた"暴力"。被害は……ただ服が燃えているだけだった。


「死ね!」


 憤怒の表情を浮かべて走り出す"暴力"。速度はそれほどでもない。だがである。


「ダメだ! 殺せない!?」


 何をしても止める事が出来なかった。銃弾の嵐も、ロケットも、偶々巻き込めれた手榴弾の爆発でも。なにをしても。


「ぎっ!?」

「ぐぺっ」


 そしてついに襲撃者達の元まで辿り着いた"暴力"が行ったのは、ただ殴るだけ。それだけ。ただし、殴られた襲撃者達の上半身は無かった。あるいは下半身も。


「切り札を使え!」


 その惨状に耐え兼ね、彼等の切り札が発動されようとしていた。


 取り出されたのは一つの聖書。


「"神に似たるもの"!、"天使長"!、"サタンを突き落とせしもの"!」


 読み上げられるその名の持ち主こそ


「"ミカエル"よ!」


 聖書から溢れ出た光。舞い散る羽。


 剣と天秤を手に現れたるは偉大なる熾天使ミカエル。その強さたるや、先日日本で現れた上級悪魔を一瞬の内に消滅させられるほどである。


 そのミカエルが"暴力"に切り掛かる。


「中身のないカスがあ!」


 だが"暴力"は、そんなミカエルを本物とは遠く及ばない、中身がスカスカな木偶の坊だと断じて拳を振るう。


 ガギン!


「そんな馬鹿な!?」


 ミカエルの剣が単なる拳に折られるという予想外の光景に、襲撃者達は驚愕するがまだ終わっていない。振りかぶった体勢から戻った"暴力"は、その勢いのままミカエルの顔に拳をぶち当てた。


「あ、あ、あ」


 たった一発。たった一発の拳がミカエルにめり込んだ。ただそれだけで、最上位の天使の体が粉砕されてしまった。


 もう襲撃者達は無様な声を上げるだけだ。


「皆殺しだ!」


 彼等の余命は幾ばくも無かった。


 ◆


「ボ、ボスぎゅ」


「ムシケラが喋るな」


 奇跡的に息があった警備員の頭部を踏み砕きながら、別荘に戻った"暴力"は携帯を取り出してどこかへ電話を掛ける。


「首尾は?」


『はい。圧力をかけて引きずり出しました。"石"も既に入手済みです』


「よし。ならとっとと行くぞ」


『分かりました。すぐにヘリを向かわせます』


 何事かを確認していた"暴力"。彼が向かう先は


 ◆


 ◆


 ◆


「あっつ……」


 静岡県某所。その公園でぐったりしている男こそ、斎藤幹也であった。


 彼はもうへとへとであった。なにせ静岡中を歩き回っていたのだ。足は棒のようでもう当分動けそうにない。


「もう条件いいか?」


『はい。十分呼べるでしょう』


「ああそう……ちょっと待て。十分呼べる?」


『はい。フルパワー、正真正銘の制限なしでは無いですが、その前段階は余裕です。あなたの頑張り過ぎですね。まあその前段階でも十二分では無いですが』


「馬鹿野郎! 十分でもマズいだろうが! せめて八分くらいだろ!」


『それでも大分なのは気にしていないディーラーでしたとさ』


「……保険さ保険。何かあったら遅いんだ」


 何かあったら呼ぼうと思っている存在が、途方もない規模の災害そのものなのは無視して、一応マスターカードに弁解している幹也。はっきり言ってその存在は、極一分でも現れただけで過剰と言う他ない。


『……あーっと緊急かもです』


「聞きたくない」


 そんな時、マスターカードが何か言い淀んでいるのを、いつもの不運が舞い込んできたと判断した幹也は耳を塞ぐ。


『かなり遠くからですから断定できませんが、DEATHのカードが多分こっちに来てます』


「は?」


 ◆


 ◆


「このホテル?」


『はい。DEATHのカードはこのホテルにいるようです』


「つまり一緒にいるはずの嬢ちゃん達が拉致された?」


『いえ、DEATHからの反応はその類では無いようですが……』


「なんではっきりしないんだ?」


『あのカードは特別な一枚でして、殆どコントロールできていません』


「ええ……マスターカードといいどうなってんだ……」


 DEATHのカードは現在、アリスとマナの二人にくっ付いている。つまり、その反応があるという事は裏サミットが終わるまで家に籠っている筈の二人が、何か良くない理由があってここに来ているのではないかと不安になる幹也。


「とにかく入るか」


『門前払いされないといいですね』


「うっせえ」


 そんな不安を感じながら、ホテルの入口でマスターカードといつもの変わらぬ漫才を繰り広げていたが。


「どけ猿」


「ぐえっ!?」


 幹也は突如発生した背中からの衝撃に吹き飛んでしまう。


(この感覚は蹴られた!)


『嫌な経験則から導き出した答えでお母さん悲しいです』


 幹也は今までの経験から自分が蹴飛ばされたことを察知したが、マスターカードの言う通り本当に嫌な経験則である。


(相手は……外国人?)


 幹也に全く見向きもせずに入口へ入って行った一団は、全て髪の色が様々で、少しだけ見えた肌も日本人の物とは思えなかった。


『裏サミットとやらの参加者かもしれませんね。こわやこわや』


(やっぱそれ関係だよな……)


『ひょっとしたらあの少女達にご執心の"力こぶ"だったりして』


("暴力"な)


『しかし、圧力をかけるか何かをして少女達をホテルに呼び出すだなんて、ついにディーラーを超える猛者が現れましただだだだだだ』


(くらえ角折り! さて、中に入るか……)


 マスターカードの推測は正しかった。


 ◆


 ◆


「いいわね。絶対に、絶対に私の傍から離れちゃだめよ」


「うん」


「はい」


 ホテルの一室では、アリスとマナが、アリスの母から念を押されていた。


 それというのも、アメリカ暗黒界の帝王"暴力"が、西園寺と扇の一人娘を見たいと周りに圧力を掛けた事が原因であった。


 世界に名だたる西園寺と扇のグループにすら圧力をかけ、こうしてアリスとマナの二人を連れてこなければいけない程、"暴力"の名は大きい。なにせ相手は名だたるどころではない。裏世界の頂点なのだ。


「それじゃあ行きましょう」


 裏サミット初日と言う事で、まずは会議でなくパーティーという事になっており、その会場へ行こうとする三人。残念ながらマナの両親とアリスの父は海外にいたため、このサミットには間に合わなかった。


 どうやら自分達とパーティーは、余程組み合わせが悪いらしい。アリスとマナが目でそう会話していた。


 しかし


 そもそもパーティーすら待つつもりがない野蛮人達がこの世には存在していた。


 ガチャリ


「な!? うっ……」


「ママ!?」


「叔母さん!?」


 突然開かれた部屋の扉に、アリスの母が驚愕したその一瞬。彼女は何かの薬品を香らされて昏睡してしまう。


「なによあんた達!?」


「ひう」


 気の強いアリスが誰何の声を上げるが、入ってくる者は一人どころでは無い。


「そいつらが?」


「はいボス」


「ならとっとと行くぞ」


「はい」


 その中の中央、最も目立っている者こそアメリカ暗黒街の帝王"暴力"であった。


「離して!」


「いや!」


 アリスとマナを"暴力"の部下が捕まえたその時、


『危険を感知! "大貧民"を!?』


「なんだこの紙きれ?」


「そんな!?」


「おじさんのカードが!」


 突如彼等の前に現れたカードのようなものが喋り始めたが、"暴力"が目にも止まらぬ速さで破り捨てる。


「ふん、何かの能力か? こんな紙切れに何ができる。それよりも行くぞ」


「はい」


 破り捨てたカードを特に気にすることなく、部下に命じた"暴力"とその一行、そしてアリスとマナは、部屋から忽然と消えてしまった。


 カードも……



 ◆


 一方幹也は……


 見つかって囚われていた。


「どこの者だ。吐け」


「い、いやあ、単なる迷子でして。はは、ははは」


「どこの者だ?」


「ぐっ。だ、だから迷子なんですって」


「どこの者だ?」


「ぐっ」


 厳重に警備されているホテルで、コソコソ嗅ぎまわっていたならある意味当然だ。


 何とか迷子として誤魔化そうとしたが、そんな戯言を尋問者達が信じるはずが無い。話すたびに、幹也の顔に蹴りが飛んでくる。


(どうしよう……)


『さあ。先に言っておくと、この条件で呼べる存在はいませんよ』


(だよなあ)


 しかしそんな痛みなど何のその。それはもう色々タフな幹也は、暢気にマスターカードと会話する余裕すらあった。


「吐け」


「ぐっ」


『緊急。DEATHの反応消失。破壊されたものと思われます』


「なにっ!?」


「吐け」


「ぐっ」


(何があった!?)


『不明です。ですが感知していた、アリスとマナの両名の反応も消滅。どこかへ転移したものと思われます』


 マスターカードの発した緊急の報告に、思わず声を出して蹴られた幹也だが、そんな事に構っている暇はない。


(何が起こったのかも場所も分からないんだな!?)


『肯定』


(この場で呼べる人もいない?)


『肯定。条件が足りません』


 明らかに緊急の事態であった。そのため幹也は覚悟を決める。


(……………兄貴を呼ぶ)


『条件が最も緩い"馬鹿おやぢ"でも条件を満たしていません』


(条件のない"怒れる力"でだ)


『警告!』『否定!』『撤回!』『完全にコントロール不能!』『警告!』『被害想定不可能!』『日本列島沈没の可能性が極めて大!』『地球規模での深刻な被害が発生する可能性大!』『ワーニング!』『ユーラシア大陸での人類生存圏が縮小する恐れがあります!』『マジで止めとけ!』『本当に洒落にならんぞ!』


『一応言っておきますけど、"力"が普段やっているのはギャグですよ? そしてギャグじゃなく日本沈没の可能性が大きいです。それも最低でも』


 怒涛の様に幹也の頭の中に浮かぶ警告文。そして事実、その通りになる可能性が非常に高かった。彼が呼ぼうとしている存在はそれほどのモノなのだ。

 しかしである。このカード達は知ってはいても経験はしていなかった。ほんの少しの躊躇い。ほんの少しの躊躇。それで失われていく命があるという事を。


 そして幹也はそれを経験していた。だからこそ


「一分一秒争うんだよ! やれ召喚!!!!!!」


 尋問者達は気が付くのが遅かった。今嬲られている存在が、覚悟を決めた戦士になった事に。顔をまた蹴った今でも。


 呻き声も漏らさなかったのに。


『ワイルド認証! 『WARNING!』封印解除!『危険危険危険DANGER!』マスターカード! 『過剰負荷が掛かっています!OVERLOAD!』テキスト! 滅死滅殺滅界滅全! 『特異点を検出! 一般空間から隔絶される可能性があります!』 "怒れる力"ユー』


 全く制御出来ない死そのものが……………ただの拳を、たった一回叩きつけるだけで世界を……………


 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死


 死が


「強制終了!」 


『召喚を強制終了します!』『終了!』『終了!』『終了!』『再封印実行!』


 ギリギリ。殆ど姿を現しかけた死。それを幹也は強制的に召喚を中止する事によって再封印する。


 それで何か変わるのか。


 当然である。


「っ!」


 現れかけた黒い人型の靄、赤い瞳、死そのものを直視してしまった憐れな尋問者達は、一瞬完全に呆けてしまっていた。そんな彼等に幹也は殴り掛かる。普段なら一発殴られたとしても、そのまま囲んで幹也を制圧していたであろうが、誰もそんな事をする余裕がない。なにせ中にはそのまま気絶している者もいる程だ。ほどなくして全員殴り倒された。


「嬢ちゃん達の行方は!?」


『かなり掛かるかも、あ』


「あ?」


 ◆


 霊峰富士。


 その中腹付近に、"暴力"とその部下達。そしてアリスとマナの姿が突然現れた。もし彼等が特殊な力を持っていなかったら、急な気圧の差で失神していただろうが、彼ら全員が特殊な力、あるいは加護を持っていたため、そのような者は出なかった。


「止めてよ!」


「止めて!」


「うるさい餓鬼どもだ。殺して……万が一があったらまずいか。ちっ」


 部下が引きずるアリスとマナに苛ついた様子の"暴力"だったが、何かを懸念して思いとどまる。


「なら」


 だが"暴力"は嗜虐的な笑みを浮かべて少女達を見る


「お前らはこれから死ぬんだよ。それもマグマに焼かれてな」


「ここまさか富士山!? 火口が無いの知らないの!?」


「俺には長い事懸念があった。暗黒街の帝王と言われているが、来る日も来る日も襲撃だのなんだのだ。今はいい。今は」


「聞いてるの!?」


 最初は少女達へこれからどうなるかを親切に教えてやるつもりだったが、自分の念願が成就寸前だという事もあって、"暴力"は饒舌になる。


「だが年老いたらどうなる? この力が弱まったら? 当然俺の事を殺そうとしてる奴は大喜びでやって来るだろう。だがゴミ共に殺されるつもりはない。そこで俺は探した。探して、答えを見つけ出した!」


「ひっ」


 狂気を帯び始めた"暴力"に、アリスとマナが引き攣った悲鳴を上げる。


「エリクサー。こいつは現物が無かった。再現もまず不可能。一時は諦めたさ。だが! 確かに同じものがここに在った!」


 いよいよ"暴力"の興奮が頂点に達する。


「"石"は楽に手に入る! なにせ場所が分かっていたからな! だがもう片方が見つからなかった! だが見つかった! そのために下らないサミットなんて準備をして、お前達この山の近くまで連れてきた!」


 それと同時に


 満月もまた頂点に。態々裏サミットの日付を合わせた


 八月十五日の満月が。


「ここに竹取物語を再現する!」


 暴力が夜空に掲げた石こそ、かつてのアポロ計画の成果。正真正銘の"月の石"。そして夜空の満月が怪しく輝き、天から何か人の集団のようなものがおりてくる。そして、


 ドガン


 あってはならない事が起こった。富士山山頂が、ほんの少し。ほんの少しだけ爆発したのだ。外からではなく、山の内側から。


「まさか噴火!?」


「そんな!?」


 アリスとマナが恐怖に引き攣った叫びを上げる。それも当然。富士山噴火の被害が静岡だけに留まるはずが無い。関東平野が。首都圏が。首都が。いったいどれほどの被害を生むのか。


「おっと、お前達が心配する必要はない」


「いや!」


「止めて!」


「ふははは! 夢にまで見た不老不死! それがようやく手に入る!」


 アリスとマナを引きずりながら、僅かに出来た火口へ足を進める"暴力"達。


「あらすじはこうだ! 翁に渡されるはずだった、そして帝の命令でここに捨てられる筈だった薬は、代わり月の国、日本の外の血が混じった聖女、かぐや姫が火口に投げられることで、薬だけこの場に残る!」


 過去と物語を捻じ曲げながら、竹取物語を現世に再現した"暴力"。その目的こそ、かつて富士山火口に投げ捨てられた、不老不死の薬を手に入れる事だったのだ。そして物語はかぐや姫が現世を去る事でまた終わろうとしていた。


『ゲラゲラゲラゲラ!』


「なに?」


 しかしである。


 DEATHのカードはしつこい。


 いつの間にか、火口手前の地面に突き刺さっている死神の絵柄がゲラゲラと嘲笑う。


『"大貧民"を召喚!』


「このカードから聞こえてたぞ。情緒も順番もクソもねえな。斎藤幹也編集長が採点してやる。ゼロ点やり直し。あ、こんなのはどうだ? ちんけなチンピラ共は、うっかり蛇を踏んづけて死んじゃいました。とか」


「は?」


「「おじさん!」」


 暴力は訳が分からなかった。もう少し。もう少しで山頂の火口に辿り着いたのに、夢まであと少しだったのに、そこには取るに足りない、蹴飛ばした事も覚えていない男が急に現れたのだ。


「それとかぐや姫達が投げ込まれたんじゃなくて剣さ」


 態々あの場所まで行って、草刈りに使用した十得ツール、そのナイフが火口に投げ込まれた。


 ◆


 竹取物語にはある剣が見え隠れしていた。


 霊地富士山。そこで祀られている木花咲耶姫の夫神、瓊瓊杵尊が携えていた剣。

 日本武尊が富士山を遥拝した時に携えていた剣。


 そして、モデルとなった時の帝に祟りをもたらしていた剣。


『瓊瓊杵尊の剣! 日本武尊の剣! 祟りし剣! 条件を確認! メモリー起動! 該当あり!』



 銘を




 草薙の剣




「召喚!!!!!」



『ワイルド認証! 選定完了! ブラックレア! テキスト! 願われたるは世界の敵の敵! そして世界を救う者であれ!』 


 八つの峰を覆い、八つの谷を埋めしモノ、八岐大蛇。即ちその尾から取り出された剣こそ草薙剣。


 だがしかし。呼び出された存在はそれすら単なるベース。土台に過ぎなかった。


『"八首八頭八死"世界の敵を召喚します!』


『シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああaaaaaaaaaaaaaaaaaaあああああああああ■■■■■■■■■■■■■!』


 宝石の目が


 永遠が


 王が


 千の魔法が


 日ノ本最強が


 不死身が


 怒りて臥す者が


 神の敵が


 八つの。いや、数えきれない程の"世界の敵"を内包した世界の敵が、単なるちっぽけな力自慢とその信奉者達に牙をむいたのだ。

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