裏サミット2

『またこっちの世界に来たのか。お前さんも大変だねえ。前は何年前だったっけ? あれ、何十年?』


『俺の間隔じゃ一年位なんですよね』


『なんとまあ。今じゃ俺は……』


『と、歳の話は止めましょう!』


『だな! はっはっは。はあ……』


『な、なんかすいません……』


『いや……んで、やっぱり能力は使えないのか?』


『はい。元居た世界じゃカードに関する事なら何でも出来たんですけど』


『生まれついて持ってたんなら、何かしら意味があるさ。今は使えなくてもな』


『そうですよね』


『ま、何か目途が立つまで泊ってきな』


『何もお返し出来ないのに、本当にありがとうございます……』


『なあに気にするな。子供達も遊び相手が増えて喜ぶ。どうしてもって言うなら、余裕がある時にまた誰かを助けてやりな。そうやって巡ってくんだ』


『はい』


『おっと、パパはここでちゅよー。べろべろばあ。んまあ可愛い笑顔。へっへっへっへ』


 ◆


 ◆


 ◆


「ちょっと聞いてる?」


「え? あ、ああうん。ちょっと意識が遠くへ」


 自分の運命の酷さから正解をきっちり導き出した幹也は、走馬灯の様なものを体験してしまい、アリスに声を掛けられてようやく現世に帰還を果たしていた。


「それで裏ってどういう裏? 能力者? それとも表に出てこないような超大物なVIP?」


「両方」


「ゲロゲロ」


『"田舎者"を呼び出しますか?』


(奴は善意でとんでもない大事にするから却下。と言うか呼べるの?)


『東京限定で呼べます』


(ああなるほどね……)


 マスターカードが、後ろ暗い事に対して滅法強い存在の召喚を提案するが、それをすると自分の頭皮が禿げあがると確信している幹也は却下する。なにせその存在ときたら、やってることは本人的に100%善意でも、周りに与えるストレスが尋常じゃないのだ。


「アメリカ暗黒街の帝王も来るみたいです」


「なにその、え、なに?」


「"暴力"って単に呼ばれてる奴。アメリカ裏社会の帝王みたいなものよ」


『ならこっちは"田舎者"の面ではなく"皇帝"の面で対処しましょう。帝王vs皇帝。映画のタイトルみたいですね』


(考えとく……神様助けて……)


 そんな物騒な呼び名がある奴と本当に関わるのか? と、普段は全く当てにしていない神にまで助けを求める辺り、幹也はかなり追い詰められている様だ。


『では神のラインナップを』


(出さんでいい! って一番最初にあの田舎もんを出すんじゃねえよ! それになんだこの召喚条件! 都会の永住権なんてどうやったら発効できるんだよ! そもそも世界が違うわ!)


 しかし、普通なら困った時の神頼みでしかないのだが幹也は普通ではない。マスターカードが自分の脳内に送って来た、神の名前と召喚条件を無理矢理頭から締め出して、何とか話に集中しようとする。


「そ、それで嬢ちゃん達にはそいつら関係ないよな?」


「……微妙」


「です……」


「微妙なのか……」

(この嬢ちゃん達も難儀な……)


 幹也はもう自分はそういう星の下に生まれたのだと悟っていたが、渋い表情をしているアリスとマナも、どうやら平穏な人生とはいかないらしい。


「なんでもその"暴力"が、聖女の血筋をかなり幅広く探してるみたいで」


「多分私らもピックアップされてるんでしょうね」


「ああ……そう……」


 生まれは選べないというが、何百年も前の血筋を辿られてそれでは余計に理不尽極まりないだろう。


「それでそいつ、サミットに来て何するの?」


「それがさっぱり」


「わざわざ裏サミットに参加する事も、アメリカから離れる事も無い人物なので、世界中の、祖先に聖女のルーツに持つ人達は厳戒態勢みたいです」


「だから私達もママ達も、裏サミットが開始される前後は家に缶詰」


(何かあったら総長呼べる?)


『あの時は民間人も巻き込まれてましたからね。聖女の危機だけではかなり厳しいです。出来ればもう2つほど何か起こらないと』


 心底うんざりといったアリスと表情の暗いマナを見て、幹也はマスターカードに、先日召喚したベルトルド総長の召喚条件を尋ねるが、基本的に強者であればある程に召喚条件が厳しくなるため、彼女達が単独で危険に陥ってもそれだけでは召喚出来ない様だった。


『いざとなれば"怒れる力"を召喚して、本当の暴力とはどういうものか教えてもらいましょう』


(なんでお前らはそうやって、呼んじゃいけない状態の兄貴を召喚しようとするんだよ!)


『ジョークですよジョーク』


「それに日にちも開催場所も"暴力"の指定らしいから、絶対何かあるって皆思ってるみたい。そんで日本中の裏が大騒ぎ」


「ええ……そいつ影響力あり過ぎだろ……」


 裏の大物が集まるというのに、一個人が場所も日程も決めれる影響力に幹也は戦慄する。


「それで日時と場所は?」


「日はまだパパも掴めてないみたいだけど、場所は確定してるって」


「静岡でするみたいです」


「そりゃ大騒ぎになるわな……」


 心底うんざりしている幹也だがそれも当然だろう。


 何故ならそこには日本最大級の霊地の一つ。富士山が存在しているのだ。

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