事件後

「助けてくれてありがとう」


「ありがとうございます!」


「はいよ。というか近づいちゃだめなんじゃなかったのか?」


休日の昼過ぎ頃、いつもの様に地べたに座っている幹也の前に、アリスとマナの2人が彼にお礼を言っていた。


「今ちょっと反抗期だからいいのよ」


「そうです! 反抗期なんです!」


「ええ……」


だが幹也の記憶が正しければ、この2人は親から幹也に接触しない様言われていたはずだ。だが彼女達は反抗期だからとよく分からない理由でこの場にいた。


「親御さんと仲悪くなかっただろ」


「マナ的には無しな人を結婚相手として紹介されたんです!」


「そうそう。それに銃突きつけられておしっこ漏らすような男じゃね。だから反抗期。それが分かってるからママとパパもしばらく私達にあれこれ言わないの」


「いや普通漏らすから。誰だって死ぬの怖いから」


一般常識で少女達を諭す幹也だが、ちょっと分が悪かった。なんと言ってもそれに反した行動をしたやつがいるからだ。まあ、社会的なルールも幾つか反しているが、ちょっと彼が関わって来た連中があれなもんだから、幹也もその辺りが非常に緩くなっている。


「あんたはどうだったの?」


「そりゃ勿論怖いさ。人間死ぬ時はあっけなく死ぬからな」

(だけどそれを飲み込んでやらないといけない時があんだよ。この前みたいに嬢ちゃん達を助ける時とか)


「ふーん」


「やっぱりマナが養います!」


「何故ニヤニヤする。何故その結論になる。ほら行った行った。長居したら伊賀さんに怒られちゃうだろ」

(俺が)


自分の発言の何処が気に入ったか分からないが、少女達が長居したらまた護衛達が煩いからと幹也が早く帰そうと思ったが、返って来たのは意外な返事だった。


「あの人降格になったから」


「はい? 降格?」


「そうそう。護衛からだけど」


自分の首にトントンと手を当てているアリスが言うには、なんと降格されたと言うではないか。


「なんで?」


「契約書に不備があったんです」


一応アリスとマナは、幹也を異能と関係ない一般人として扱っているので詳細を言わなかったが、極一部の護衛達が彼女達の親と交わした契約は、いかなる時も能力を含めて護衛するというものであったため、酷であるがシージャック時、異能の露見を恐れて救出に間に合わなかった彼等を降格処分にしてメインの護衛から外したのだ。


「じゃあ今別の人がどっかに?」


「そうです」


「念入りに私達にあれこれ言うなって言い付けてるから、なんかあったら言ってよね。私達が聞いたら一発だから」


「なんも無いがな」

(あんな顔面蹴り位、挨拶みたいなもんだし)


実際顔を蹴られようが、幹也にとってはほんの挨拶としか思っていなかった。比較対象が大口開けた竜や、嵐の様に銃弾飛び交う死地なためやっぱりあれであったが。


「いいわね! こっちも定期的に聞いてるから!」


「絶対です!」


「分かった分かった。何故急に大声を出す」


そんな事を思っていると、急に顔を真っ赤にして声のトーンが上がったアリスとマナに、年頃の娘さんは難しいなと首を振る幹也。


「ちょっと用事が出来たから今日は帰るわね!」


「またこの辺りにいて下さいね!」


「いい? 絶対よ!」


「へいへい」


幹也はそのまま鼻息荒く帰っていく少女達を見ながら、これが年頃の女の子かと首を振ってやれやれと言いたげな雰囲気を出していた。


「護衛にいるなと言われたからまたここにいたけど、いてくれって言われたら別のとこに行きたくならないか?」


『天邪鬼極まりないのはマスターメモリー達の影響ですね。お母さん心配です』


「だぁれがお母さんじゃ!」


『影響は否定しないんですね』


「……みんな自由人だから」


『マスターメモリー達に比べたら、突き抜け過ぎたため国家に雁字搦めにされた様な存在すら、所詮その程度の中途半端な力だと貶められます。最も国家という枠組みに収まっている"森羅万象"ですら、本当の意味でコントロールできる存在が居ないのですから。本当に混じりっけ無し、純粋な最強というものは、危ないから管理する、排除するという発想を放棄させます。まさに触れるべからずなのですよ。ディーラーが真似したらひき肉決定ですね』


「いいこと言ってくれてるけどなんか腑に落ちねえな」


何故か自分の能力に窘められるという未知の体験をしてしまった幹也は、どうも納得がいかないという顔をしていた。


『尤も世間体からは自由ですが』


「うっせえ! 食らえショットガンシャッフル!」


『いだだだだだだだ』


『てめえふざけるんじゃねえ!』『やめろっつっただろうが!』『ぐえ!?』『"怒れる力"呼ぶぞゴラ!』『いった!?』『ぶっ殺すぞ!』『このロリコン野郎死ね!』『光源氏気取りか、ああ!?』『あいたたたた!?』


「ふははは痛かろう」


幹也もやられっぱなしではない。カードを痛める事に定評のある通称ショットガンシャッフルを行い、他のカード達からの悪態を受けながら反撃を行う。


「って何も言わないけど新しい護衛は?」


『感知できません。どうやら本当にあの少女達にきつく戒められているみたいですね』


幹也はマスターカードと冗談を言いながら護衛達が来るまで待っていたが、そのマスターカードが言うにはどうやら本当にアリスとマナに言いつけられている様で、また彼女達と会っても特にリアクションが無かった。


「あの嬢ちゃん達も大変だねえ」


一方その頃アリスとマナは……。

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