追放

『本日は軍事ジャーナリストの坂口さんをお招きしています。坂口さんよろしくお願いします』


『よろしくお願いします』


『早速ですが先週起こった大事件、スーパーロイヤル号で起こったシージャック。これを解決した特殊部隊の姿が少しずつ明らかになってきましたね』


『はい。人質にされた方と犯行グループの供述から、10人もしくは11人程度の部隊という事が分かっています』


『こちらが人質になっていた方々が目撃した特殊部隊のイメージ図になります。なんというか、少し近未来的ですね』


『そうですね。先進的なヘルメットとボディーアーマー、人間工学に基づいた銃など、まさに近未来的な装備と言っていいでしょう』


『少し日本の特殊部隊というより……』


『ええ仰りたいことはよく分かります。私もこれは米軍の装備に近いのではないかと思っています』


『では投入された部隊も?』


『そこが少し複雑でして、いくら人質の方達の社会的地位が高いとはいえ、事件発生から1時間もしない内に、米軍の特殊部隊が日本国内で活動するのはありえない事です。では日本のかと言われたら少々首を傾げてしまう。何と言っても我が国は、自動小銃を持った本格的な武装集団との実戦経験がほぼありません。やるにしても入念な準備をしてからな筈なのです』


『なるほど。そして部隊の練度は相当なものだとか』


『ええ。誰も彼等の声を聞いていないとなると、最精鋭も最精鋭でしょう。意思疎通無しに30人を超える武装集団を制圧し、しかも人質に一切の被害がない。恐らく世界中の軍がシミュレートしてるでしょうが、出される結論は不可能となる筈です』


『しかも電子戦にも長けているのですよね?』


『はい。全くどうやったのか分かりませんが、現場の明かりは完全に消された上、報道のカメラ、犯行グループ達の中継も全て阻害されたのです。天才的なハッカーと凄まじい金額の機材を使用しなければこうはなりません』


『調べれば調べる程謎が増していく特殊部隊ですが、当テレビ局は独自の新しい情報を入手しました。それがこちらになります。階級章と部隊章をたまたま目撃した方の証言により再現したものになります。坂口さんこれについてどう思われます?』


『階級章については分かりやすいですね。これは米軍で採用されている軍曹の物と非常に酷似しています』


『となるとやはり』


『いや、対テロ特殊部隊がわざわざ階級章を付けていると思えません。恐らく欺瞞でしょう。それを言ったら部隊章もあれですが』


『確かにそうですね。ですが一応部隊章の方もお願いします』


『分かりました。これまた英語ですが、人類連合軍第一機動中隊と書かれています。まあやはり欺瞞ですね。そんな軍聞いた事ありません。それと絵の方は多分青薔薇ですね』


『確かに聞いた事ありませんね』


『やはり全く未知の部隊ですね。お化け部隊とか言われる奴です』





「ちょっと待って。11人? 10人じゃなくて?」


『私のログには何も残っていません。本当です。ええ全く』


幹也は最近お馴染みの家電屋でテレビを見ていた。本当に質の悪い事に何も買う気がないくせにである。


「あの人ら電子戦とか出来たっけ? 正面突破のイメージしかないんだけど。それか10人のくせして包囲殲滅。意味分からん」


『出来たんでしょう。ええ』


その上マスターカードと会話している幹也は、はたから見たらひとりでブツブツ言っている男だ。そのうち出禁になるかもしれない。


「ちょっとログ見せろ。なんかおかしいよなあ?」


『ちょっとそんな無理矢理だなんて。お巡りさん痴漢です』


先ほど見ていたテレビの内容がどうも気になった幹也は、ポケットからマスターカードを取り出すと、並んでいた文字列をスクロールして点検する。


「えーっと軍曹殿達は間違いない。はっ!? げっ!? あ、あ、ああああああの2人来てたのか!? 特に隊長とか黙示録当日しか呼べねえだろ!?」


そしてマスターカードに残されていた内容は、幹也の目ん玉を飛び出させるには十分な破壊力を秘めていた。


『"人類の守護者"ではなく"無茶振り野郎"として現れました。それで無茶振りされました。よかったですね愛車で来なくて』


「言ってる場合か! ひょっとしてマスターメモリーってかなり好き勝手出来るのか!?」


『限定的に肯定。その中でも"無茶振り野郎"は特に制御が効きません。ついでに言うとマスターカードと非常に近しいメモリーもです』


「そりゃそうだろう天衣無縫の自由人だからな! って限定的ってどういうこった!? まさか兄貴と隊長がぶっ殺した奴等が好き勝手する事ないよな!?」


『肯定。"竜達の長"、"宙を蝕む者達"等、マスターメモリーに打倒された存在は完全に自我と自由意思がありません』


「焦ったー……」


危うく大貧民どころか、そのまま人類の敵にランクアップするところだった幹也は安堵のため息をつく。もし懸念が現実になった場合、オリジナルのあの箱より更に恐ろしいものが自分の掌に収まっている事になるのだ。


「坊ちゃんとおやっさんは大丈夫だ。あの2人は自分からどうこうするタイプじゃない」


『肯定します』


「……兄貴は?」


『普段のなら大丈夫でしょう。普段のなら。"ダメおやぢ"とか』


「断言しろおおおおおお!」


『"怒れる力"はメモリーカードの最奥に位置しています。その上厳重なセキュリティと共に、解放権限を持っているカードは一枚のみです』


「なんだやっぱりね。それで誰が権限持ってるの?」


ストレングスです。力繋がりですね』


「こぉの馬鹿カードがあぁあああああああああ! 今すぐその権限取り上げろおおおお! 最奥どころか一番浅いとこにいるじゃねえかあああああ!」


よりにもよって一番危ないカードの解放権限を、一番信用ならないカードが握っている事に大声で怒鳴ってしまう幹也。しかしここは店内。当然だが


「お客様、大声は他のお客様のご迷惑になりますので」


「あ、すいません! ほんとにすいません! すぐに出て行きます!」


憐れ幹也。自分の能力に振り回されたこの男は、ようやく見つけた楽園から追放されてしまったのであった。

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