トゥルー

「パパとママがもうあんたと会うなって……」


「ウチもです……」


「いや、もう少し取り繕えよ。最後に会って来なさいとかそんな感じだろ?」


「そうだけど……」


幹也が真っ白に燃え尽きてから早数日、すっかり顔なじみになってしまったアリスとマナの2人を前にして、彼は癖になってしまったカードのスプリングをしながら少女達と話していた。


「大体、俺みたいなのと関わるのはよした方がいいと俺は忠告するね」


「でもあんた私達の命の恩人じゃん……」


「そうです……」


「本当に若いねえ若人よ。それはそれ、これはこれなのさ」


「そう、分かった……」


「伊賀さん……」


「はい」


「どわっ!?」


納得したのかしないのか、暗い顔のままの少女達の横に、またも護衛の男が突然現れる。


「こちら、斎藤様へのお礼となります」


「はん? お礼?」


見ると男の両手には、通常のよりもかなり大きいジュラルミンケースが握られている。


「だからお礼いらねえって言ったじゃん」


「私達のパパとママからです」


「関係ないんだなあこれが」


「合いには来たじゃん。これも面子なのよ」


「それも関係ないんだわ。それはそれ、これはこれ」


「中身はこちらとなります」


埒が明かないと思ったのだろう。伊賀と呼ばれた男は少しだけケースを開けて中身を幹也に見せる。そこにはぎっしりと詰まった札束。


「おっとこれはこれはご丁寧に。では持ち主へお返しください。いいかい嬢ちゃん達、拉致られたんがそこらの鼻たれでも助けるってのは嘘じゃねえんだわ。そんでもってこれ受け取ったら嘘になる訳よ。勝負を宣言した後に出した札は嘘付いちゃいけないわけ。出す前のブラフはいいけどな。オーケー?」


「本当ですか?」


「何が?」


「私達が西園寺と扇じゃなかっても助けたの?」


「勿論。当然」


何か理由が必要なのか。


「お金いらないんですか?」


「その日の食事とちょっと匂わない程度の服だけありゃいい。寝床とシャワーがありゃあ完璧ってだけさ」


満ちるを知る。足るを知る。


「私達がまた危なくなったら助けてくれる?」


「はいはい助ける助ける。でも怪我したくないから危ないとこ行くんじゃねえぞ」


全てを救えるなどと自惚れてはいない。しかし助けを求められたなら応える。


「分かった。いいマナ?」


「はい。伊賀さんお礼は仕舞っておいてください」


「よく分からんが満足したかい?」


「ええ」


「はい」


どこか満足げな少女達に。よく分からんがそりゃよかったと頷く幹也。妙な一期一会で出会った少女達であったが、最後の別れが満足ならそれでいいと思っていた。


「はい1000円。占って」


「何でございましょうか!」


思っていたが、アリスがぴらりと出したお金につい土下座してしまう。さっきまでの発言と違うように思えるのだが、幹也に言わせると金額分のサービスは提供しているからとなるらしい。


「その前に、前回占いの結果もう一回言って貰える?」


「司祭長と力だったので、勇気、愛情深いとかそんな感じです!」


実際は死神なんて言えるわけがない。だが、死神を意図的に外したらそうなったので、ある程度よしとしようではないか。


「ふーん」


「それじゃあこれから私達が行くところ、どんな人が多いか占って欲しいんです」


「畏まりました! どうぞ適当にお引き下さい!」


「それぞれ引いていい?」


「どうぞどうぞ!」


先程までの、しょうがないお嬢さん達だぜと言った雰囲気はどこにもない、ただの資本主義の犬がそこにはいた。もし万が一幹也に恋人がいたら、5年来の恋でも覚めるだろう。


「じゃあこれ」


「私はこれ」


「拝見させて頂きます! んん?」


少女達が引いたカードを見た幹也が首を傾げる。出た結果がかなり少女達には合わないものだったからだ。


「月の正位置、嘘つき。太陽の逆位置、結婚トラブル。嬢ちゃん達、詐欺師の婚活パーティーにでも参加するんか?」



(ふーむ。苦虫を噛み潰し顔とはあんな顔だろうな)


幹也は、最後に見る顔には相応しくない表情をした少女達を思い出す。

アリスもマナもまさに苦り切った様な表情を浮かべていたのだ。


(嘘、利益、利用。それと政略結婚とか家同士の結婚結婚。まあそんなとこだな)


彼女達が去ってからカードの意味を考えていた幹也は、上流階級同士の親しいやり取りを想像して結論付ける。


(まあ流石に俺がどうこうできる問題じゃない)


『ディーラーを中心とした認識阻害系の発動を確認』


(やっぱりね)


上流階級には上流階級の悩みがあるんだろうと考えていると、マスターカードから警告が発せられた。しかし、それを幹也は予見していた。


「斎藤様お話が」


「ぬおっ!?」


予見してようがビビるものはビビるものだ。その原因が複数いれば猶更である。


(こいつらあ脅してやがるな)


伊賀と呼ばれていた男だけでなく、複数の体格のいい男達に囲まれるも、彼等の要件は分かっていた。


「分かってます分かってます。あの嬢ちゃん達には近づきませんよ。というか護衛の皆さんが止めたらいいでしょうが」


「それはよかったです。我々も手間が省けました。ですが一応警告しておきます」


「ごっ!?」

(いってええ! はあやっぱりな)


「それでは失礼します」


座っている幹也の顔に、強力な蹴りを叩き込んだあと男達は去っていく。


(全く、ごねてもっといい金額を引き出そうとしたようにでも見えたのかね? やだやだ暴力の世界に生きてる連中は。兄貴でも家族に害が無いなら、初手は話し合いで済まそうとするのに。おまわりさーん、暴力振るわれましたー。もみ消されて終わり! そのままマグロ漁船!)


痛さに涙が滲んでいたが、そんな事しょっちゅうだった彼の人生を考えればいつもの事だった。


(さて、もう仕事する気にはならねえな。どうすっかな。適当に歩いてみるか)


だが流石にこのまま仕事する気にはなれず、立ち上がって腰を反ると普段は行かない方面へ足を進める。


(お、おお、おおおおおおお!)


そこで彼は聖地を発見するのであった。

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