裏サミット1
「てめえ誰に断ってここで商売しとんじゃゴラァ!」
「へ?」
幹也は訳が分からなかった。ちょっと普段とは違う場所で座って占いをするつもりだったのに、やって来たのは客層のOLでもなぜかしょっちゅう来る女の子二人ではなかった。でっぷりとしていてパンチパーマ―で、どう見たって堅気には見えないし、間違っても客なんて言えないような男が、座っている幹也を腰をかがめて威嚇していたのだ。
(ヤ、ヤの付く人だだあああ!)
勿論、生存本能だけは一人前の幹也はすぐに相手の正体に気が付いたし、用件にもすぐに気が付いた。男の言う通り、俗にいう誰に断って商売をしていやがるというやつである。
「すんませんしたー!」
(戦略的撤退!)
「ああ!? てめえ待ちやがれ!」
そんな相手にここは天下の公道だの言うつもりは全くなかった。そもそも話が通用する相手ではないのだ。ならとっとと逃げるのが一番面倒くさくないのである
「ゴラ!」
「のおおお兄貴助けてええええ!」
幹也にとって相手がいかに不養生極まりない体形で、逃げ切るのは確実でも怖いものは怖い。例えそれが宇宙規模での生存戦争に強制参加させられたってである。だからつい、基本的に温和で、基本的に平和主義で、基本的に初手は交渉で入るような、基本的に頼りになる人物に助けを求めてしまう。
「え!? 力さん兄貴呼べるんですか!? ってもう騙されねえぞ! またブチ切れた兄貴を推すつもりだろ! それか"全力全開"の、有人惑星で絶対呼べないような状態の!」
だがその人物、かなり難点があるようだ。今も幹也は全力疾走しながら、自分の脳内に語り掛けている力のカードにツッコミを入れていた。なんだかんだ余裕はありそうだ。
「え、違う!? ならって"いずれ宙の全てを飲み込む怪物"うううううう!? うっそだろ"全力全開"よりまだ上があるんすか兄貴!? って何だこりゃ!? 下手すりゃ現れただけで太陽系潰れちまうじゃん! 呼べるわけねえだろこの大馬鹿野郎! 相手は単なる人間なの! に!ん!げ!ん!」
『単なる人間でも"人類の守護者"なら戦えます。スーパーバフが掛かってますからね。ゲームで例えるなら、相手は絶対ファンブルなのに、こちらは防御力を無視して絶対にクリティカル攻撃とかそんな感じです』
「だから隊長は人間じゃねえんだって! 俺らホモサピエンスと一緒にすんな!」
遂に幹也を憐れんでマスターカードも幹也に声を掛けるが、この状態に全く関係ない話で、ひょっとしたらスプリングだのショットガンシャッフルだのする幹也に、ここぞとばかり畳み掛けているのかもしれない。
『最強決定戦とか興味ありませんか?』
「このボケがあああああ! そんなことしたら宇宙が消えるのがありありと分かるわ! まさかそんな精度であの2人を再現できねえよな!?」
『出来るわけないじゃないですか。多分』
「断言しろやあああ!」
『あ、ディーラーの若紫がやって来ましたよ』
「勝手に俺を光源氏にするんじゃねえ! っていうか本当に出来ないよな!? な!?」
前方に見えてきた顔馴染みの少女達、アリスとマナを巻き込むのはいけないと、マスターカードと漫才を繰り広げながらその脇を通り過ぎようとした幹也だったが、ある意味少女達の方がよっぽど肝が据わっていた。
「あの後ろのデブよろしく」
「私達は幹也さんとお話があるので」
「はいお嬢様。すいませんがお引き取りを」
「ああ!? なんじゃあワレ!」
「少しお話を」
「なにすんじゃむぐっ…………」
「ちょ!? その人一応一般人! 一応!」
路地裏に連れていかれた一応一般人を気に掛ける幹也。それこそ一応。
「ああいうのはちゃちゃっと片付けたほうが楽でしょ」
「埒があきません」
「たまに帝王学っぽい片鱗見せるよね嬢ちゃんたち」
「あんたも片付けれるでしょ?」
「俺、嬢ちゃんたちと違って何の後ろ盾も無い一般ピーポーだから」
『後ろ盾呼びますか? 軍とか』
(隊長と同じで条件厳しすぎて黙示録当日しか呼べねえだろ!)
『数人ですが胃薬だけで大丈夫です』
(……可哀想に)
態々逃げなくても自分で片付けられるでしょうというアリスだが、自称一般人の幹也からすれば、片付ける方法は逃げるかお巡りさんしかなかった。
そんな幹也をやはり哀れに思ったマスターカードは後ろ盾を呼ぼうと提案するが、彼に宇宙と全知的生命体の存亡を懸けて戦った勢力の片方を呼ぶ勇気などなかった。しかも召喚条件が厳しすぎて、呼べるとしたらラッパが吹き鳴らされ馬蹄が轟くその日だろう。
「ま、まあとにかく助かったよ。それで今日はどうしたんだ?」
「ちょっと車に来て」
「あんまり表では話せなくて」
(これは厄ネタの可能性が)
今まで少女達が、表で話せないから車に来てと一度も言った事が無かった。それはつまり、明らかな厄介事、それも魔法とか異能だとかそんな感じの奴だと幹也は察したが、彼は情報が何よりも大事なものだと身に染みている。じゃないと死んじゃうのだ。
◆
「それでなんじゃろか?」
相変わらずリムジンの内装にビビって床に座りたそうな幹也だが、少女達から告げられた言葉にそれどころでは無くなる。
「なんかパパが言うには、裏の連中の大物が日本に集まって会議するみたい。あ、こないだの悪魔とかハイジャックとは関係ないって」
「でも一応幹也さんに知らせておかないとって思ったんです」
『やっぱり呼びますか?』
(そうだな呼ぼう……)
彼は長年の経験から身に染みて分かっている事があった。即ち、そんな事に自分が巻き込まれない訳がないという、酷く悲しい事実を……。
彼は一瞬気絶しそうになりながら、無責任なマスターカードの発言に思わず頷いてしまうのであった。
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